リティ、学園トップと決闘する
リティは対峙するジェスターを観察した。物腰、得物、視線。力量と戦法を把握しようと努めるが、捗らない。
戦いの前だというのに極めて穏やかで、それでいて目は好戦的だ。得物は腰の鞘に収まってる剣が一つで、それ以上の情報はない。
「僕を見定めているのか。怖いな」
「ジェスターさん、一つ教えて下さい。あの人の息子なのに何故、冒険者科で学んでいるのですか?」
「気が向いたら教えてあげるよ」
「お父さんが怖いんですか?」
「そんな挑発的な発言をする子だったとはね」
リティも自分らしくないと感じている。そこまでしても、リティは彼の情報を引き出したかった。
何故ならレドナーの評価では2級相当だが、あのジョズーより遥かに強いと確信しているからだ。
「適当に戦闘不能に追い込むだけで、殺さないから安心していいよ」
「私が勝ちます」
「気負ってるね」
観客達すら静まり返る。国王や王子達すら瞬きも忘れる瞬間だが、レドナーだけが不敵に笑っていた。
互いに見合う中、先に動いたのはリティだ。先制で何もさせない。少なくとも今のリティはそれが最善だと思ったからだ。
が、そんなリティ以上の速度を誇る攻撃が放たれる。
放たれたというよりは、目視では完全に片手から一筋の光が一直線に出現したようにしか見えなかった。
「ヅッ……!」
それはリティの左肩を削った。これでも回避を試みたのである。
リティのフィジカルを持ってしても、これが最小限の被害だった。
「光属性高位魔法。君ならその程度はかわすと信じていたよ」
「リ、リティッ?!」
ロマが絶叫するのも無理はない。あのリティが回避できずに開幕で即負傷したのだ。
あのスカルブクイーンにすら迫ったリティなら心配はないと信じていた。
しかし蓋を開けてみれば、敵はリティのフィジカルを容易に封じる攻撃を繰り出したのだった。
「たぁッ!」
「む……!」
痛みで怯むかという期待がジェスターにはあった。それどころか一目散にまた突っ込むという蛮行だ。
二発目を撃つ為のラグをリティは本能で見抜いた。片手槍から繰り出すスパイラルトラストで、中距離から狙いをつける。
「チィッ!」
その膂力の脅威をジェスターもまた本能で感じた。ここでジェスターは、すかさず第二の手を打つ。
スパイラルトラストがジェスターを捉える事はなく、リティも顔負けの超回避で左へと光速移動した。またもリティが目視できない速度だ。
「速い……!」
「光速、これで君のフィジカルにも対抗できる」
光属性は全属性の中でも、殺傷力はあまり高くない。これをジェスターはオリジナルの魔術式により昇華させている。
火属性を複合させる事によって威力を高めた光属性高位魔法。
光速は強化、治癒、風の3つの属性を盛り込んでいた。
強化魔法により肉体を強化、治癒魔法で肉体への負荷を軽減。風属性による空気抵抗や進路の調整と、構築した魔術式だけで常人の域は軽く出ている。
ただし直線状の移動限定かつ連続使用不可、更には極めて短い持続時間である。ジェスターはこれを無意識のうちに引き出していた。
短い持続時間とはいえ、小刻みに使用する事によってリティのようなフィジカル特化型とも互角以上に渡り合えるのだ。
「リ、リティの剣が弾かれた!?」
「光速はこんな使い方も出来るのさ」
光の速度で武器を弾かれたのだ。リティが腕ごとのけぞり、体がガラ空きになる。
そこへジェスターが再び片手を突き出して、光属性高位魔法による決着を目論んだ。
しかし、その腕がバク転したリティのつま先によって弾かれる。痛みを意に介さないリティと違い、ジェスターは腕の激痛で隙を見せてしまった。
リティの蹴りをまともに受けては、骨へのダメージは避けられない。
すかさずリティは羽靴によって空中を蹴り、バク転を終える前にジェスターに突進する。
ジェスターに組みつこうとするが、これを光速で回避。左方向への瞬間移動を終えた。
「やぁッ!」
「チッ……!」
異常なまでの体幹でリティは体勢を立て直して、ジェスターへ蹴りを放つ。
かろうじて腕でガードしたものの、その威力はジェスターへの肉体に大きなダメージを残した。
左手の手首と右腕の外側頭、計2ヵ所のみだというのに、ジェスターは脂汗を流し始める。
ジェスターが軟弱なのではない。人間という枠組みだけで比較しても、それだけリティのフィジカルが常軌を逸しているのである。
「くらえッ!」
光属性高位魔法発射を阻止するべく、リティはまた果敢に攻めた。
しかし、放たれない。ジェスターが光属性高位魔法だとリティに思い込ませたのだ。
まんまと体術での攻めを変えなかったリティの拳を、光速込みのジェスターの剣が迎え撃つ。
リティの拳に深々と剣が刺さり、血を垂らしながらも身を引いた。常人であれば腕ごと裂かれていたところだ。
「ううッ……!」
「光速連撃」
頭、腹、足への三点同時攻撃だ。連続使用制限を限界まで攻めたジェスターのスキルである。
ここまでくると体への負荷も無視できず、追撃とまではいかない。しかしさすがのリティも、くらりと意識を失いかけていた。
が、すぐに目を見開く。
「爆連撃ッ!」
リティはジェスターへの攻勢を、体術のみにとどめる。ダメージだけならばこれで十分と判断した。
光属性高位魔法や光速の前では、武器の出し入れのわずかな時間すらも隙となるからだ。
ジェスターが光速で後方へと下がって、拳の嵐を避ける。
ここでリティが連想するのはやはり光属性高位魔法だ。撃たれたら避けようがない上に、当たり所によっては致命傷になる。
ジェスターは痛む腕を堪えながらも、剣の刃部分に光をまとわせた。
「光属性高位魔法」
刀身が直線状の棒に見えたリティだが、その脅威をすぐに予測する。
剣が光属性高位魔法と同じ性質ならば、体術どころか武器ですら役に立たないとわかったからだ。
「魔力に恵まれないと、こうも差が出るなんてね」
「羨ましいです!」
ジェスターの皮肉をリティは素直に受け取る。ただし自分に魔力があれば、などという無粋な思考は排除した。
むしろ持っているものを最大限に活かしているジェスターの貪欲なまでの戦術追及に、敬意を払うほどだ。
「皆さん! 御覧になられたでしょうか! 我が息子が現役の冒険者を圧倒する様を! 彼は光属性を得意としますが、これは僥倖です! あの実力を持ってすれば、息子はこの国を照らす光となるでしょう!」
レドナーの高らかな演説は、同時にリティへの貶めともなっている。この場でリティを圧倒する事によって、間接的に冒険者のイメージを下げようとしているのだ。
だからこそリティは絶対に勝ち筋を探るのを諦めない。物語の主人公も、こうした場面に幾度も遭遇している。
ここを乗り越えれば自分も少しはそんな人物に近づけるかもしれないと信じていた。
そんな素晴らしい冒険者を、自分のせいで貶めるなどあってはならない。リティは己を奮い立てた。
「これはさすがにジェスター様の勝ちだろう!」
「いやいや、あの少女もまだ手の内を見せておらんぞ」
観客も熱が入り、全員が二人の若者に様々な想いを巡らせている。どちらが勝つか。どんな戦いになっていくのか。
それは模擬戦場に駆け込んできた生徒達も同感だった。
「リティちゃん! ジェスターと戦ってる?!」
「二人とも、怪我がひどいな……まだやるのか?」
「どけどけ!」
続いてなだれ込んできたエリートクラス以外の生徒達。どこからか話を聞きつけたのだ。
これによりリティとジェスターにとって、より意味のある戦いになる。
「僕は冒険者の星となる。その為に冒険者科を選んだんだ」
「だったら冒険を……」
「違うね。僕が優れた冒険者となれば、現役達の評価が相対的に落ちる。『ジェスターは王族でありながら、冒険者としても一流』だとね」
「あなたは、お父さんと同じ事を……」
「平民生まれのアルディスが人々の希望となったように、今度は僕が塗り替えてやる。やがて冒険者ギルドそのものを作り変えるんだ」
リティはジェスターの真意を素直に理解できなかった。彼の後ろに見える父親の幻影が拭えなかったからだ。
もしそうであれば、エリートクラスへの手助けなど完全に必要ない。
あの時のジェスターと比較したリティは、やはりその言葉を信じられなかった。
「ジェスターさん。それがあなたの本音ですか?」
「そうさ。僕はバドリックのように、ああだこうだと言い訳をしない。認めてくれないなら認めさせるまでさ」
「お父さんにも、ですか?」
「父上は関係ないッ!」
ジェスターが光属性高位魔法を振るって、リティに挑む。
しかし腕を負傷しているのがリティにとって幸いで、その動きにキレがない。
更には光速の連続使用による負荷と魔力の消費だ。
ジェスターがいかに高い魔力を誇るといえど、無限ではない。魔力が尽きてしまえば、リティを圧倒できる要因がなくなる。
だからこそ、ジェスターはここで決めてしまいたかったのだ。
リティはこれに対して確かめたい事があった。その為の剣だが――
「け、剣が……」
「ナマクラとは言わないけど、それじゃ光属性高位魔法は受けられないね」
結果的にリティは目的を達成した。綺麗な切断面を見せて泣き別れした剣が、光属性高位魔法の威力を見せてくれたからだ。
更にリティを驚かせたのは、光属性高位魔法の射程だ。
伸びる刀身がリティを危うく重傷へと至らせるところだったのだ。
「ジェスター様! そこです!」
「リティちゃん! かわせ!」
ヒートアップする観客に囲まれて、二人は互いを意識し合った。
リティはジェスターという強者をもっと知りたいと思い、ジェスターもまたリティへの好奇を抑えられない。
互いにとって、これほど拮抗した相手に巡り合えたのが幸運だった。ジェスターは笑う。リティも笑う。
「もう逃げるのが精一杯じゃないか!」
「あのすごい移動の魔法は使えないんですね!」
「やってやろうかい?!」
「無理です! 使えばあなたの肉体は限界を迎えます!」
「でも君にも手はない!」
互いが勝ちたいと思ってるからこそ、そうでありたいという言葉をぶつける。それはほぼ真実だった。一つを除いては。
「あります! アパッチランスッ!」
体術のみの攻めを捨てて、剣を取り出すも折られたリティに手はない。次の武器を出しても、同じく破壊されて終わりだ。
ジェスターはそう確信したが、リティはそのスキルを下に向けた。
ジョズーのスキルであるそれは、スパイラルトラストとは違った連撃による破壊力を誇る。いわば上位互換だ。
石作りの床を粉砕して、ジェスターは破片を浴びた。咄嗟にガードするも、それが大きな隙となる。
「し、しまッ……」
破片のダメージも上乗せされて、もはやジェスターに槍高跳びしてきたリティの踵落としを避ける術がない。
勝負は決まった――本人を含めて、誰もがそう思った時だった。
「天使……降臨……」
誰もがその存在を忘れていた。二人の決闘の隅で、バドリックが召喚術を使ったのだ。




