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リティ、剣士ギルドで学ぶ

 剣士ギルドでの最終試験に合格すれば、晴れて剣士(ファイター)の称号が貰える。称号があればパーティ内での役割も明確になるので、討伐依頼を受けられる5級からは必須だ。

 依頼人としても、何の称号も持たない冒険者には金を出したくない。更に富裕層となれば剣士(ファイター)の上位職、騎士(ナイト)を求める者もいる。

 だが上位職だけあって、簡単な話ではない。何故なら剣士(ファイター)の称号を習得した者のみ、騎士ギルドで学ぶ事を許されるからだ。

 こうした上位職を目指すなら剣士(ファイター)に限らず、下位職の称号習得は避けて通れない。


「これが……剣ッ!」


「あの子、何やってんだ?」


 支給された剣を掲げて魅入ってる少女がいれば、目立ちもする。これほどまでに剣に感動する人間に、教官であるジェームスは出会った事がなかった。

 ひとまずリティの肩に手を置いて、正気に戻させた教官ジェームス。


「君にはまず、素振りを行ってもらう」

「素振りというと、皆さんがやってるアレですか?」

「そうだ。型を知らねば型無し。基礎体力向上にも繋がる」

「村でやってました!」

「ほう、一日百回もか?」

「ひゃっかい?!」


 見れば周囲の剣士見習いは、汗だくだ。それでも一心不乱に素振りを行っている。

 少し驚かせてしまったかと、教官ジェームスは意地悪くニヤリと笑った。

 だが、その程度で少女のテンションは下がらない。


「君の体格と筋力からして、もっとも軽い剣を選んだ。そうだな、まずは無理をしないで数回程度にしておこうか」

「じゃあ、始めます!」


「クククッ、すぐにへばるさ」


 ほくそ笑んだ一人の剣士見習いの男。男の素振りはすでに200回に到達してる。相応に隆起した筋肉は、すでに剣士として出来上がっていた。

 男が見せつけるように、更に激しく素振りをする。


「フッ! ハッ! くらえッ! フッ! ハッ! くらえッ!」


「教官! あのかけ声も出すんですか?!」

「あれは彼の趣味だから気にするな」


 男もまた、強者に憧れた者の一人だ。教官ジェームスもこの男も、リティが素振りの時点ですぐに音を上げると思っている。

 大した志もなく、憧れだけで剣士ギルドの門を叩いた若手で残った者はほとんどいない。単調な素振りを延々とやらされて、理想と現実の違いに嫌気が差す。

 そしてギルドへの登録料金だけを落としていくのだ。皮肉な事に運営資金が、こうした連中から巻き上げたもので成り立っている側面もある。

 募金ありがとな、教官ジェームスはリティに心の内で礼を述べた。

 が、すぐに異変に気づく。


「フッ! ハッ! くらえ! フッ!  ハッ! くらえ!」

「いや、だからそれは真似しなくて……」


 確かに剣自体は非力な者でも、両手ならば何とか持てる程度のものだった。だが振るとなれば、そのまま地面に落として終わりだ。

 そこからまた持ち上げて、振る。その動作の過酷さは教官ジェームスが一番よくわかっている。目の前の少女はどうだ。太刀筋や重心も安定しており、とても今日が初めてとは思えない。

 先程の村でやっていたという発言も、あながち遊びというわけでもないのか。教官ジェームスはそう納得した。


「……なかなかだな」

「オイオイ。その小さい体で少しはやるようだが、それじゃへばっちまうぞ?」


 自分の素振りを終えた男が、教官ジェームスと一緒になってリティに魅入ってる。男が口にした言葉とは裏腹に、リティにその様子はない。

 教官ジェームスも腕組みをして楽観していたが、リティは水滴のような汗を額に張り付かせるだけだ。すでに回数は90を超える。

 妙なかけ声こそ出さなくなったものの、口で自身が振るった回数を言っていた。


「99……100……101……」

「いや、無理をするな! もうやめていい!」

「はい。それじゃ次は何をすればいいですか?」

「次って……」


 呼吸を荒げてはいるものの、リティに力尽きる様子はない。

 リタイアすると思い込んでいた少女が、100回の素振りを難なくこなすなどと想像すらしていなかった。

 それよりも妙なのは、やたらと安定した太刀筋だ。どう見ても初心者のそれではない。

 教官ジェームスは思いきって質問をしてみた。


「剣を持つのは本当に初めてか?」

「はい。村では持たせてもらえませんでしたし、今も高すぎて買えません。だからすごく嬉しいです」


 少女が嘘をついているようには見えない。初心者の振りをして褒められて、自尊心を満たそうとする者はたまにいる。

 だがそんなものは見ればわかるのだ。教官に就ける条件の3級を満たした猛者を欺けるほど、甘い世界ではない。

 この少女の曇りのない表情を見ていると、やはり本当に初心者なのだと確証はないが確信してしまう。

 そこで教官ジェームスは次のステップへ進ませようと考えた。


「今の素振りは毎日やってもらう。無理のない範囲で続けるのが大切だからな」

「はい!」

「では次、"受け"だ。これは二人一組で片方が剣を振り下ろし、片方が受ける。相方はそうだな、ロマ!」


 かけ声の男にしようか迷った教官ジェームスだが、さすがに力の差がありすぎる。そこで同じ背格好のロマがちょうどいいと考えた。

 ロマはすでに最終試験目前まで進んでいる。剣士としての基礎はほぼ出来上がっており、教官ジェームスも感心している逸材の一人だ。

 汗をかいたロマがやってきて、リティと対面する。


「加減はしてやれ。初心者だからな」

「はい。リティさん、行くわよ」


 リティが予め剣を構えて、ロマが加減した力でそれに振り下ろす。剣と剣がぶつかる衝撃は音も相まって、なかなか体に響く。

 一撃、二撃と耐えられても続く者はあまりいない。これこそすぐにギブアップするだろうと教官ジェームスは思っていた。

 だがロマの剣撃を、リティは真剣な表情で何度も受けてる。やはりおかしい。


「リティさん、すごいわ……本当に初めて?」

「はい。さっき見ていたので」

「見ていた?」

「ロマさんやア……他の方のやり方を見ていたんです」

「それだけで?」


 ロマは自分がからかわれていると思った。教官ジェームス同様、初心者の振りをして周囲を欺こうとしている。

 しかし同時に、せっかくの同年代の知り合いを疑いたくないという気持ちもあった。

 彼女は感嘆しつつも、リティの観察をやめない。


「あの、剣術って面白いですね」

「面白い?」

「この武器だけで皆さん、いろんな動きをしているので面白いです。あそこの人なんて、相手の攻撃を薙ぎ払ってますよね」

「あれは難しいわよ。習得するのに苦労する」


 技術指導も段階を踏めば、難易度が上がる。しかも学んだ動作をすべて実戦で使えなければ意味がない。

 練習では出来ても実戦では活かせない者も多く、ここで挫ける人数も少なくなかった。

 そして最終試験に合格する人数はわずかだ。そこを乗り越えて、晴れて剣士を名乗れる。


「ロマ、君も最終試験が近い。あちらで仕上げに戻っていいぞ」

「はい。では……」


 戻っていくロマを、リティは興味深く見送った。自分とそんなに変わらない歳なのに、もうそんなところまで行っている。頑張らねばと、より奮起した。

 実際、ロマは目を見張るほどの上達ぶりだ。称号の習得まで数年を要する者も多い中、ロマは一年足らずで最終試験目前にまで迫っている。剣士の訓練に傾倒しているせいか、未だに6級の講習を終えていないのはご愛敬だ。

 これには大の大人も、自身のアイデンティティが危うい。かけ声の男ビルデットは今年で7年目になるが、未だ技術習得で伸び悩んでいた。

 だからこそ、ルーキーのリティに優越感を感じていたのかもしれない。


「教官、俺ってやっぱり才能ないんですかね」

「君の価値を決めるのは私じゃない」


 ハッキリと才能がない、と告げて引導を渡してやるのも教官の務めである。しかし根が非情に徹しきれない教官ジェームスは、そう濁すしかなかった。

 とはいえ、これまでの鍛錬は無駄にはならない。冒険者として活躍できなくても、出来上がった体で出来る事はある。


「君のバイタリティを欲しがる人は多いぞ。もう少し頑張ってみるのもいいだろう」

「で、ですよね! よーし!」


 ビルデットが、"足切り"の訓練に移っていく。リティはパートナーを変えて、"受け"と"打ち込み"を交互に繰り返した。

 これらは教官が習得したと見なせば、次の段階へ進む。ロマは最終試験目前で"払い薙ぎ"、ビルデットは中間の"足切り"、リティは"受け"と"打ち込み"だ。

 通常ならばリティが最終試験に挑めるのは、だいぶ先になる。しかし、彼女は見ていた。


「あれが払い薙ぎ……なるほど」


 打ち込み、受けの最中にも遠目で見える"払い薙ぎ"の練習風景を観察していた。中央で行われている模擬戦も、すべてが彼女の糧になっている。

 そんな彼女をロマもまた気にしていた。

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