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第12話 モミジ必殺剣

「あっしのこたあ、モミジと呼んでおくんなせえ」


 今まで伏し目がちでオドオドしていたカエデさんが急に豹変してしまう。

 自分の事をあっしと言うのにもあっけに取られたが、今度はモミジと名乗り出した。


 同じ声なんだけど、明らかにキャラが違う。

 二重人格なのか。


「補助魔法をかけた瞬間に性格が変わりました」


 そばにいたアミシアさんにはそう見えたようだ。

 パワーアップして、テンションが上がって気持ちが大きくなる、ってのはなくはない話だ。

 でもこれは気持ちが大きくなるってレベルじゃない。


 カエデもといモミジさんは、剣を鞘に収めたまま握っていた。


 そのまま、前に進むとゴブリンの一体が飛びかかって来る。

 そのゴブリンとすれ違いざまにモミジさんは剣を抜いた。


 細く長い剣。

 ポントーだ。


 武器を抜くのが遅いんじゃないか。僕はそう思っていた。

 しかし、次の瞬間、ゴブリンは上半身と下半身をまっぷたつにされて、倒れていた。


「今宵の必殺剣はよく斬れる。

 粋だねえ」


 モミジさんは何やらつぶやいている。

 ちなみに真昼間だけど。


 しかし、その剣技の鋭さは本物だ。

 そう言えばサムライの剣技には剣を抜きながら攻撃を仕掛けるものがあるという。

 きっとそれだ。


 その後もモミジさんはポントーでゴブリンと交戦していた。

 ゴブリンの攻撃をやすやすとかわし、一刀のもとに切り伏せる。


「粋だねえ」


 あっと言う間に数体のゴブリンが倒された。


 これなら彼女を頼りにしてもよさそうだ。


「ライトニングラビティー!」


 ぼくも魔法でゴブリンを攻撃する。

 何しろ数が多い。


 しかし、


「いってえな!」


 ヒューゴー君の腕に矢が刺さっていた。

 頑張って敵を倒していたが、ちょいちょい傷を負わされている。

 ディフェンスの魔法がなければ結構な大怪我をしているところだろう。


「ヒューゴ!」


 アミシアさんが回復魔法をかけるためにヒューゴー君に近づこうとする。


「僕がいきます」


 僕はそれを制止する。


 そして、両手の拳を握りしめる。


 まずは左手を開き、前に、ヒューゴ君の方向に突き出す。


「ヒーリン……!」


 そして、次に右手を広げ、ゴブリン達に向かって突き出す。


「グラビティー!」


 ヒューゴ君に回復魔法の光が、ゴブリン達に重力波が飛んで行く。


「二つの魔法を撃ち分けられるたあ、粋だねえ」


 モミジさんが感心している。


 そう。

 しりとり魔法の二つの魔法の対象を分けられる事はすでに確認していた。

 粋かどうかは分からないけど。


「リンクスさん。魔法使いなのに回復魔法もできるんですね」


 アミシアさんも驚いている。

 とにかく僕は昔から、魔法の習得数だけは多かったのだ。


 そんなこんなで戦局はまずまず有利に進んでいた。


 モミジさんは滅法強かったし、ヒューゴ君もちゃんと敵を押しとどめている。


 僕自身も普段はライトニングラビティ。

 ヒューゴ君やモミジさんが負傷したらヒーリングラビティ。


 きちんと戦線が形成され、それを前進できていた。

 いい感じだ。


「それにしても、これだけ魔法を使い続けられるなんて」


 アミシアさんが驚いている。


 何しろ呪文がしりとりになっていれば消費MPは0だ。

 この継戦能力もしりとり魔法の売りのようだ。


 数十体からいたゴブリンだったが、数が少しずつ減って来る。

 どうにか依頼達成できそうだ。


 そう思った矢先だった。


「どうだ!

 おれだってやればできるんだぜ!」


 周囲の敵を蹴散らしたヒューゴ君がアミシアさんの方を向いて叫んだ。


「調子に乗らないの」


 アミシアさんも回復魔法をかけようとして、彼に近づいていく。

 その時だった。


 丘の上から新たなゴブリンが現れる。

 それは一回り大きなゴブリンで弓をつがえていた。


 一回、ヒューゴ君が矢傷を負った際に気付くべきだった。

 弓を扱うゴブリンの姿は見ていない。

 隠れているリーダー格がいたのだ。


 大きなゴブリン。

 ホブゴブリンだ。


 弓矢はヒューゴ君を狙っていたが、アミシアさんに話しかけていた彼には見えていなかった。


「危ない!」


 とっさの状況に気が付いたアミシアさんはヒューゴ君に駆け寄る。

 そして、


「姉ちゃん!」


 崩れ落ちていくアミシアさん。

 ヒューゴー君の身代わりになって矢を受けたのだった。


「ヒーリングラビティ」


 回復魔法と重力波。

 僕はしりとり魔法にしないと魔法が使えない。

 ホブゴブリンに重力波を放ったが、距離も離れていたせいか回避されてしまう。


 しかし、重要なのは回復の方だ。

 矢も取り外し、傷口もふさいだ。


 ところが、アミシアさんはまだ苦しそうだ。

 意識も朦朧としている。


「どうしたんだ、姉ちゃん!」


 これはどうやら、矢に毒が塗られていたようだ。


「お前、毒消しの魔法は使えないのか!?」


 僕に詰め寄るヒューゴ君。


「アンティポイズンの魔法なら習得しているよ」


 僕のステータスウィンドウの魔法リストの中にアンティポイズンは間違いなくある。


「じゃあ姉ちゃんを助けてくれよ!」


「…………。

 習得しているけど使えない」


「何言ってんだよ!」


 憤慨するヒューゴ君。

 しかし、僕は静かに事実だけを伝えた。


「しりとり魔法は最後が『ン』になってはいけないんだ」

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