第74話 これからのこと
「うーん」
【帰還】で由乃の家の前へと戻り、俺は大きく伸びをした。
天気はいいしのんびりと一日を過ごすことが出来そうだ。
モンスターを狩ってレベル上げもいいけど、たまには息抜きも必要だよな。
「司くん」
「何だ?」
由乃が真剣な表情で俺を見つめてくる。
俺はドキッと胸を高鳴らせ、彼女と視線を合わせた。
「あの……司くんが来た世界の魔王、でしたっけ? それを倒してこっちに来ることはできないんですか?」
多分、由乃は向こうの面倒事を済ませてこっちに永住してほしい、なんてことを言っているのであろう。
確かにそれも悪くないかも。
なんて思いながらも、俺は考えていることを口にする。
「魔王……俺なら勝てるんだろうけど、絶対に横やりが入ると思うんだよ」
「横やり?」
「ああ。管理者なんて名乗っている連中だよ。後どれぐらいの人数がいるか分からないけど、そいつを俺が倒そうものなら、なりふり構わず俺を止めに来るはずだ。あっちにいる由乃たちを人質に取られるかも知れない」
「では、向こうの私たちをこちらに連れて来るというのは? それなら安全じゃ?」
由乃は必死に解決策を提案するも、俺は冷静に起こりうる可能性のことを思案する。
向こうの世界とこちらの世界。
根本的な部分は同じような気がする。
誰かが世界を管理し、人間の戦いを観測して愉しんでいるんだ。
もし、二つの世界を管理している者が同一人物だとするなら……皆をこちらに連れて来ても、結局危険なのは変わらないだろう。
こっちに来た皆を人質に取られてそれで終わりだ。
管理している者が別だとしても、俺にこうして世界を渡る能力があるということなら、同じようにこちらに移動する力があったとしても不思議ではない。
結局のところ、逃げ切ることは不可能だと思う。
だとすれば、ある程度ルールに従って行動している方が皆は安全なのではないだろうか?
俺がサポートしているとはいえ、順当に魔王へと近づいている勇太たち。
彼らは俺みたいにチートじみた能力を持っているわけでもないし、管理者たちだって俺の命だけを狙っている。
だから俺が魔王を倒すのではなく、勇太たちに任せておけば、結局のところ皆は安全なのだと思う。
俺が死ねば全部解決なんだろうけど、だからと言って死ぬのはごめんだ。
皆を危険な目に遭わせず、俺も死なないようにする。
ルールを守りつつ自分の身を守るという、今の流れのままに進むのが一番なのではないだろうか。
「皆はこのまま冒険を続けている方が安全だと考えているんだ。無理にこちらに連れて来ても、かえって危険な気がする。あいつらは俺がどこにいても、隠れていても簡単に探し当てることができた。別の世界に来ていたとしても、簡単に見つかってしまうと思う。今だって俺がここにいることを把握してるんじゃいかな?」
「じゃあ、また向こうの世界で過ごすことになるんですね」
「そういうことになるな」
分かりやすく肩を落とす由乃。
俺は彼女の寂しさを感じ取り、同じような気持ちになっていた。
できることなら俺も由乃と一緒にいたい。
こんな魅力的な女の子が俺に好意を抱いてくれているんだ。
嫌な気持ちになるわけがない。
むしろ嬉しくて、応えてあげたいと思う。
だけど俺にはまだやらないといけないことがある。
はっきりした正体も分からないが、管理者の奴らを片付けて、向こうの勇太たちを無事に元の世界に戻す。
元の世界に戻るかこちらに残るかはまだ決めかねているが、どちらにしても話はそれからだ。
目の前の由乃の体を抱きしめてあげたい気持ちが溢れてくるが、そんな勇気のない俺は代わりに彼女の頭を撫でる。
少し気持ちよさそうに吐息を漏らす由乃。
「天野」
「え?」
俺はパッと由乃から手を離し、声の方へ視線を向けた。
そこにいた人物を見て、俺は驚愕する。
なんとそこにいたのは――円だった。
「南さん……」
円の顔の左半分は包帯に覆われており、痛々しい傷が包帯の隙間から少しだけ顔を出している。
左腕も左脚も同じように包帯を巻いており、いつもと比べて圧倒的に暗い印象を受けた。
俺は円のその傷と表情に胸が痛くなり、彼女の下へと駆け寄る。
「円! どうしたんだよその傷!」
「司……なんでここにいるの?」
「え……?」
「南さん、司くんを知っているんですか?」
由乃の問いかけに首肯で答える円。
そうだった。
ここは別世界。
この円だって、この世界の住人なんだ。
だから俺の知っている円じゃない。
そんなの少し考えたら分かることだろう。
だけど――この円は俺を知っている。
いや、正確に言えば俺じゃない。
この世界の俺のことを知っているんだ。
「円。俺が……この世界の俺がどこにいるのか知っているのか?」
「司の言ってることよく分からない。私たちは一緒に暮らしてるでしょ」
「い、一緒にって……同棲?」
ほんのりと頬を染めて円は首を縦に振る。
おいおい、この世界の俺は女の子と……それも円という美少女と同棲してるのかよ。
羨ましい……
俺をジッと見つめる円。
由乃はそんな円の反応にムッとし、俺たちの間に割り込んでくる。
「こ、この人はあなたの知っている司くんじゃありませんから」
「……どういうこと?」
抑揚なくそう言う円。
俺は簡潔に円に現状を説明した。
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