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第96話 最後の戦い①

 余裕を崩さないアノニマス。

 出し惜しみは無しだ。

 全力で行く。


 しかし広範囲の攻撃を使用すると城を巻き込んでしまう。

 どうすべきか……


「!?」


 そんな風に考えていると急に景色が歪み始め、一瞬で知らない場所へと移っていた。

 真っ暗な雲が広がっているところを見ると、ダ・ルーズエリアのどこかなのだろうけど、何が起こったんだ?


「お友達たちのことが気になって全力を出せないみたいだからね。場所を移してあげたよ」

 

 どうやらアノニマスの仕業だったようだ。

 相も変わらず余裕たっぷりの顔をしている。

 俺はカチンとし、全力で【火術】を放つことを決めた。

 覚悟しろ。


「それはわざわざありがとう。でも、ここでさよならだ……【エクスプロージョンノヴァ】!」


 景色が赤色に染まる。

 爆発音と衝撃が世界へと広がっていく。

 これでどうだ?


 炎が徐々に収まっていき、アノニマスがいた位置へと視線を向ける。

 

「…………」

「面白い魔術だ。彼が創ったスキルというわけだ」


 しかし傷はおろか、服一枚にも一切の変化が見られない。

 今ので倒せるとは思っていなかったが、無傷とは。

 こちらの予想を遥かに上回る強さということか。


「【閃光】!」


 巨大な光線を放ち、アノニマスを一瞬で飲み込む。

 だがこれもアノニマスには通用しないようで、微笑を浮かべたまま口を開く。


「これが君の限界かい? だとすればこちらの想定内……ガッカリもいいところだよ」

「まだこんなものじゃない!」


 苛立ちを覚え、俺は感情を爆発させて【集中】を発動させる。


「落ちろ!!」


 【火術】と【土術】を合成し、数多の隕石を奴に向かって落とす。

 さらに【召喚】で属性を付与したモンスターたちをアノニマスに向かって解き放つ。


 激しい衝撃が地響きを起こし、さらにモンスターたちの追撃が奴に襲い掛かる。


「少しはやるみたいだけど、やっぱりその程度か」

「なっ……」


 また無傷。

 それにいつの間に10以上いたモンスターたちも一瞬で処理されてしまっている。

 何をやったのか、どんな手を使ったのか、それすらも分からない。

 こいつは控えめに言っても化け物だ。


 俺は固唾を飲み込みながら駆け出す。

 一直線に行ったらあっさりとやられてしまう。

 迂回しながら、相手の隙をつくんだ。


 アノニマスの左手に回り込もうと全力で走る。

 奴は俺の動きを警戒することもなく、ただ前を向いているのみであった。


 完全に舐められている。

 完全に俺を弱者と位置付けている。

 完全に俺を敵と見ていない。


 【集中】と【黒天】を発動させ、背後から【魔剣】を振り下ろした。


「これでどうだ!」


 【魔剣】がアノニマスの頭部を叩き割る。

 そう思っていたが、その刃は奴に届くことなく、その寸前と見えない歪みに飲まれ、消滅してしまう。


「何だ!?」

「ははは。この能力に名前は付けていないんだけどね」


 俺は消滅する魔剣を手放し、アノニマスから距離を取る。

 呆然として奴を見据える俺。

 アノニマスは依然として微笑を浮かべるだけだ。


「一言で言えば、完全防御。君がどれだけの攻撃力を持とうとも、これを突破することはできない」

「な……そんな能力が……」

「驚いたかい? 少しはサプライズになったかな?」


 サプライズどころじゃない。

 絶望感が胸を支配していく。

 絶対防御ってことは……何をやっても無駄だってことか?

 そんな……そんなことがあるのか?


 いや、まだだ。

 まだ全てを試したわけじゃない。


「【閃光】!」


 俺はスローモーションの世界の中で走る。

 あいつの後ろからもう一度全力で攻撃を仕掛ける。


「無駄なんだけどな」

「!!」

「【閃光】の世界は俺にも知覚することができる。普通に走っても同じだから、無駄使いはやめておいた方がいいんじゃないかな?」

 

 俺は焦る気持ちでアノニマスの後ろ側につく。 

 やはり振り向きもしない。

 絶対負けないとでも思っているのか?


「【混沌たる風の魔剣(ストームブリンガー)】!」


 【風術】と【魔剣】を合成した力。

 これならどうだ!


 吹き荒れる嵐の中、風神の力を全力で叩きつける。


「あはは。気が済んだかい?」

「……嘘だろ」


 風は奴に飲み込まれるようにして消滅していく。

 また見えない壁に阻まれてしまった。


「君が100万の力、1億の力を持とうとも、俺の前では無意味なんだよ。0にいくつかけても0になるようにね。そして――」

「!?」


 アノニマスが右手をこちらに向ける。

 俺はゾクリと嫌な予感を覚え、咄嗟に相手と距離を取る。


 するとさっきまで俺がいた位置に、漆黒の闇が広がっていき、空間を飲み込んでいく。

 それはまるでブラックホールのようだった。

 あんなもの喰らったらひとたまりもない。


「これが俺の攻撃だ。あらゆる防御が意味をなさない、絶対攻撃」

「絶対攻撃だと……?」

「ああ。絶対防御に絶対攻撃。何をやっても君の攻撃は通用しないし、何をやってもこちらの攻撃を防ぐことはできない。無駄なのさ。今こうして君が抵抗している時間が無駄なんだよ。だからさっさと諦めて、消去(デリート)されてくれ」


 こんな奴にどうやって勝つんだ……

 いや、勝てない。

 こいつは上位の存在なんだ。

 奴らの創った世界で生きる俺には、奴に勝てる術は無いんだ。

 アノニマスの言う通り、全てが無駄なのだ。


 俺はそう悟る。

 しかし――


 諦めない。

 何があっても諦めない。

 こんなふざけたような奴に負けるわけにはいかない。

 俺は骸骨の仮面をかぶり、心を落ち着かせていく。


 絶望を誤魔化すように。

 希望にすがるように。


 冷静に奴と対峙する。


「まだやるのかい? 時間の無駄なんだけどな」

「無駄なことなんてこの世界にはない。最後まで生きるための抵抗をしてやる」

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