#反抗期とは、正常に成長している証
桜も散って暖かくなり始めた四月の下旬、私は放課後の通学路を一人で歩いていた。高校生活にも慣れ始めたこの頃、既にクラブ勧誘の熱気は収まり、体育会系の部活などは多くの新入生を迎えて活気づいている。
和弓部に入った御門さんも既に部活に精を出していて、毎日弓道場へと足を運び練習に日々励んでいる。私も和弓部の体験入部には一緒に行ったのだが、弓を引く事すら出来なかった。それに比べて御門さんは、知識の無い私が見ても綺麗だと感じる型で、的にも見事に当てていた。
そんな弓を引けなかった事からわかる様に、私に力は余りなく体育会系の部活には入れない。それでもやりたいと思える情熱があれば別だが、特にその様な熱意は無く。では文化系の部活はどうなのかというと、それもやりたいと思える事がなかったりする。
真面目に頑張っている者の中にやる気もなく入るのは、嫌われる原因になってしまうのでいけない。という訳で私はどんな高校でも一定の勢力を誇っている帰宅部に所属となり、今日は一人で帰っているのである。
クラスでも今の所は上手くやれている。クラスメイトの女子とは程々に話す様になって、班決めで余る事は現状では無いので一安心だ。佐々木さんなどは流石というべきか、コミュ力の高さを生かしてカーストの上位へと駆け上がっていた。
相川君はクラスの男子に誘われてテニス部に入っていた。毎日練習が厳しいのか授業が終わる頃に疲れた様な顔をしているが、是非とも負けずに頑張って欲しい。そういえば部活体験期間に、彼が将棋部に入って行く姿を見かけたが、その時に呟いていたりゅうおうになればもてるとは一体何だったのだろうか?
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最寄り駅に到着してそろそろ自宅に帰り着くという所で、前に小学生の男子と女子が三人で歩いているのを見かけた。その三人を私は知っている、取り分けその中の一人については特に、である。私は足早に歩みを進め、その男の子の横へと辿り着くと肩に手を回した。
「健斗、今帰りなの?」
「うわっ!? 姉ちゃん外ではやめろって何回言えば!」
最近絶賛反抗期を迎えている弟の健斗である。前までは喜んでくれたのだが、これも成長という物か。背も越されてしまい、姉として悔しい所もあるが嬉しくも感じる。
「別にいいじゃない。佳那ちゃんと騎士君も久しぶり」
「お姉ちゃん! うわ~、中学校のも良かったけど高校の制服も可愛い~!」
「鈴姉久しぶり。……それ制服大きすぎない?」
「ふふん、可愛いでしょ? 大きいのは私がもうすぐ大きくなるから問題ない」
弟の幼馴染の佳那ちゃんと騎士君は家の近所に住んでいて、昔から付き合いがある。二人とも私の事を姉と慕ってくれて可愛い子達だと思う。
「姉ちゃん、いい加減に離せって! 佳那、騎士、早く行こうぜ!」
「えー、健斗だけ先に行けばいいじゃん? 私はお姉ちゃんと話したいし~」
「おい健斗待てって、……鈴姉ゴメン先に行くね。佳那も行くよ」
「もー、健斗は仕方ないな~。お姉ちゃんまたね!」
私の手から逃げ出した健斗が走り去り、それを追って二人も走って行った。あの方向なら騎士君の家にそのまま遊びに行くのだろう。三人を見送った私は家に帰る事にした。
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家に帰った私は、自分の部屋でパソコンを立ち上げる間にとスマホを操作していた。ブラウザで新しいタブを開くと検索画面の下におすすめの記事が表示されるのだが、その中に気になるタイトルを見つけたので開いてみる。
ニュースサイトのそれは、ぶいすてーじのオーディションが実施されるというモノで、新たなキャラクター3名の内2名が募集対象の様だ。同じ企業系のあるてまでも、今日行われるリレー配信で7名が新たにデビューする事が頭に浮かび、最近はVtuberが増えてきたなと思う。
スクロールをして記載されている募集要項を見てみると、18歳以上の歌・ゲーム・イラストの経験者と書かれている。しっかりとした責任を持てる事を考えると、18歳という大人と言える年齢以上と制限がかかっているのは当然であろう。
ふと、今日デビューするあるてまの新人が募集されていたオーディションの情報も、前に見た事があるのを思い出す。あれにはそう、確か年齢制限もなく経験不問という風に書かれていた筈だが、実際は経験のあるベテランが採用されるのだろう。私はそんな事を考えながら、起動が終わりホーム画面が表示されているパソコンを操作してゲーム配信の準備を始めた。
登場人物紹介(小学生組)
音鳴 健斗
弟。小学5年生で最近姉の背を追い抜いた。
現在反抗期真っ只中である。主人公がちょっと接し方近すぎて鬱陶しい。
東 佳那
弟の幼馴染の女の子。主人公の事は慕っている。
が、最近は少し複雑な気持ちが湧いている。主に美少女具合のせい。
藤見 騎士
弟の幼馴染の男の子。初恋の相手は主人公だった。
キラキラネームについては折り合いをつけてる。
中学2年になるとイモータルナイトとか名乗りだすかもしれない。