リティ、山賊を知ろうとする
山賊がアジトにしているのは、崖にぽっかりと開いた天然洞窟だ。周囲は鬱蒼とした森な上に、地形の関係で死角になりやすい。
これをキャロンの魔力感知なしで探し出すとすれば、かなりの人数で山狩りをしなければいけなくなる。
そうこうしているうちに逃げられるので、シャールはキャロンを心の底から労う。
「キャロン、戦闘はおそらくオレ達だけで十分だ」
「優しいのもあなたの取り得だけど、遠慮させてもらうわ」
「そうか」
シャールの鬼気迫る表情を見て、彼女が辞退など出来るはずもない。あくびをかいてる見張りの前に、シャールが堂々と近づく。
その招かれざる訪問者を見て、見張りの男はあくびを止めた。シャールは攻撃しようとせずに、悪党に笑いかける。
「よっ、山賊一味だな?」
「な、なんだてめぇは?!」
「お前らを討伐しに来た冒険者だ。とりあえず中にいる連中を呼べ」
「舐めてやがんのかッ!」
いきり立って剣を抜き、襲いかかってきた男をシャールは造作もなく捕まえる。間合いを詰めてからの喉輪で、男はもがき苦しむ。
山賊討伐の際に彼らは作戦会議などしていない。リティもそれについては言及したが、リーダーであるシャールの答えはシンプルだった。
「悪党相手に正々堂々と真正面から戦ってやるって言ってんだよ。そうでなきゃ意味がないからな」
「あ、がっ……」
「呼べよ?」
かろうじて頷いた男をシャールは解放する。せき込みながらも男は一目散に洞窟内に走っていく。
わざわざ不利になるような行動をリティは理解できたわけではない。しかし、彼らと交流するうちにおのずとその芯が見えてきた。悪党に対して正々堂々と、それがすべてだ。
「お、出てきた」
「……冒険者か?」
鳥の巣のようになった頭をかいてる男を中心として、全員がひどい身なりだった。誰もが長らく入浴も行っておらず、臭気が全員の鼻をつく。
そのくせ、しっかりと武装だけはしているギャップにシャールは微笑む。慈愛ではない、嘲笑だ。
「俺達はレッドフラッグ。お前らを退治しに来た」
「レ、レッドフラッグだって?!」
「ここまで来やがったのか……!」
山賊の男達が彼らに対する恐れを見せる。山賊にすらその名が行き届くほどのパーティと知り、リティは生唾を飲む。
この広い世界にて、名を轟かせるのは並み大抵ではない。ましてや名を聞いただけで恐れさせるなど、単なる実力だけでは片付かない問題だった。
リティもそれがわかっているからこそ、レッドフラッグのメンツに対して畏敬の念を抱く。
「はぁ……そうですか。そりゃご苦労だったな」
「ザキール、レッドフラッグはやばい……。あの一大勢力だった大盗賊団"紅の荒獅子"を潰してるんだぞ」
「戦場も知らない青二才に潰される大盗賊団とか何のギャグだよ。知ってるよ、俺はそういう奴を何人も殺してきたんだからな」
ぼさつく頭の男ザキールが、手元の鎖鎌をちらつかせる。見慣れない武器にリティは興味を持ったが、聞くわけにはいかない。
その武器の性能を、彼女なりに頭の中で分析している。もし自分が戦ったらと、持ち前の集中力で何度もイメージしていた。
「何だかの功績で称えられた冒険者、何だかの魔物を一人で討伐した冒険者……そんなのが傭兵気取りで戦場に遊びに来るんだよ。本当の殺し合いを知らずにな」
その男、ザキールが山賊のボスである事は全員にとって疑いようもなかった。
じゃらりと音を鳴らして、ザキールは鎖鎌を掲げる。この武器で何人も処刑してきたと、見せびらかしているのだ。
「簡単だったよ。真正面からの戦いしか知らねぇ甘ちゃんだった」
鎖鎌をしゅるりと回転させて見せたザキール。それが殺害方法の比喩だった。
「あなたは……」
「ん?」
「あなたは何故、傭兵になったのですか。なぜ、殺し合いを?」
「こりゃ随分と小さな冒険者だな。おい、見ろよ。昨今の冒険者の人材もいよいよ危ういらしいぞ? しかもペット同伴だ」
「みゃぁぁぁん!」
ミャンの威嚇も空しく、ザキールの呼びかけの後は山賊達が下品に笑う。罵倒、中傷、ありとあらゆる言葉の刃をリティに向けた。
しかしリティは表情をまったく動かさない。響かないからだ。何がおかしくて笑っているのか、リティはまったく理解できない。
「オレが傭兵だって事もわかってんのか。簡単さ、冒険者なんぞよりも、羽振りがいい。殺せば殺すほど金が貰えるんだからな」
「殺す事に何の抵抗もないんですか?」
「すぐ慣れる」
面接のようなリティの質問だが、本人は至って真剣だ。彼らという人種を理解しようとしているのだ。この時点でリティは結論を出していた。
「無抵抗でも、謝ってもですか?」
「すぐ慣れる」
「もういい。とっとと始めようぜ」
その怒気は、この場にいる誰もが感じた。その主であるシャールはハルバートを構えて、笑っている。
そのちぐはぐな様相に、山賊達は困惑した。怒りなのか、喜びなのか。それを知る他のメンバーが先に動き出した。
「炎弾」
無数の炎が散弾して、最前列にいる山賊に直撃する。体を討ち抜かれた直後に、穴から炎が燃え盛った。
その速度は肉眼での視認は不可能に近い。魔力が少ない代わりに速度と密度を高めた炎弾は、彼女の努力の賜物である。
「チ、チキショウ! ザキール、どうする!?」
「攻めろ! 物量ではこっちが勝ってるんだからな!」
「無理だな」
そこに立ちはだかったのは壁だった。否、山賊達がそう錯覚したダイドーだ。彼を中心として山賊達が大剣にて斬り捨てられた。
巨躯に加えて異様に広い攻撃範囲に、山賊達は攻めあぐねる。
「そーれそれそれそーれぇ!」
「ぎゃああぁっ!」
「ぐあぁっ!」
山賊達の間を縫うようにして、ジェニファが両手に持つサーベルを振るう。その舞いを捉えられる者などおらず、成す術もなく斬り刻まれるのみだ。
歌舞手は歌と踊りだけではない。その確かな身のこなしとリズムは、紛れもなく戦闘に特化したものである。
数を減らす山賊達は阿鼻叫喚の中、まるで踊っているようでもあった。
「地よ! 立てぇ! 地の精霊タイタス!」
ザキールの近くにいた男が召喚術を行使する。地面から生えてくるように、ブロックが積み上がって人型となった。
「タイタス! ロックウォールだ!」
成人男性を軽く上回る高さのタイタスが腕を地面に突き立てると、山賊達の前に土の壁が立ち上がる。
「しょ、召喚術?! でも少しリンクが遅いような……?」
「わかってんなら、あたしを使ってあいつを倒しなさいよー。しょせん下位だからねー?」
「ウォーターガンッ!」
クーファがアーキュラを通して放ったものは、いわゆる水鉄砲だ。しかしそれが一つではなく、いくつも岩壁に打ちつけられている。
そこから水がじわりと浸透して、土の壁が形を崩し始めた。
「な、なんだ! タイタス! お前、真面目に……」
「アイツ、無理。水、上位」
「おい、タイタス!? こら、なんで消える!」
土の壁消失と共にタイタスが地に潜るようにして消えた。あまりにあっという間の出来事に、味方ですら呆然と立つのみだ。
「マジうけるー! あんた、召喚獣と全然連携できてないしー!」
「なんでだ! こんなの初めてだ!」
「そりゃ格上となんて戦いたくないでしょー? 召喚獣同士の戦いだと、これがあるから要注意ってねー」
「わ、わたしとアーキュラはもっと、もっと絆を深めます……!」
召喚術、召喚獣について連日のように勉強したクーファである。それが実力に繋がる事はすでにわかっていた。
ただ召喚させて行動させるだけでは三流以下、奇しくもあの召喚師ギルドの元支部長の発言を裏付ける出来事だ。
いうなればそういった知識もなく、鍛錬を怠った山賊の負けである。
「山賊が召喚術とはねぇ」
「ぐはッ……」
三流の召喚術を披露した山賊は、シャールのハルバートの一突きで絶命する。その付近にいた山賊に矢が突き刺さり、また数を減らす。リティの弓矢だ。
「あのガキ、弓の使い手か! 散開しろ!」
矢から逃れようと、山賊達が何とかリティに接近を試みる。しかし、その出鼻は一人が近づいたところで挫かれた。
蹴りを入れられて顎を粉砕、もう一人は剣で華麗に切り上げられる。さながらジェニファの舞いのごとく、体術と剣術のハーモニーだ。
これまでの経験をもってすれば、リティにとって山賊など何ら脅威ではない。むしろ先程まで侮っていたザキールが、恐れ慄く始末だ。
「こ、こいつ、やるじゃねえか……。女のガキのくせによ」
「ところで、お前はオレが相手をしてやるよ。ザキールちゃん?」
「……上等だ」
ザキールが鎖鎌を振り回し、シャールの挑戦状を受け取る。絶望的な状況だが、ザキールには勝算があった。
レッドフラッグのリーダーがシャールだと見抜いた彼は、それこそがウィークポイントだと気づく。
彼さえ殺せばいい。ザキールは元傭兵としての牙をすでに研いでいた。それはアジトの上、伏兵による援護射撃だ。
「お前らがいかに甘ちゃんか思い知らせてやるよ」
真正面から正々堂々と、そんな連中ほど餌食だと彼は確信している。それが間もなく牙をむく。同時にシャールのハルバートの柄についている赤旗が風でなびいた。




