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#入学式でのLINE交換は、友達への大きな一歩

 入学式が終わって教室へ戻ると、出席番号順で自己紹介が始まった。私は先に発表した人と同じ様な、出身中学と趣味などで無難に終わらせる。最初に目立ってしまったのだ、これ以上悪目立ちをする訳にはいかないと気持ちを引き締める。


 それが終われば今日は解散となる。早々と帰って行く者や隣に声をかける者、元からの知り合いと話している者も居る中、私はどうしようかと考えていた。平穏に過ごすなら今も新しい子に声をかけている佐々木さんの様に、グループが出来る前に積極的に行動するべきである。しかし、もう一度御門さんと会って話したいと何故か思ってしまう。少しの思慮の後、私はどうするかを決めた。


 鞄を背負い教室を出る。私は彼女のクラスを知らないので、端から窓を覗き見て歩く。クラスメイトと話していたり、既に帰っているかもしれない。もしかしたら約束などどうでもいいと、忘れているかもしれない。そんな事を考えながら彼女の姿を探すも、見つからなかった。


 もう既に帰ってしまったのだろう、そう思い私は諦めて下駄箱へと向かう。一緒の学校に通っているのだから、また明日でも会う事は出来る。


 そして下駄箱で靴に履き替え、扉を出ようとした時だった。そこに彼女の姿があったのだ。

 

 「あっ、音鳴さん!」


 「御門さん?」


 私に気付いた彼女が名前を呼んでくれた。それだけの事で嬉しいと感じる。


 「よかったぁ。クラスが分らなかったから此処で待ってたんですよー」


 「私もだよ。御門さんのクラスがどこかは知らなかったから、端から探してたんだ」


 「ふふっ、見事にすれ違ったんですね」


 「うん、すれ違ってたんだねぇ」


 二人で笑いながら、私は思った。御門さんを探そうと決めて良かったと。仮に物語の様に別の選択肢、例えば佐々木さんの話に混ざるなどしていた場合はきっと会えなかっただろう。


 「あっ、借りてたこの子、お返ししますね!」


 「ありがとう。でも、御門さんは主席だったし……必要なかったかな?」


 「そんなことないですよ! とっても嬉しかったです」


 「それならよかった。……ねぇ、よかったらまた一緒に帰らない?」


 返してもらったもふもふしているうさぎのキーホルダーを鞄に付け直し、私は彼女にそんな提案をする。断られたらどうしよう、と不安になるが行動することが大事だ。


 「ええ、是非! って、前もこんなやり取りしましたねー」


 「ははっ、前は学校へ行く時だったけどね」


 そして桜の舞う並木道を二人で、駅へ向けて歩き出す。こんな風に誰かと学校から一緒に帰るのは1年振り位だろうか?


 「そうだ、御門さん。よかったらラインの交換とかしない?」


 「いいですね。えっと、私のは――」


 スマホを取り出しお互いのライン交換をしたりしながら歩いていると、楽しい時は時間が早く感じるとの言葉通りにもう駅まで着いてしまった。御門さんの家は逆方向になるらしく、今日は此処でお別れだ。


 「えっと、今回は1か月後じゃなくて……」


 「また明日、ですね!」


 「……うんっ! また明日会おう!」


 笑顔で御門さんと別れ、ホームへと向かう。対面で待っていると、今回は彼女の方の電車が先に来たので、私が外から手を振って見送った。





 家に帰った私は昼食を食べてから、学校でもらったプリントにペンを走らせつつ作業用BGM代わりに動画を流す事に決めホーム画面を見ていた。ホーム画面のおすすめの中には、あるてまの来宮きりんの収益化おめでとう放送が公開予定と表示されていたりする。こんな風に放送予定の物は開始時刻が表示されていて、スケジュールを見なくてもいつから配信が始まるかとわかって便利だ。まぁ、中にはゲリラ配信という突然始まる物もあったりするのだが……。


 そして私がBGMとして選んだのは、ちゃぷちゃぷとした水音のASMRである。リラックスしながら作業が出来るので、これが意外と捗るのだ。ヘッドフォンで音を聞きながらプリントの記入を進めていたら、穏やかな眠気に襲われてくる。それでもペンを進めていたのだが、だんだんと瞼が重くなりそのまま眠ってしまっていた。


 沈んでいた意識が引き上げられたのは、振動音とそよ風の音によって。寝起きの頭では、ふわふわと思考がまとまらない。そんな私の耳が、女の子の息遣いと共に咥えられた。ぞくり、と甘い快感に身体が震える。意識は一瞬で覚醒し、舐められ始めた耳元へ手をやると、コンっと指先が固いものに当たった。ヘッドフォンを外してパソコンの画面を見れば、耳かき・耳はむ・耳舐めASMRというタイトルが視界に入る。寝ている間に動画が切り替わったのだろう。これは――駄目なモノだ。


 動画をホーム画面へと戻しプリントを見れば、最後に書いていた場所は文字が波打っている。その惨状に苦笑しつつ消しゴムで消していると、画面が暗転しているスマホが目に映る。そういえば先ほど振動音がした筈、と見てみれば御門さんからのラインが届いていた。


 

御門 沙耶

音鳴さんは部活って決めてたりする? 11:54

私は和弓部に入りたいんだ~ 11:55

既読 11:56 特に入りたいってのは無いなー

既読 11:56 というか、何部があるか知らない…

なら部活紹介の日が楽しみだね! 11:57

既読 11:58 面白そうなのがあればいいんだけど

既読 11:59 あ、駅着いたから見れなくなるね

了解です(`・ω・´)キリッ 11:59

今からお話とか……しませんか? 16:41

                                 

うん、お話しよう?|



今から通話でお話というお誘いだったので、了承の返事と共に通話ボタンに指を掛ける。繋がった電話から御門さんの声と吐息を耳に感じ、友人との会話が楽しみな気持ちと、胸にぽかぽかと温かな何かを抱いたのだった。

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