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第92話 司と円

 暗闇の雲が広がる下、大きな城を見上げる俺たち。

 

 戦う覚悟は決まっているのだが、中々足を踏み出せず、城の入り口付近で立ち止まっていた。


「……そろそろ行くか」


 勇太の声に頷く由乃たち。

 俺は皆の一歩下がった場所から口を開く。


「俺はここで待ってるよ。とてもじゃないけど、【戦士】程度じゃここから先は役に立てそうにない」

「司」


 勇太は俺に手を差し伸べてくる。

 俺は勇太と握手をし、無事でいられるよう、その手に祈りを込めた。

 すると由乃たちは握手する俺たちの手の上に手を重ねてくる。

 俺たちは静かに頷き合い、真っ直ぐな目で見つめ合う。


「皆、無事でいてくれ」

「おう! 死んでも俺が皆を守るから安心しろ!」

「磯さんも死なないでくれ。皆一緒に帰ろう」

「うん。皆死なない。生きて元の世界に帰る」

「そうです。生きて、未来を生きて行きましょう」

「じゃあ、行ってくるよ、司」


 俺から手を離す皆。

 俺は心からの祈りを込めて、皆を送り出す。


「気を付けてな」


 俺に手を振り、城へと侵入していく勇太たち。


 俺はため息をつき、その場で静かに立ち尽くしていた。

 きっと管理者がここにやって来るはずだ。

 勇太たちは最後の戦い……決着をつけに、勝負をつけに来る。


 勇太たちは勇太たちの成すべきことを。

 俺は俺の成すべきことを。

 そして、あいつはあいつの成すべきことを…… 


 ◇◇◇◇◇◇◇


 チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえて来る朝。

 司は一睡もすることなく、カーテンの隙間から見える光を見据えていた。

 円はベッドで司の手を握りながら眠っており、穏やかな表情をしている。


「ん……おはよう」

「おはよう、円」


 円は寝ぼけ眼で起き上がり、ベッドの横で座る司の背中に抱きついた。

 首に手を回す円の手を握る司。


「……正直、円が無事なら世界なんてどうなってもいいって思ってる。それぐらい今ビビってるし、戦いたくない。別に塔を攻略しなくたってお前を守り続けることはできるからな」

「うん……」

「確かに大きな力は手に入れたみたいだけど、だからって戦う理由、命をかける理由なんてない。わざわざ怖い目に遭うこと、ないよな?」

「私も司が無事なら嬉しい。私も司がそんなところに行く必要ないと思う」


 苦笑いする司に円は続ける。


「でも……皆が幸せならもっと嬉しい。私たちだけ逃げ続けることはできるかも知れないけど、皆で笑い合える未来の方がずっといい」

「俺に神の塔に行けっていいたいの?」

「そんなことは言ってないけど、ちょっと思ってる」

「ごめんだね。困ってる人を助けるぐらいはできるけど、他人のために命をかけるなんて、俺の性に合わないよ。何事にも慎重に。危険な場所に足を踏み入れるなんて、バカのすることだ」

「…………」


 司は円の手をほどき、スッと立ち上がる。


「だけど……」

「だけど?」

あいつ(島田司)、言ってたからな」

「?」


 円は可愛い顔をキョトンとさせ、司の顔を見上げる。

 司は胸の内から湧き上がる熱い感情を覚えながら円に言う。


「この世界をなんとかするって」

「うん。言ってた」

「あの天野って女の子が言ってたよな。俺にも意味があるって……俺が俺である意味。この力を手に入れ意味……俺の成すべきこと……」


 司は力強く頷き、真っ直ぐに円を見つめている。


あいつ(島田司)の約束は(島田司)が果たす。この世界は、俺が何とかする」

「司、カッコいい」


 ポッと顔を赤くした円は司に抱きつく。

 司はそんな彼女の体に手を回し返す。


「それに円も、皆で笑い合える世界の方が嬉しいって言ってるしな。俺はお前が喜ぶことをしたい。円が皆と笑い合える未来を取り戻すよ」

「うん。ありがとう司」


 司は腕の中にいる円の温もりを感じながら、申し訳なさそうに言葉を吐き出す。


「円。こんな俺と一緒にいてくれてありがとう。でもさ、俺が嫌になったらいつでも出て行ってもいいんだぞ」


 普段、あまり表情を変えない円も少しムッとして司を見上げる。


「私は司とずっといる。そのために司は行ってくれるんでしょ?」

「俺とはその、助けた恩を感じてるから一緒にいてれてるんじゃないのか? もう顔だって元通りなんだし、気をつかわなくたっていいんだぞ」

「最初はそうだったかも知れないけど……今は違う。私は司といたい。大やけどした顔でも受け入れてくれた司が嬉しかったし、好き」

「そっか……ごめん。変なことを言って」

「うん」


 背の低い円はつま先で立ち、司に優しく口づけをする。

 司はその行為を受け止め、果てしないときめきを胸に感じていた。


 長い口づけが終わり、顔を離す二人。


「昨日は外に出るのも怖かった。今日はさらに化け物たちの下まで行かなきゃいけないんだよな。怖く怖くて足が震えてくるよ」


 円はそんな震える司の体を愛しそうに抱きしめる。


「大丈夫。私がいる。私は司と一緒にいたら無敵。怖いことない」

「俺は怖いけど、円がいたら大丈夫だ」


 司は自分の目にかかる髪を見上げ、円にハサミを渡す。


「髪、切ってくれないか? 人前に出ることになるかも知れないし、少しぐらいは見た目にも気を使わないと」

「分かった」


 穴を開けたゴミ袋をかぶり、円に髪を切られる司。

 ジョキジョキと大雑把に髪を切る音が部屋に響く。

 二人の表情は、覚悟が決まった戦場に向かう戦士のものとなっていた。

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