第73話 風の魔剣
「大丈夫か?」
俺は笑いをかみ殺しながら由乃に手を差し出す。
由乃は恥ずかしそうに頬を染め、俺の手を取った。
「わ、笑わないで下さい。司くんが強すぎるのが悪いんですからね」
「ごめんごめん。悪気はないんだよ」
由乃を起こし、周りに敵がいないかをもう一度しっかりと確認する。
【鷹の目】を発動して視認しても、敵の姿は見当たらない。
敵はおろか、床と壁以外は何も存在していなかった。
「これで終わり、ですか?」
「どうなんだろう? 上に上がるエレベーターが他にもあるかも知れないし、もう少し探索してみるか」
「はい」
門番であった破片たちは、床に沈んでいき消滅していく。
綺麗になった地面を歩き、俺たちは来た方向と逆側にある壁を目指しす。
もしかしたら向こうの方向にまたエレベーターが。
そんなことを考えながら進み始めて数分経った時のこと、また床がユラユラと歪みを見せる。
「また門番でしょうか?」
「……ビンゴみたいだぞ」
由乃と俺は警戒しなが歪みを見つめていると、また下から門番が現れる。
今度の数は10匹ほどだ。
「面倒だな。何体出て来ても無駄だってのに」
俺はさっさと敵を葬るためにクロスボウの矢を放つ。
だが矢は、キンッと見えない壁のような物に弾かれてしまう。
「つ、司くんの攻撃が通用しない?」
「そんなこと考えたくもないけど……効かないみたいだな」
もう一度矢を放つも、やはりこちらの攻撃は弾かれてしまう。
俺は少し焦りを感じつつ由乃の前に立ち、相手の動きを観測する。
出現した門番たちは、真ん中付近にいる門番にゆっくりと吸い寄せられていく。
まるで磁石で砂鉄を集めているような、そんな様子で着実に引き寄せられてゆき、一匹の門番に全ての門番が吸収され融合する。
その体はだんだん大きさを増していき、10メートルを超える巨体へと変貌を遂げた。
「……ちょっと大きすぎませんか?」
「本当だ。どうやって倒すかな」
俺と由乃は冷や汗を流し、巨大化した門番を見上げる。
黒かった鎧はブラックダイヤモンドのように輝きを放ち、脅威と共に美しさも放っていた。
陶器のように綺麗な盾に鏡のような刀身の剣。
あまりにも大きなそれを視界に納め、俺たちは後ずさる。
「とにかく、由乃はできるかぎり離れてくれ。もしかしたら全力を出さないと勝てないかも知れない」
「は、はい!」
「さっきみたいに巻き添えを喰らわないように、できるだけ遠くにだ」
由乃はもう一度だけ「はい」と返事し、走って俺から離れていく。
「さてと……まずは小手調べだ」
クロスボウを門番の兜に狙い定め、【パワーショット】を放つ。
凄まじい衝撃を放ちながら飛翔して行く矢。
先ほどの見えない壁がパリンと割れる。
音だけしか聞こえないが、間違いなく俺の矢は壁を撃ち貫いたようだ。
そのまま兜に矢は当たり、その威力に門番の体が浮いた。
良かった。攻撃は通用するみたいだ。
ルージュの【爆炎】ほどの防御力はないみたいだし、案外楽に勝てるのかも。
だけど油断だけは禁物だ。
慎重に、油断なく、確実にこいつを倒す。
門番は体勢を整え、その大きな剣を振りかぶる。
「まずはその剣を破壊する」
振り下ろされる大剣。
俺は【障壁】を発動し、それを真正面から受け止める。
こちらの障壁と衝突した剣は、ガキンッとはじき返され、また体勢を崩した。
その瞬間、俺は【爆炎】を連続で剣に叩き込み、それを粉々に粉砕する。
【爆炎】の熱気が収まらない中、俺は門番の足元まで一歩で入り込む。
剣を壊してからわずかコンマ数秒の出来事。
俺の動きに門番も由乃も反応できていなかった。
「【混沌たる風の魔剣】!」
【風術】と【魔剣】を合成した力。
黒き狂風が俺の手の中から発生し、この世の全てを吹き飛ばしてしまうほどの威力を放っていた。
形は剣というよりも、竜巻そのもの。
それが俺の手から伸び、門番の全長よりも長く、奴よりも禍々しい色をしている。
俺は【風の魔剣】を門番に向かって全力で振り下ろす。
ボンッと目の前で弾ける黒風。
門番を完全に飲み込み、瞬く間にその肉体を滅ぼしていく。
俺からだいぶ離れていたはずの由乃までその風は届いていたようで、彼女の体が宙に浮いた。
どれだけ威力あるんだよ……
魔剣をその場に置き去りにし、俺は由乃を助けるために【閃光】で彼女の下まで駆けつける。
そして彼女を抱きかかえ、地面に着地した。
「え、ええっ!?」
俺が突如目の前に現れ、助けたことに驚く由乃。
そして魔剣の力が収まるまで、静かに黒い風を見つめ続けていた。
「……終わり、でしょうか?」
「だな」
もう少し苦戦するかと思ったが、今回も楽に勝敗がついてしまった。
由乃はまだ驚きつつも、デッキを開き、情報を確認する。
「……今ので打ち止めみたいです。続きはまた次回と表示されてますね」
俺の腕の中で操作するデッキのその画面に視線を落とす。
ということは、今日はもうやることが無くなったってことか。
あまりのあっけなさに嘆息するも、今回も簡単に終わったことに安堵もしていた。
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