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第90話 司と司の会話③

 驚愕する司に、もう一人の司が声をかける。


(おい、どうしたんだよ? 何かあったのか?)

「あ、いや……ステータスが」

(ステータス?)


 ステータス画面を凝視し、そのありえない数字に混乱したままの司。

 ここで円が自分のステータス画面を司に見せる。

 表示されている数字はAGIが10程度の、いたって普通の物。


 司はそれを見て、自分の驚愕すべきステータスをもう一度凝視する。


「や、やっぱり高いよな……こんなの、メチャクチャだ」

(ステータスが? どれぐらいの数字になってるんだ?」

「攻撃力なんか12000超えだよ」

(12000って……ちょっと待ってくれ)


 司は冷静になろうと、目の前に置いてあるコーヒーを飲もうとそれを手に取る。

 その時ギュッと力を入ってしまい、なんとマグカップが粉々に砕け散ってしまう。


「うおっ!? なんだよ?」

「コップが割れた……なんで?」

「し、知らないよ」


 円はキッチンへこぼれたコーヒーを拭く物を取りに行く。

 司は砕けたマグカップと自身の手を見下ろしていた。


(なあ、HPの数字は19000になってるか?)

「え、ああ。そうだけど……」

(やはりそうか……どうやら俺のデッキとお前のデッキ、リンクしてるみたいだ)

「リンクって……一緒ってことか」


 円が濡れた床を拭き始めると、司は割れたカップを集めていく。

 まだ戸惑う司に円が抑揚の少ない声で言う。


「司、力が強くなってる。だからコップが割れた」

「そ、そうなのか? そうなのかな」


 試しに割れた破片を持つ指先に力を込めると、麩菓子のように簡単にパラパラになり、粉となってしまう。

 自身の力が超人的な物になっていることに、混乱する司。


「これは……ステータスの影響か? 何でこんなことになったんだよ」

(……なあ。その力があれば、お前の世界を救うことだってできるんじゃないか?)


 もう一人の自分の声に、ギクリとする司。

 確かにもう一人の司の言う通りだが……自分にそんなことをする勇気なんてありはしない。

 司は慌てふためき返事する。


「ち、ちょっと待てよ。いきなり強くなったからって戦えるわけないだろ? まだ一回も戦ったこともないし、喧嘩だってしたことないんだぞ? それにこれだけの力があったとしても、化け物たち相手に勝てる保障なんてないじゃないか」

(保障なんてあるわけないだろ。俺だって勝てるかどうか分からないけど戦ってるんだ。もし勝てなかったとしても、やるしかないんだよ)

「そんな……俺には無理だ」


 外でのことを思い出す司。

 怖い。

 純粋に怖い。

 あの化け物たちと対峙するなんて、そんな恐ろしいことできるわけがない。


 俺には無理だ。

 怖がっている間にやられて終わりだ。


(今、そっちの世界を何とかできるのはお前しかいないんだ。分かるか? お前なら、円を助けることだってできるかも知れないんだぞ?)

「円……」


 司はハッとし、円の可愛らしい顔を見つめる。

 円は司の視線に気づき、キョトンとしていた。


「司?」

「…………」


 司はもう一度ステータス画面を開き、ゴクリと息を飲む。


「……一度力を試してみたい。カードの確認をしてみる)

(!! やる気になったのか!?)

「や、やる気になんてならないけど……どれぐらいの力があるか知っておきたいんだよ」


 司は所持しているカードを確認していく。

 そこには驚くほどのカードが表示されており、何を選べばいいのか困るほどであった。

 

「カードは色々あるけど、特別凄そうな物は無いな……」

(……ちょっと待ってくれ。試したいことがあるんだ)

「?」


 司はもう一人の自分の言葉に従い、何もせずにカードを眺めて彼がまた声をかけてくるのを待った。

 円は床を拭き終え、司の背中に抱きつく。

 その柔らかい体を背中に感じるも、司は静かにカードを眺めていた。


(なあ、デッキを確認してみてくれないか)

「あ、ああ」


 島田司

 HP(A) 19000 MP(C) 7000

 STR(A) 12666 VIT(C) 7000

 AGI(B) 10500 INT(B) 10000

 LUC(A) 12666


 時空勇者 火術Ⅴ 水術Ⅴ 風術Ⅴ

 土術Ⅴ 潜伏Ⅴ 魔力消費0 鉄の剣


「カードが追加されてる……お前がカードをセットしたのか?」

(ああ。そうか。カードもリンクしてるみたいだな)


 自分が所持している物よりも高い性能を誇る8枚のカード。

 これがあれば、もしかしたら化け物たちと戦えるのか……?

 だが、勝てる確証がなければ……と、葛藤する司。

 

(魔術の発動に時間はかかるけど、効果は絶大なものになっている。【時空勇者】は扱えるかどうかは賭けだが、もし扱えたなら、魔術以上の効果を期待できるはずだ)

「そ、そうなのか……とにかく外に出て力を試して来るよ」

(分かった。じゃあ1時間後にまた連絡を入れる)

「ああ……」


 プツンとテレビを切った時のような音が頭に響く。

 司は背中にいる円をゆっくりと抱き寄せる。

 間違って彼女を潰してしまわないように、優しく優しく。

 

 円を抱くその手は震えており、彼女もまた司の体を優しく包み込む。


「大丈夫。私も一緒に行く。今は外に化け物もいないし怖くないから」

「……ありがとう、円」


 外には出たくない。

 だが、円の、自分の未来がかかっている。

 そんな彼の怖がる気持ちを和らげてくれる円。

 とうとう決心した司は立ち上がり、円と手を繋いで共に歩き出す。


 司は爆発しそうな心臓を押さえながら、彼女と共に玄関を出るのであった。

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