リティ、山賊討伐に参加する
「リティもクーファも、3級になったならちょうどいいかもな」
冒険者ギルドにて、リティはレッドフラッグのシャールに頼み込んだ。1級パーティの実力と仕事が見たいからだ。
本来ならば、1級と3級では大きな隔たりがある。その仕事となれば未踏破地帯探索は元より、2級以下が行方不明になってる危険地帯の探索も含む。
中でも最強種とされているドラゴンの巣窟"ドラゴンズバレー"がもっともメジャーだろう。しかし今回、彼らがこなすのは探索でも魔物討伐でもない。
「ちょっとシャール、安請け合いしすぎじゃないの?」
「キャロンよ、この子達とは存分に仲良くしてくれ。そのほうが目の保養になる」
「殴るけど?」
「期待の冒険者育成もオレ達の務めさ」
シャールはもっともらしい事を言って、キャロンの握り拳を解かせた。キャロンが危惧しているのは彼女達の実力不足ではない。
今回の討伐対象になっているのは山賊、即ち人間だ。魔物討伐とは決定的に違うのは同族という点である。
「その子達に人間を殺させるわけ?」
「それは彼女達次第だなぁ」
「そんないい加減な……」
シャールの意図を計りかねるキャロンだが、リティはそれを承知だった。冒険とは楽しい事ばかりではない、時には苦い思いをする事もある。
召喚師ギルドの支部長で、リティはより思い知った。あの時こそ理解不能だったが、このままではいけないと考えたのだ。
世の中には自分の理解を超えた人間がいる。冒険者としてそんな連中は避けて通れないと、リティは前向きに判断した。
「ま、あの子も馬鹿じゃない。その辺をわかった上でオレ達に声をかけたんだろう」
「でも、あっちの子はどうなの」
「どうなのって……あ」
「さん、ぞく……! さんぞくっ……!」
リティの誘いを受けて冒険に挑んだものの、クーファはこの展開を予想してなかった。震えながら後悔している。
さすがのリティも今回ばかりは、と彼女を慮って辞退を勧めようとした時だった。クーファにくっついていたアーキュラが、にゅるりと人型になる。
「クーファさー、立派なマスターになるんでしょー?」
「でで、で、でも、人を、殺すのは……」
「あんた次第でしょー? さくさく行こうねー」
「ふぁあああ!」
「どっちがマスターだかわかんねぇな、これ」
アーキュラに半分以上取り込まれて引きずられるクーファ。大丈夫かと思わなくもなかったが、これはこれでいいと癒やされるシャールであった。
* * *
王都より数日圏内のとある場所に潜伏しているという情報を元に、一行は街道を外れたルートを辿っている。
道中、リティはレッドフラッグのメンバーと積極的に交流した。今はその中の一人、特異なジョブのジェニファと隣り合わせだ。
野営での食事を終えて、くつろいでいるところである。
「ねーねー、エイーダちゃんは?」
「まだ5級なのでダメみたいですね」
「ユニット組みたかったのになー」
ジェニファは拗ねるが、シャールがきっちりと断った事だ。山賊、というより対人戦は魔物討伐と勝手が違う。
一つは人間なので魔物と違って特定の習性がなく、知能がある。魔物以上に狡猾な立ち回りで討伐隊を半壊させる悪党も珍しくない。
もう一つはキャロンが指摘した殺人問題だが、その際にもっとも重要な問題があった。
「リティちゃん、あいつらの言葉に耳を貸しちゃダメよ。特に泣き言や命乞いはね」
「はい、キャロンさん。気をつけます」
「今回、討伐する奴らは旅人を何人も殺してるし隊商も全滅させているからね。泣く子だろうが殺すような連中よ」
「対人戦での勝利の秘訣は迷わない事だ」
口数が少ないダイドーが食事の後片付けをしている。リティも手伝おうとしたが、片手で制された。
近寄りがたい雰囲気はあるが、彼は後輩であるリティとクーファに負担をかけないようにしている。
こうしたレッドフラッグの人間と接してみて、リティはやはりユグドラシアを思い出してしまうのであった。
「ダイドーさんはなぜ剛戦士を選んだのですか?」
「やれる事が少ないからだ」
「え? どういう事です?」
「シャールやジェニファほど素早く器用に動けなければ、キャロンのような魔法の才能もない」
そう言いながら、ダイドーは容器を舐めているミャンの頭を撫でた。無口故に彼だけ掴みどころがなかったが、リティは彼に好印象だった。
バイダーに対して牙を見せたミャンも、彼にはされるがままになってる。
「どうせ図体がでかいだけのノロマだ。壁にしかなれんだろう」
「あまり自虐するなよ、ダイドー。オレ達は頼りにしてるんだからな」
「すまん」
その通りだとリティもシャールに共感する。本当に図体がでかいだけのノロマならば、1級になど上がっていない。それでも彼なりの苦労もあったのだと、リティは察した。
気がつけばジェニファがクーファの手を握って何か考え込んでいる。
「うーん、この子は向かないなぁ」
「でしょー? 舞台に上がってもガチガチに緊張して使い物にならないねー」
「緊張はどうとでもなるけど、そういうタイプじゃないかなぁ」
「あの、わたしが何か?」
本人を置いてジェニファとアーキュラのダメ出し合戦が始まっている。その後ろに回り込んだシャールがニヤつき、キャロンが軽蔑の眼差しを向けた。
「あ、オレのことは気にしないで」
「さ、今日はもう寝よう。最初の見張りはシャールだっけ?」
「そうだな。この辺の魔物なら、お前らを叩き起こすまでもない。リティとクーファも安心して休め」
「私達はいいんですか?」
「どこの世界に後輩をこき使う1級がいるんだよ。気にするな」
思わずリティがユグドラシアの事を口走りそうになるほど、シャールの言葉は軽くなかった。
たとえ大したことがなかろうと、その手にハルバートを持った途端に雰囲気が一変する。
「……あの人、すごいですね」
「そりゃねー。むしろ強いだけが取り柄というかねぇ」
「それと女遊びをして散財しないところもね」
リティにもう一つの取り柄はよくわからなかったが、やはりほんのりとアルディスを思い出す。
そして、スカルブ討伐の際の重戦士ギルドの支部長やディモス、教官達。シャールのただならぬ集中力とは別に、リティの中にある冒険者像がより明確になる。
いつか立派な冒険者になって、後輩に胸を張れるようになった時の自分のあるべき姿を思い描くのであった。
* * *
「ここら辺に奴らのアジトがある。キャロン、反応はどうだ?」
「もう少し先かもね」
数日後、山賊の勢力圏内に辿り着く。山の入口でキャロンが魔力感知を行い、生物の気配を確認。
魔術師としても優秀な彼女だが、魔力感知は別な才能を必要とする。大なり小なり生物が持っている魔力を、キャロンは一定の範囲ならば認識できるのだ。
「すまないな、キャロン」
「私の仕事でしょ。なんで謝るの」
「それが大変だってのはわかってるからな。頼りにしちゃいるが、無理はしないでくれ」
「……昨日、ダイドーは自分をああ言ってたけどさ。私だって大した魔力はない。だから出来る事をやってるだけよ」
数日、彼らと行動を共にしてリティは気づいた。ダイドーもキャロンも、自分を過小評価している。
彼らの言葉通りだとすれば、二人は天才でも何でもない。それでも彼らは強く、この地位にいる事の意味をリティは身をもって知ったのだ。
現に道中の魔物討伐では、リティとクーファの出番などほとんどなかったのだから。
「私も楽しく踊ってるだけだし?」
「あなたは大したものよ、ジェニファ」
「私だってシャールのおかげで追放冒険者落ちしなくて済んだもんねぇ」
「なになにー? くわしくー」
「アーキュラもお前らもそろそろ気を抜くなよ」
都合が悪い話を打ち切りたかったとも取れるシャールの横やりだが、その言葉に間違いはない。すでに山賊の勢力圏内であり、その不届き者も気をぬけない連中だからだ。
特に頭である傭兵崩れの男は、3級以下の冒険者を数人ほど返り討ちにしている。紛争地帯でも度々、名を馳せたほどの実力者だった。
そんな彼がどういった経緯で山賊に落ちたのかは知る由もないが、レッドフラッグがやる事は変わらない。
「魔力感知、確認! 情報通りの人数ね!」
「さぁて、やるか。お二人は好きに動いていいぞ、リティにクーファ」
「……はいッ!」
どう動こうとフォローするというシャールの意思だ。それが慢心から出た言葉ではない事は、リティがわかっている。
人間相手という事実を頭から失くして、集中した。そうでなければ死ぬという先輩の助言を忠実に守っているのだ。
「ア、アーキュラ……」
「あたしがいるんだよー? それがヒントねー」
クーファのほうが踏ん切りがついてないが、アーキュラが唯一にして最大のヒントを与えた。そう、水の上位精霊ならばどうとでも出来るという無言のアドバイスだった。




