第35話 勇太の優しさ
「司。情報収取と行こうぜ」
「ああ」
勇太たちは町に入り、ダラデニー王の情報を集めるために町人に色々と訊ねていた。
俺もそれに参加するつもりなのだが……その前にやっておきたいことがある。
「ち、ちょっとトイレ……」
「おう! 早く帰ってこいよ!」
「分かってるよ」
俺はサッと町の外まで出て、オルトロスがいる場所に【帰還】で移動する。
そこでモンスターカードからモンスターたちを召喚し、周囲に解き放つ。
「みんな、オルトロスを狩ってくれ。また後で迎えに来る」
モンスターたちは頷き、オルトロスに攻撃を開始する。
スピリットとスケルトンのカードも+99となり、さらに増した戦力。
次々とオルトロスを退治していく。
俺はオルトロスを問題なく倒すモンスターたちを見て、頷きながらダラデニーへと帰還する。
「お待たせ」
勇太たちと合流し、町の人たちに話を聞いていく。
それから1時間ほど情報を集め、宿の広間で勇太たちと意見交換をした。
「ダラデニー王。31歳。彼の父親である前王は10年前に他界し、それからずっとあの調子みたいですね」
「あの王様を囲む騎士……特にあのガリアって奴にみんなは怯えてるみたいだな」
「反乱を起こすつもりもないし意見を言うつもりもない。ただ黙っていいようにされているだけ」
町の人たちは恐怖に震え上がり、暗い毎日を送っているようだ。
ダラデニー王のやりたい放題の横暴を様々な感情を抱くも、ただ従うのみ。
普通、権力者には逆らうことはできないものだ。
『当たり前』という枠は想像以上に厄介で、そこから抜け出すことは中々できない。
権力に従うという『当たり前』。
嫌ならこの町を去ればいいのだろうが、そんなことすらできない。
中には町を出て行く人もいるようだが……ほとんどの人がこの町を離れることはないそうだ。
これが『当たり前』の怖さだ。
仕方ないと、狂気じみた環境でさえも受け入れてしまう。
となれば、俺たちは、俺はどうすべきか……
答えは簡単だ。
できるできないは別として……町の皆を『当たり前』から抜け出させてあげること。
「どうやって皆の心を動かすかだな……」
「司くんでも無理ですか?」
「お、俺? さぁ? やってみたいと分からないけど」
相変わらず由乃からの評価は何故か高いまま。
もしかして強いのがバレてるのかな……?
だとするといつバレた?
まぁ今はそのことは置いておいて……
「エリアマスターは、オークキングだったか?」
「ああ。豚みたいなモンスターの王様、オークキング。どんな奴が相手だろうと、俺が倒してやるからな!」
勇太は親指を立ててそう言い放つ。
俺は笑みを向けながら話を続ける。
「オークキングはオークを引き連れて荒野を移動してるらしいな……そっちはどうする?」
「おう! 行ってぶっ倒せばいいじゃねえか!」
「まぁそうなんだけどさ……ダラデニーのことを済ませてから向かうか、それとも先に倒しに行くか、皆はどうしたらいいと思う?」
「まずダラデニーを何とかしてやろうぜ。困ってる人が最優先だ!」
さすが勇太だ。
こいつは元いた世界でも、こんな様子だったからな。
あれは2年に上がったばかりのことだったはずだ……
俺たちの同級生に、武田純也という男がいた。
彼は『もやし』と揶揄されるほど細い体で、気弱な男子。
そんな武田はある日、顔を腫らせて学校にやって来た。
先生が尋ねるも「なんでもありません」の一点張り。
誰がどう見ても、イジメだとしか考えれなかった。
皆は自分には関係ないと彼に声をかけようともせず、いつも通りの日常を送っていた……が、勇太だけは別だった。
俺は武田に声をかけるかかけないかで何度も迷っていたが……その間に勇太が武田の肩をポンと叩き、笑顔を向ける。
「何があったんだよ?」
「……なんでもない」
「なんでもないことないだろ。俺に話してみろよっ!」
やはり親指を立てて、ニカッと歯を見せて笑う勇太。
武田は最初こそ勇太を拒否するかのようにぞんざいな態度を取っていたが……あまりにしつこい勇太に涙を流しながら事情を話した。
「中学の頃からイジメられてるんだ! 昨日の夜にだってお金を取られた上に殴られたんだ……相談したところでどうしようもないんだ、ほっといてくれ!」
「そっか」
武田は微笑を浮かべたままの勇太の顔を見て、その日は逃げるように学校から帰って行ってしまった。
さすがに校内のことじゃなかったら、どうしようもない。
皆そう思っていたが、勇太は違った。
次の日、勇太は武田をイジメていた相手3名と乱闘騒ぎを起こしたと停学処分になり、その日以来、武田へのイジメはピタリと止まったそうな。
停学明け、勇太はボコボコの顔で武田に10万円を手渡していた。
「ほら。金もとり返してきたぜ」
「……な、なんで大崎は友達でもない俺のためにこんなことを……」
「ん? 友達とか友達じゃないとか、そんなのは関係ないって。 困ってる奴を放っておくわけにはいかないだろ!」
親指を立てた勇太のその言葉に、武田はボロボロと涙を流しながら礼を言った。
今も困っている人を助けようと行動に移そうとしている。
それは友達だとか知り合いだとか関係なく、勇太の純粋な優しさからの行動だ。
とにかく明るいしとにかく優しい。
数少ない尊敬できる男だ。
俺は当時のことを思い出し、ほっこりと胸を温かくしながら勇太と共に町へ入って行く。
俺たちなら何とかなるはずだ。
イレギュラーなことさえ起きなければ。
だがまさか、この後、そのイレギュラーなことが起きてしまうとは……
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