第61話 人質
「てめぇ、何のつもりだ」
観客たちの罵声が響く中、俺はバロウの言葉を無視し磯さんの傷を回復する。
傷が塞がり痛みが消えたことに磯さんはホッとし、起き上がり俺に礼を言った。
「乱入なんて、ルール違反もいいところだろ?」
「……磯嶋永吉。お前は奴に何を言われたんだ?」
「おう! 人質を取ったって言われたんだよ!」
「人質?」
磯さんの方に向いたままバロウの言葉には反応しなかったが、俺は詳しい話を聞くためバロウと視線を合わす。
「どういうことだ?」
「そもそもお前は誰なんだよ? 勝手に邪魔しやがってよ」
「俺は彼らのサポーターだ。いいからさっさと話を聞かせろ」
「……リュートって奴とカレンって女、お前は知ってるか? 俺の仲間たちがそいつらを拉致ったんだよ」
「拉致……何故そのようなことを?」
「そりゃ決まってんだろ。あのユウタって奴に勝つためだよ。悔しいがあいつは、俺よりも強いみたいだからな……」
バロウは愉快とでも言わんばかりに笑みを浮かべる。
俺はその笑みに苛立ちを覚えるが、冷静さを保ちながら会話を続けた。
「あいつに勝てないから、卑怯な手に出たというわけか」
「ああ。こいつらはあまちゃんみたいだからな。人質でもとりゃ、手を出せないと踏んだんだが……ビンゴだったな」
気色の悪い声を大にして笑うバロウ。
俺が一歩近づくと奴は「おっと」と身構える。
「お前も強そうだな……試合を壊されたから、代わりにお前を処刑してやるか」
コキコキと指の骨を鳴らすバロウ。
俺は黙って奴の動きを窺う。
「抵抗したら人質を殺す。嘘じゃないぜ。あいつらを助けたいなら――黙って殺されろ!」
バロウはガンッと俺の仮面を殴りつける。
しかし一ミリも動かない俺に驚き、乾いた笑い声を出す。
「ど、どうなってやがるんだ……」
「お前程度に俺を傷つけられるものか」
俺はバロウに背を向け、磯さんを促しその場を去ることにした。
「おい! 人質が死んでもいいのか!?」
「人質は生きているからこそ価値があるものだ。人質が死ねば、今この瞬間にでもお前を殺してやる」
「んぐっ……」
「人質はお前の命綱だ。せいぜい手放さないように気をつけろ」
眉間に皺を寄せ、俺を睨み付けるバロウ。
思った通り、人質を殺すような真似はできないようだ。
彼らを殺せば俺が奴を殺す。
その言葉を本気と捉えたようで、俺たちを黙って見逃した。
受付をしていた場所まで移動すると、勇太と由乃たちが俺たちの下へと駆け付けて来る。
「仮面の戦士様! 何があったんですか?」
「人質を取られたようだ」
「人質って……誰だよ?」
「おう! シュートとカレーだ!」
「……リュートとカレンだ」
「あの二人が……」
ギリッと歯噛みする勇太。
由乃と円も拳を握り、真剣な表情をこちらに向けている。
「大崎勇太。武闘会は棄権しろ」
「……嫌だ」
「何だと?」
「あんまりあの人らのことは知らねえけど、俺があいつに手を出したら殺されるんだよな? だったら俺は手出しはできねえ」
「…………」
「だけど、お前が何とかしてくれるんだろ?」
勇太は俺のことを信頼しきっているようだ。
爽やかな笑みをこちらに向け、親指を立てている。
「何とかしてやるつもりではあるが……大会に参加しなくてもいいだろ?」
「多分だけど、棄権しても殺すって言い出すんじゃねえの? 俺を公開処刑にしたいみだいだしな」
「確かにそんなことを言いそうですね……」
「だろ? それにあいつは皆の前でぶっ飛ばさねえと気がすまねえよ。今回の人質の件で余計ぶっ飛ばす理由が増えたし。だから頼むよ。人質の方は」
俺はため息をつき、首肯する。
結局のところ、俺が人質のことを何とかすれば全てが上手く収まるってことだろ。
だったらやってやる。
それで今回のことは全部解決だ。
「その代わり、派手にぶっ飛ばせよ」
「おお!」
勇太は受付の女性に声をかけられ、笑顔で準決勝へと向かって行く。
「さてと……まずはあいつらを探すか」
「探すって……どうやって? 片っ端から町を探して回るんですか?」
「そんなことをする必要はない。俺が一瞬で解決してやる」
「え?」
俺は【鷹の目】を発動させ、リュートとカレンの姿を探索する。
景色が全て透き通り、人の姿だけが目に映り――あっという間に、彼らの居場所を突き止めることに成功した。
現在、彼らは数人の男たちに囲まれており、怯えて地面に座らされているようだ。
怪我はないようだが、ガタガタ震えている。
可哀想に……すぐに解放してやるから待ってろ。
「見つけた。今からあいつらのいる場所に向かう」
「仮面の戦士、凄い」
俺たちはリュートたちがいる場所へと向かうために駆け出した。
闘技場から飛び出し、彼らのいる方向へと向かう。
しかし。
「お兄ちゃん」
「?」
闘技場の外で待っていた青い髪の少年に、突然声をかけられた。
「ねえ、用事があるんだけど、ちょっといいかな?」
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