《複製》の使い手②
「なんということでしょう! Eランク騎士の暁選手がBランク騎士を追い詰めています!」
暁は《複製》を駆使して決勝に進んでいた。
相手はBランク騎士―フィリオだ。
本来は手も足も出ないような差があるはずだが、暁には関係ない。
既に相手の能力をコピーしたからだ。
「くそ…… なんなんだ、その能力は……」
「ただ相手の能力をコピーするだけの能力さ」
その言葉を放つと同時に、暁は空高くへ跳び上がる。
足下の風を《風翼》の力で操り、爆発させた勢いで跳び上がったのだ。
「この能力は便利だなぁ。 元の使い手は使い方を間違えてたけど」
この能力で操ることのできる風の量は少ない。
これを攻撃に使うのは間違いだ。
しかし、移動に使う分にはかなり使い勝手がいい。
空にいる暁に対し、フィリオは《エレメンタル》を使い、炎の渦に巻き込む。
「よし! 決まった! …………?!」
確かに暁は炎の渦に巻き込まれた。
それと同時に、自らを発火させていた。
身体干渉系能力――《バーンスタイル》だ。
結果、炎同士で相殺されダメージはなかった。
「その能力、どこで手に入れた!」
「悪いな。この能力だけはどこで手に入れたか分からないんだ。てことで、じゃあな」
《エレメンタル》の力で炎を出し、風を操り二つを合体させた。
「合技――《ウィンドバーン》!」
その技は、フィリオを目掛けて一直線に進み、直撃した。
立ち込めた煙が消えると同時に、審判は続行不能とみなし、暁の勝利を宣言した。
「暁選手優勝ォォォォ! Eランク騎士が、格上を相手に勝ち抜きましたァァ!」
実況の声と観客の歓声が会場に響く。
「ちょっと待ちなさい!」
一際大きい声が会場に響くと、歓声が止まる。
その声の主がフィールドに着いた途端、暁はその放った言葉に衝撃を受けた。
「私と決闘しなさい」
「……え?」
予想していなかった言葉に驚きを隠せない。
「え、え〜と…… どなたでしょうか?」
面識がない人にいきなり決闘を申し込まれたことはない。
そもそも、そんなことは普通しない。
どこかで会ったことがある人だと思い、その問いをする。
「私はアリス・ローレン。Aランク騎士よ。」
「え、Aランク騎士ぃぃぃ?!」
Aランク騎士など、この世界にはそうそういない。
騎士の中でもトップの実力、魔力量をもつものにのみ与えられる称号のようなものだ。
「あなたのようなAランクの方には勝てないので……」
「勝てる決闘しか受けないのかしら? ヘタレね。」
「うぐっ……」
「それにあなた。実力を隠してるわね」
その言葉に暁の表情が変わる。
「なぜそう思ったのですか? そもそも僕はEランク騎士。この大会で優勝出来たのは奇跡です」
「そうかしら。随分と落ち着いた戦い方をしていたようだけれど。それに、あなたには全く隙を感じないわ」
アリスの言葉に観客や実況、審判も唖然としている。
「もし決闘を受けてくれるならば、フォースを使用してフューチャーモードでの試合にするつもりよ」
フォースとは、魂を具現化した武器のことだ。
使用者によって質量や形などが違う固有の武器である。
フューチャーモードはこの大会と同じで、身体には傷がつかないが、つくはずの傷と相応の痛みが伴う。
エフィエルや天草などのプロ以外の試合はほとんどがこのフューチャーモードで行われる。
「わかりました。受けますよ。ただし、後悔しないでくださいね。僕がどの程度の実力であっても」
「ええ。じゃあ、二時間後に試合開始よ。楽しみにしてるわ」
こうして、暁vsアリスのエキシビションマッチが決定した。