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リティ、再び格闘士ギルドを訪れる

 後日、改めてリティは弓手(アーチャー)ギルドを訪れた。

 訓練は動かない的への射的、動く的への射的に分類されている。それに素撃ち、二段撃ちなどのスキルで当てるのが第一段階の課題だ。

 仕上げはこれらを時間短縮した上で達成するのが第二段階だが、リティはこれを一日で終えている。この時点で支部長は最終試験を即決した。

 弓手(アーチャー)ギルドの熟年の女性支部長は、厳しい事で有名だ。下手をすれば一年スパンで最終試験を行わない事も多い。


「制限時間以内に、無数に動く的の中から目標の的を探し出して当てる……。クリア時間6秒、どこに文句をつけられるってんだい……」

「ど、どうもです」


 支部長が赤い唇を歪めて、リティの冒険者カードに称号を捺印している。意地が悪い性格の彼女としては、やや面白くない。

 しかし才ある冒険者の登場を喜ぶ懐はあった。そんな中で、自然とカタラーナの話題へとシフトする。

 

「……私が知る限りではあんたが最速で最終試験に到達している。あのカタラーナが知れば悔しがるだろうねぇ」

「カタラーナさんも、このギルドで称号を習得したんですか?」

「あの子は7年かけて習得したね。陰で泣きべそをかいてるところを見たのは一度や二度じゃない」

「そ、そうなんですか」


 自分は努力型だという彼女の発言を裏付けるエピソードを聞いて、リティは言葉が続かなかった。

 昇級試験での横暴を腹いせと捉えるか、厳しさの裏返しと捉えるかでリティはやや悩む。

 しかし別れ際の彼女の態度を思い出して、リティは後者と捉える事にした。少なくとも今のリティに、初対面ほどの悪い印象はない。


「これで称号4つ、ねぇ。この調子なら、格闘士(マーシャル)ギルドにも行くんだろう?」

「はい。そのつもりです」

「あそこの支部長は数年、称号習得者を出してないからね。せいぜい気をつけな」

「え……は、はい」


 その発言の意図はわからなかったが、リティの意気込みは変わらない。クーファが気絶したほどの迫力は知っているので、曲者という予想はついていた。

 あんたなら問題ないだろうけどねという支部長の皮肉とも取れる発言を聞き流しつつ、リティは表へ出る。


* * *


 格闘士(マーシャル)ギルドは他のジョブギルドとは明らかに様相が違う。所々、亀裂が入った年季入りの建物。剥がれ落ちた塗装。

 そんなジョブギルドだが、リティは堂々と門をくぐる。奥から聞こえてくる怒声が近くなった。


「馬鹿者が! 反省点すら洗い出せぬなら今すぐにでも出て行けッ!」


 入ると広い道場にて、見習い達が正座させられていた。その中の一人である少女が、特に激しく叱責されている。涙を浮かべて、大男の飛び散る唾を浴びていた。


「立て! もう一度、組手だ! 左から順にかかってこい!」

「はいッ!」


 組手が始まり、一人当たりものの数秒でダウンさせられる。その度に叱責されてはの繰り返しだ。中には投げ飛ばされる者までいた。

 誰一人、大男と善戦できる者がいない。全員に立つ気力も体力もなくなった時、大男は追い打ちをかける。


「ダメだ、ダメだ! 全員、話にならん! 特にエイーダ! 貴様、ここにきてどれほど経つ!」

「3年です!」

「ならば貴様が手本となるべきだろう! 違うか!」

「はいッ!」


「あの……」


 見てられなくなったリティが、道場に踏み込む。思わぬ訪問者に大男や見習い達が、ピタリと止まった。

 男ではなく少女、それも妙な生き物を巻きつけているとあっては当然だ。


格闘士(マーシャル)ギルドですよね? 私、リティです。称号を習得するために来ました」

「お前がか? 5級への昇級なら他を当たれ。ここではやっておらん」

「3級です。称号のために頑張ります」

「む……」


 大股で歩いてきた大男が、リティを観察する。特にミャンに対しては、あらゆる角度から眺めていた。


「ペットの持ち込みは禁止だ。これは置いておけ」

「ペットじゃありません。幻獣ミャーンです」

「それが幻獣だと? いや、そんな事はどうでもいい! 聞けぬというのなら入門は認めん!」

「わかりました。ミャン、あの隅で待ってて下さい」

「みゃん……」


 しゅるしゅると隅に移動して、とぐろを巻くようにしてミャンが座る。見習い達がそれを目で追う。

 おとなしく待っているミャンの姿をリティは満足そうに見届けた。


「これ、登録のお金です」

「……うむ。ワシが支部長ダッガムだ」


 ダッガムがリティから金を受け取り、道着の懐に入れた。緊張が解けない見習い達はリティに目で帰れと促す。それが親切心であろうことは、リティにもわかっていた。もちろんリティにそのつもりはない。


「時間も半端な上に初日だ。今日は夕刻まで見学していくがよい」

「はいっ!」

「正座だッ!」

「はぁいっ!」


 道場の端によって普通に座ろうとしたところで、リティは慌てて正座する。ミャンと隣同士になるが、リティはダッガムの言いつけを守った。

 再び組手が始まり、見習い達が次々と痛めつけられる。中でもエイーダは特にひどかった。なじられ、蹴られて、投げ飛ばされる。

 他人ごとながらも他の見習い達は彼女を気の毒に思うが、同時に安堵していた。彼女がダッガムの標的になる事によって、自分達への風当たりが弱くなると考えているからだ。


「またへっぴり腰だッ!」

「はいっ!」

「左がガラ空きィ!」

「うぐっ……」


 側面から蹴りを入れられたエイーダは堪えるが、追撃の突きで転倒してしまう。

 立ち上がろうとしないエイーダを、ダッガムが無理にでも立たせた。ふらついた彼女の頬を叩く。


「今日だけで貴様は6回も死んでいる! いくつ命を持参する気だ!」

「はひ……」

「もう一回やるぞ!」

「は、ひ」


 もはや喋る事すらも出来ないエイーダだ。リティもこれには反感を持った。

 厳しいのは承知していたが、死んでしまっては意味がないと思ったのだ。膝が笑い、また倒れたエイーダをダッガムが見下ろす。


「苦しいからといってすぐに休んでは鍛錬の意味がない! この根性足らずが!」

「は……い」

「フン! もういい! そんなに寝たいなら端で寝てろッ!」


 ダッガムがエイーダの首根っこを掴んで投げ飛ばした。リティはそれをキャッチしに行く。意外な行動にダッガムは面食らうが、すぐに歩み寄る。見習い達はリティのその身体能力に驚くが、ダッガムだけは冷静だった。


「誰が手出しを許可した?」

「この人を殺す気ですか」

「このくらいでは死なんよ」

「死なないようにするのがジョブギルドのはずです」


 見習い達が青ざめる。これ以上、火に油を注ぐなとリティに念を送っていた。しかしダッガムは何も言わずに踵を返し、奥へと歩く。


「興が冷めた。今日は終いにする。リティといったな……明日から覚悟してもらうぞ」

「望むところです」


 先程の勢いに反して、ダッガムは静かにいなくなった。残された見習い達は一斉に大きく息を吐く。

 そして虚ろな様子で立ちあがり、よろよろと道場から出て行った。その際に口々にダッガムへの呪詛を吐き出す。

 そろっとリティは彼らについていった。


「やってられねぇよ……もう今日で辞めるわ。あのおっさん、なんか勘違いしてんじゃないか」

「俺もだよ。あんな調子でやられちゃ強くなる前に死ぬよ……」

「たかが下位職の格闘士(マーシャル)でさ。あいつ自身も、俺達みたいな格下にしか粋がれないんだろ」

「そこの女の子も、やめたほうがいい」

「いえ、やめません」


 頑なになるリティに、見習い達は軽蔑すら含んだ視線を送る。一日で辞める者が珍しくないギルドだ。

 3級で意気揚々と入ってきたものの、一日の間に数えきれないほど投げ飛ばされた者もいた。

 中には怒って戦いを挑んだ者もいたが、武器を所持した状態ですら投げ飛ばされたのだ。そんな支部長であるから、見習い達も本心で彼が弱いとは思ってない。

 しかし、彼らは折れてしまった。


「見ただろ。あんなのただの虐待だよ。だから潰れかけるんだ」

「潰れかけるとは?」

「あんな調子だから、人が寄り付かなくなる。運営費もまかなえずに、このボロい建物の修繕すらままならない」


 リティは建物を見上げた。屋根も危うく、全体を見るといつ倒壊してもおかしくないほどの状態だ。

 リティはこんな状態を放置しているダッガムの真意がわからなくなった。


「それによく考えたら、格闘士(マーシャル)なんてだせぇわ。やっぱり男は剣士だよな」

「いいね。明日は剣士ギルドに行こうぜ」


「ダッガムさんに辞める事を伝えなくていいんですか?」


 素直な疑問を口にすると、見習い達は呆れたように鼻を鳴らす。


「今まで辞めた奴らも無言だったからな。金はくれてやるよ。癪だが手切れ金と思えば悪くない」

「エイーダもいい機会だから一緒に辞めようぜ? お前が一番うんざりしてるだろ?」

「そんな事ないッ!」


 大きく言い返してきたエイーダに見習い達は引く。リティも意外に思ったが、それが虚勢でない事は目を見てわかった。

 あれだけ痛めつけられて泣いていたのに、強い意志をどこか感じたからだ。


「あの人の指導は的確だよ! 不甲斐ないのは上達できない自分のほうだ!」

「あんなんじゃ上達なんて出来ないだろ……」

「厳しいに決まってる! 生死が関わる仕事をするんだから当たり前なんだ! あなた達は剣士ギルドでもどこへでも行けばいい! わたしはまだやるッ!」


 そう言い切って、エイーダは走り去った。勢いに圧倒された見習い達だが、やがて再び歩き出す。


「あいつ、家が貧しいのによくやるよな」

「あそこに通いながらも、仕事して生活費を工面してるらしいぜ」

「そりゃ本当か? だったら尚更、あんなとこ辞めりゃいいのによ。本当に死ぬだろ……」


 リティは自分の行動を思い直した。あの様子だと、エイーダを助けたつもりが余計なお世話に思えたからだ。

 もし彼女の主張が正しいなら、根本的に勘違いしていたのはリティのほうだった。


「あの人達とは違うのかな?」


 ユグドラシアを思い浮かべながら、そうごちたリティは明日に向かって今日は体を休める事にした。


名前:リティ

性別:女

年齢:15

等級:3

メインジョブ:剣士(ファイター)

習得ジョブ:剣士(ファイター)

      重戦士(ウォーリア)

      召喚師(サモナー)

      弓手(アーチャー)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 格闘士の上位が武闘士だと勝手に思ってるのですけども、前話でギルド名が武闘士ギルドとなっています。格闘士ギルドの誤記ですかね? それとも単にごっちゃになってるだけでしょうか?
[気になる点] 前回の感想で器用貧乏と言ったがそのままの意味ではなくゲーム的イメージだと器用貧乏=コンボが繋げやすいけどアタック低めなイメージが浮かんだからであり このままリティが多数のジョブ習得&…
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