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第51話 由乃の手料理

 由乃の家に呼ばれ、彼女が手料理を振る舞ってくれることになった。

 両親は俺に気を使ったのか出かけているようだ。

 別に気なんて遣わなくてもいいのに。


 彼女の家は結構古めの家で、6畳ほどの台所には四人掛けのテーブルが備えられており、俺は今そこの椅子に座している。

 白い壁紙が貼られており、キッチン回りは焦げた後や変色している部分が多い。

 エプロン姿の由乃はガスコンロで何やら楽し気に揚げ物をしているようで、彼女の鼻歌と共に油が踊る音が響いている。


「…………」


 楽しそうな由乃を見ていると、このおかしな世界ともう一人の由乃がいる世界が嘘のように思えてくる。

 ここだけ切り取ったら、彼氏が家に来て昼食を振る舞う彼女の図にしか見えないからな……いや、彼氏なんて言ったら由乃にわるいけど。

 しかしなんだかムズムズしてくる。

 というか、女の子の家とか初めてだから緊張してきた。


「どうしたんですか?」

「え? い、いや……料理できるんだって思って」


 真っ赤な顔をしている俺に気づいた由乃は不思議そうな視線を向けてきた。

 俺は精一杯笑顔を彼女に向ける。


「お母さんに色々と教えてもらってますから、家事は一通りできますよ」


 ニコッと笑う由乃。

 普段からよく見る笑顔だけど……いや、この子とは違う由乃の笑顔だけれど。

 こうやってまじまじと見たら、本当に美少女だよな。


 由乃は皿に盛った唐揚げ、大盛りと小盛のご飯、それぞれをテーブルの上に置く。

 大盛りの物は俺の前へ。小盛のご飯は自分の前へ置く。


「いただきます」


 サクッした衣を噛むと、うま味が一気に口の中に広がっていく。

 熱々で舌を火傷しそうになるが……とにかく美味い。


 ご飯と順番に口に放り込んでいき、空腹が急速に満たされていく。


「美味い。美味いよ、由乃」

「良かったです。司くんの口に合わなかったらどうしようかと思いました」

「口に会わないどころか、美味しすぎて毎日でも食べたいぐらいだよ」

「毎日……ですか」


 ポッと顔を染めた由乃は続ける。


「それって、プロポーズですか?」

「なんでそんなに話が飛躍するの? え? 俺たちって付き合いもしていないよね?」

「私は司くんなら全然かまいませんよ!」


 元気にそう言う由乃の瞳は、どこか狂気に満ちているようにも見えた。

 あれ? この子こんな子だったっけ……?


「と、とにかく俺にはまだやることが多いから……その話はまた今度でお願いします」


 由乃は頬をぷくっと膨らませて、半目で俺を見る。

 いや、可愛いんだけどさ。

 本当に何があったんだよ、この変化は。

 俺は最後の唐揚げを食べ、空になった皿に両手を合わせる。


「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」


 席を立ち、由乃の顔を見下ろす。


「じゃあ、向こうの世界に戻るよ」

「……また来週まで会えないんですね」

「そ、そうだな……」


 寂しそうに由乃は俯く。

 え? なんでそんな反応?

 ちょっと本気で困るんですけど。


「もう一人の私が羨ましいです。だって司くんと毎日一緒にいられるんですから」

「そういや、向こうの由乃の評価もなぜか高いな、俺」

「隠しきれない魅力に気づいているんじゃないでしょうか、私ですし」


 それだったら節穴もいいところだよ、もう一人の君は。

 俺にそんな魅力何てありやしないのに。

 俺は呆れつつも笑顔を浮かべる。


「また来週、ちゃんと帰ってくるよ。その時にまた何か作ってくれよ」

「分かりました。材料沢山買って待っています」


 俺は玄関で靴を履き、由乃に小さく手を振る。

 由乃はその手を握り、俺の心臓がドキッと跳ねた。


「また来てくださいね、必ず」

「わ、分かってる……約束だ」


 寂しそうな由乃から手を離し、俺は【帰還】を発動する。


 歪む世界。 

 次の瞬間には、ダラデニーの景色が広がっていた。

 場所は宿屋。

 時計を見ると時間は午後の1時だ。


 しかし由乃は突然どうしたんだろうな……

 今朝はあんなことなかったのに、戦いが終わってから変になったというか。

 もしかして、塔に入って変な影響でも受けたのか?

 よく分からないけど……まぁ、好意を抱かれるのは悪い気分じゃないからいいけどさ。


 俺は一旦、アイスバットが出現する洞窟に行き、【召喚】でモンスターたちを放ち、再度ダラデニーの宿屋に戻る。

 そのまま昼寝をし、勇太たちが帰ってくるのを待った。


「ただいまだぜ、司!」

「おかえり、勇太」


 皆がヘトヘトで宿屋の広間へと帰ってくる。

 勇太は親指を立てて笑顔をしているが、あからさまに疲れている様子だ。

 由乃と視線が合うと、彼女がとびっきりの笑顔を見せる。

 昼間のこともあり、俺の体温が急速に上昇していく。

 こっちの由乃は別人だ。

 俺に好意を抱いているわけではない。はず。


「修行し始めてから一週間が経った。そろそろ次に向かうとするか!」

「おう! ソロワークか!」

「一人で仕事でもするのかよ。次はソロワースね」


 次のエリア、ソロワースエリア。

 皆もオークキングと戦った時と比べると随分と強くなった。

 俺のフォローもあるし、次に進んでも問題ないだろうと思われる。


 俺は新たな場所へと進む緊張と新たなる敵への好奇心。

 その両方を胸の中に感じながら、夜の戦闘に向かうのであった。

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