リティ、準二級昇級試験の告知を受ける
「はぁい! かわいい後輩諸君! 準二級昇級試験の告知よ!」
冒険者ギルドで学園長からの報酬を受け取って、あまりの額に声が出なかった3人。
小さな民家なら買える額は、リティ達の見間違いではない。そこへ相変わらずのテンションで登場したのがカタラーナだ。
報酬額に目を奪われているリティ達にとって、カタラーナへのリアクションなど後回しだ。唯一、少女だけが棒立ちで不思議そうに凝視している。
「ちょっと! 先輩冒険者とは仲よくしておいたほうが今後の為にもなるのよ?」
「あ、カタラーナさん! 告知ですか!」
「聞いてたならちゃんと反応しなさいよ、リティちゃん。冒険狂のくせに金に目を奪われるなんてね」
「冒険をするほど、お金の大切さに気づいたんです」
リティは王都でも武器や防具を物色したが、その値段はトーパスの街の比ではなかった。
その中でも魔導具に至っては、3級冒険者が死に物狂いで数年かけて稼いだ額に相当する。
リティは今後のためにも、羽靴以外の魔導具も視野に入れていたが値段に圧倒されて退散したのが先日だった。
「カタラーナさんが持ってるファランクスは特注ですよね。どうやって作ってもらったんですか?」
「魔導具職人は王都にもいるけどね。私のコレは冒険者ギルド本部にいる職人に作ってもらったの」
「本部ですか! いいですね!」
「魔導具、ほしいの?」
「はい。双雷矛はかなり強力でしたし、ああいうものがあればもっと強くなれると思うんです。ミャンもいますし……」
「みゃあんっ!」
えっへん、とばかりに得意気に頭をもたげるミャン。カタラーナも、リティの意見には同感だった。
リティのフィジカルに加えて魔導具となれば、敵に回してこれほど恐ろしい存在もいないからだ。
カタラーナはふと魔法を無効化する魔導具を思い出す。もしリティがそんなものを手にしたら、と想像してしまった。
「いいんじゃない? でも、この王都に売ってる魔導具は手が出ないでしょ?」
「はい。高すぎます」
「魔導具はまだまだ世界各地に眠っていると言われているわ。その正体は様々だけどね」
「あるんですか?!」
「噂によると、あなた達がこれから向かう準二級昇級試験をやる場所にも眠っているみたいね」
「うわぁあ!」
リティのテンションが上がりすぎて、片足を軸にして回り始めてしまった。
魔導具でこんなにも喜ぶ女の子か、とロマは今更ながらに思う。
「あの、カタラーナさん」
「なぁに、ロマちゃん」
「告知をしてくれるという事は私達、合格なんですか?」
「まぁ元々、変態パンツを通して本部が持ちかけた事だから」
「へ、変態パンツ?! 誰なんですか!」
「それより告知ね。はい」
「それよりじゃなくて!」
うろたえるロマに構わず、カタラーナは一枚の紙を手渡した。
諸君! 学園からの依頼はどうだったかな?
楽しかったかな? 苦しかったかな? ロマンだったか?
そんなハプニングを乗り越えたなら心配ないな!
準二級昇級試験の案内だ!
ひとまず熱砂の国タハラジャルで落ち合おう!
日時については心配しなくていい! いつまでも待つ!
では! しっかりとロマンしろよっ!
特級冒険者 戦手 パワーロビンより
「だそうよ」
「何この人?!」
「名誉職の冒険者よ。心配ないわ」
「その基準で言ったらユグドラシアもまともになるわ!」
リティが興奮するロマをなだめるというシーンが展開される。ロマとしては目の前にいるカタラーナに始まり、上位の冒険者を信用できない。
トラウマになりかねない昇級試験を課せられた彼女である。人間性に加えて変態パンツというフレーズが加わるのだから、うろたえるのも当然だった。
「ロマさん。大丈夫ですよ。私達はカタラーナさんで鍛えられてます」
「そうでもないわよ……」
「リティちゃんったら、ずいぶんと攻めた発言するようになったのねぇ」
カタラーナがリティを抱き寄せて、頭を撫でる。ロマが高速でリティを引き戻して、改めて告知を見た。
「熱砂の国タハラジャル……かなり遠いですね」
「海を越える事になるわね」
「なんだってそんなところで……」
「あそこはアレがあるからかな?」
「アレ?」
「行ってみてのお楽しみ! それより道中の心配をしたほうがいいわね!」
昇級試験に辿り着く前に果てる冒険者は多い。辿りつくまでが試験といったところで、わざと遠方の地を指定するケースもあった。
リティ達の場合はまず大陸南部の港街を目指す必要がある。そこまでにいくつかのルートがあり、選択次第では苦楽に雲泥の差があった。
遠回りだがいくつかの街や村、野営場所があるルート。近いが街や村が少なく、強力な魔物が徘徊するルート。
その他多数、ルート選択も実力の一つといってもいい。
安全なルートと思えても、そこを狙うならず者も多いのだ。王国騎士団が定期的に討伐しているとはいえ、そういった輩が完全に消える事はない。
「……遠い上に未知の場所ね」
「うーん……」
「リティ、何か心配?」
「私、上位職が気になります。騎士の称号がほしいです」
「確かにあなたは剣士と重戦士の称号を持ってたわね」
「知らない場所ですから、少しでも強くなっておきたいです」
ロマも自身について考えた。身体能力、センスにおいてリティに劣っているのは彼女もわかっている。
それならば、どうにか差別化できないものかと以前から頭を悩ませていた。
クーファのように召喚獣と契約しようかとさえ思ったほどだ。
「賛成したいけど、あまり時間はかけられないわ」
「じゃあ、私が変態パンツに遅れるって伝えてあげようか? ハルピュイア運送でね」
「だから変態パンツって……」
「どうする?」
「……お願いします」
本当は自分でやるべきだが、ロマとしては少しでも変態パンツとの接点を持ちたくなかった。いずれにしても試験で関わる事になるのだが。
「騎士の称号獲得ね……。剣士と重戦士の訓練を乗算しても足りないと評判よ。
二つの称号を獲得した人間が一日で逃げ出すなんて珍しくないからね」
「そんなにすごいんですか」
「あのリユトーが習得したなんて信じられないわ……」
ロマが侮るリユトーの他にも、あのヴァイダーも獲得しているのだ。結果的に残念な形となったが彼らも一応、持つ側である。
ロマが彼らに劣るわけではないが、彼女の中で騎士という選択肢はない。うまく言語化できていないが、ロマは何か違うと感じているのだ。
自分がリティと同じ事をやる必要があるのか。リティは紛れもなく天才で、彼女に出来ない事はないとロマは確信している。
そこでロマは真剣に考えた。彼女になくて自分にあるものは何かと、リティを見つめる。
「ロマさん?」
「あ、ごめんなさい」
「こんにちは!」
この小さな体のどこにそんなポテンシャルがあるのかとロマが思ったところで、突然の来訪者だ。
レッドフラッグのジェニファが遠慮なく挨拶をする。他のメンバーの同行はなく、一人だ。
歌舞踊という珍しいジョブにつく彼女に元気づけられた冒険者も多く、人気者としての存在感を発揮していた。人だかりが彼女を囲む。
「ジェニファちゃん! 今日は一人なのか?」
「今日は休日だよ。いつもパーティ全員が一緒にいるわけじゃないからね」
「そ、そうか! じゃあさ、よかったら」
「あ!」
ジェニファがリティ達に気づいた。冒険者達の間を踊るようにするりと抜ける様は、完全に達人の域だ。
意を決した冒険者の誘いが空振りに終わるが、ジェニファに気に止める様子はない。
そんな彼女の興味はリティ、ではなかった。
「あなた名前は!?」
「え? ロマだけどあなたは……?」
「あたしはレッドフラッグのジェニファ! あなたいいね! スタイルもオーラも完璧すぎる!」
「な、何の話?」
冒険者ギルドのアイドル、ジェニファが一人の少女を絶賛しているのだ。人の群れがリティ達に迫る。
小さなリティとクーファが押し出されてしまった。囲まれているのはジェニファやロマとなる。
ジェニファがにっこりと笑いかけて一言。
「あなた、歌舞手にならない?」
「……え?」
「見た瞬間、ビビーンときたもん! こんなの初めてだよ! ね、歌舞手になろ?」
「ちょっと待って! いきなり何がなんだかわからないわ!」
「この子が歌舞手?」
周囲の冒険者が訝しり、ロマに視線が集中する。たまらなく恥ずかしくなったロマは俯き、この不可解な状況をやり過ごそうとした。
冒険者達がロマを舐め回すように観察した後、雰囲気は一変する。
「ありかもしれないな」
「スタイルもいいし美人だ」
「さぞかし綺麗だろうなぁ」
「ね?! そうでしょ! でしょ!」
これだけ大勢の人間に認められた経験など、ロマにとっては剣士ギルド以来だ。
しかし今は別の方向で注目されている。男に女としての魅力を認められるなど、彼女が心地よく思うはずがない。
「いい加減にしてッ! あなた達、人を何だと思ってるの!」
「うぉっ……。怖いな……」
美人と評価されたロマだが、中身は決して穏やかではない。綺麗なバラには刺があるといった言葉がピッタリで、迂闊に触ると怪我をする。
リティ達と同行しているうちはわからないが、これが本来の彼女であった。
「怒らないで! 笑って!」
「ジェニファちゃん? あなたも何なの! 私が歌舞手? からかわないで!」
「からかってない! 怒らせてごめん! 本気で言ってるからお話しよう?」
「素質があるなら、そこのリティでいいじゃない」
ジェニファはリティと同時にクーファを見る。彼女は以前、リティを評価したのだ。
エイーダと共にユニットを組めばなどと本気で考えたが、その考えを改めさせたのがロマという存在だった。
「この子は確かに映えるけど、あなたに比べたら全然!」
「リティが?!」
「まずスタイルがねー。愛敬はあるけど、どうも子どもっぽくて……。そっちで売り出せばいいかもしれないけどね」
「また子どもっぽいですか」
「みゃんっ!」
ミャンがリティを慰めるように鳴いて見上げる。一方で、ジェニファの選択肢にすら入らないのがクーファだ。
スタイル、オーラ、すべてにおいて落第点だったがジェニファはあえて黙った。
「ねー、あんた向いてないってさー」
「そ、そんな……」
アーキュラがクーファ余計な事を吹き込んでいる横で、リティは自分とロマを比較した。
子どもっぽい、スタイルというワードについて彼女は答えを出そうとしている。
リティは歌舞手も、ジョブの一つとして興味を持っていた。それが思わぬ形でダメ出しされたのだから、納得するはずがない。
「スタイル……そんなに変わりませんよね」
「みゃーん」
「子どもっぽい……。そうでもないですよね」
「みゃん」
リティにしては珍しく冷静ではない分析だった。彼女とて、すべてにおいて客観視できるわけではない。
それが冒険や戦闘とは関わりないところならば尚更だった。
ロマにあってリティにないもの。それが思わぬ形で判明する事となる。




