第11話 困った仲間達
「うおらあああああっ!」
討伐対象のゴブリンの集団を発見した僕達。
奇襲をかけるべく、気付かれないように近づこうとした。
ところが、ヒューゴ君は雄叫びを上げながらゴブリン目掛けて丘を駆け上がって行ったのだった。
「ええっ! 何で!?」
槍を持って突進するヒューゴ君。
しかし、近づく前にゴブリン達に気付かれてしまう。
驚いたゴブリン達は、丘を飛び降りて逃げて行く。
「ライトニングラビティ!」
「ライトニングラビティ!」
「ライトニングラビティ!」
「ライトニングラビティ!」
「ライトニングラビティ!」
僕は慌てて魔法を放つ。
落雷と重力波の同時攻撃がゴブリン達に命中する!
しりとり魔法の威力は抜群だ。
「すごいです!」
カエデさんが驚嘆している。
二種類の魔法を同時に受けたゴブリンは絶命する。
しかし、
「まずいね」
倒したゴブリンは四体。
慌てて撃った攻撃は一体外してしまう。
一体はもう遠くに逃げてしまっていた。
「ヒューゴ! なんでリーダーの言う事を聞かないの!」
アミシアさんはヒューゴ君を叱る。
「敵を倒さないとレベル上がらないじゃねーか!」
ヒューゴ君は不満そうだ。
「大体何で万年Fランクだったコイツがリーダーなんだよ」
「ごめんなさい、皆さん。
この子はいつも協調性がなくって」
これが彼がなかなかランクの上がらない理由だったようだ。
「こんな奴にペコペコすんなよ!
大体姉ちゃんの方がDランクでランク上なんだから、姉ちゃんがリーダーやれよ」
「あなたはわたしの言う事だって聞かないでしょ」
「おれはこんな奴にリーダー面されんのも、手柄を取られるのも嫌なんだよ」
ヒューゴ君の不満は収まらないようだ。
「くそっ!」
ヒューゴ君はゴブリンの逃げた方角へ。
「待ちなさい! ヒューゴ」
追いかけるアミシアさんだが、
「いいんです。このまま進みましょう」
僕はアミシアさんに言って、歩き出す。
「あのゴブリンが巣に戻ったらどっち道戦いになります」
はしっこいゴブリン達が追って来れば恐らく逃げ切れない。
相手をするのは避けられない。
だったらしっかり迎撃するしかない。
「怖いです……」
怯えているカエデさん。
鞘に入った剣を抱きかかえている。
「その剣……。カエデさんはサムライなのかな?」
「はい……、そうです」
細く長い鞘に入った剣。
通常のロングソードではないだろうと思っていた。
あれはサムライと呼ばれる戦士の武器だ。
「これはポントーです」
そう。ポントーだ。
打撃力はないが、鋭い切れ味を誇るサムライの専用武器。
「って事はポントーの技も使えるの?」
「はい、わたしの家は代々ポントー術の道場をやってるんです」
って事はカエデさんも本当は強いんだろうか。
「でも戦いなんて怖いです……」
ガタガタ震えている姿からは想像つかないけど。
「ヒューゴ君。待つんだ」
ヒューゴ君に追いついた僕達。
「何だよ。怖いならすっこんでろよ」
彼は歩みを止めず、前に進む。
「そうじゃない。
ここは戦うしかないんだ」
アミシアさんとカエデさんも僕に続いている。
「補助魔法をかけるから止まってくれ」
ようやく歩みを止めるヒューゴ君。
「補助魔法も使えるのか?」
「種類だけはたくさん覚えてるんだ」
僕は両手の拳を握りしめた。
補助魔法のしりとり魔法を使う。
まずは左手を開き、前に突き出す。
「ディフェン……!」
そして、次に右手を広げ、突き出す!
「ストレングス!」
青い輝きと赤い輝きがヒューゴ君に向かって行く。
「おおおお!」
みなぎる力に声を上げるヒューゴ君。
攻撃力と防御力を高めるしりとり魔法だ。
「やってやらあ!」
槍を構えるヒューゴ君。
そして……
遠くの山岳地帯から無数の影が。
奇声を上げながらゴブリン達が現れる。
逃がした一体が、巣から仲間を集めて戻って来たのだ。
十体以上いる。
すぐには人数が把握できない。
そして、あの素早さからは逃げられそうにない。
倒さなければ生き延びる事はできないだろう。
「おりゃあああ!」
突進して行くヒューゴ君。
「カエデさんもお願いします」
「こ…こわいです……」
女の子を前に立たせるのは気が進まないが、彼女は戦士の一種、サムライだ。
ここは頑張ってもらうしかない。
「魔法でサポートするから何とか頑張って!」
彼女を奮い立たせようと試みる。
「ディフェンストレングス!」
「ディフェンストレングス!」
「ディフェンストレングス!」
自分とアミシアさんとカエデさんにも魔法をかけた。
「くらええっ!」
ヒューゴ君の掛け声とゴブリンの悲鳴。
見ればヒューゴ君がゴブリンを一体仕留めている。
「食い止めてくれれば僕が魔法で倒しますから」
振り返ってカエデさんに指示を出す。
ところが、
「そうケチくせえ事を言うもんじゃねえぜ、旦那」
不意に聞こえたその言葉は間違いなく、目の前のカエデさんからだった。
カエデさんの声だ。
しかし、さっきまで伏し目がちでおどおどしていたのに、今は不敵な笑みを浮かべてふんぞり返っている。
旦那……?
カエデさんは腕組みをしながら、あごに手を当てていた。
しかし、ゴブリン達を一瞥して剣に手を掛けた。
そして、そっちに向かって行く。
「ここはあっし任せてくだせえ。リンクスの旦那」
あっし……?
「あっしのこたあ、モミジと呼んでおくんなせえ」
カエデさんの様子が変わった。
あと、名前も。




