リティ、3級へ昇級する
リティとクーファを連れて、カタラーナが冒険者ギルドに凱旋する。過去に合格者0を連発した本部の冒険者が上機嫌なのだ。注目されるのも必然だった。それもリティやクーファのような少女となれば、誰もが呆気にとられる。
「まさかあの女が合格者を出したのか?」
「そんなわけないだろう。試験すらやらずに強引に追い返す事で有名な奴だ」
「評判悪いよなぁ。王都支部も、何か言えばいいのにな」
口々に語られるカタラーナへの不評だが、当の本人は鼻歌だ。リティは致し方なしとばかりに耳を傾けていたが、クーファはそれどころではない。
マフラーとフードで顔を隠して、何とか視線を弾きたい一心だ。もちろん弾くどころか、逆効果である。
「あ、あ、あの。は、はは、はやく」
「清算しましょう」
「あ、はい……」
深き底の暴掘主の収集品の清算が先だった。カタラーナに肉も含めて価値が高いと教えられたので、リティはギルドへ納品する。
3級が確約されてるとはいえ、今の時点でリティはまだ4級だ。受け付けの人間が目を丸くするのも無理はない。
「あの暴れ者を君が? ほぉ、これはまさしくネームドの爪だ!」
「買い取っていただけますか?」
「もちろんだとも!」
「なっ、何だって!」
注目どころか、多くの冒険者達が寄ってきた。これによりクーファは完全に目までマフラーで覆う。
意気揚々と討伐に向かった腕利きの3級パーティが、帰らずとなったほどの魔物だ。王家が騎士団派遣を検討するほどの魔物だ。
それを4級の少女達が討伐したなど、目の当たりにしていなければ信じられるはずがない。
「何かの間違いだろ!」
「はいはい、邪魔だから散ってね」
「オレ達なんか、命からがら逃げてきたんだぞ?!」
「だから邪魔だっつってんだろ」
大声で恫喝せずとも、カタラーナのそれは十分な効果だった。騒ぎ立てる冒険者達が一斉に沈黙して、清算がスムーズに行われる。
ただでさえ捉えどころのない厄介者として認識されている彼女だ。怒らせた後の現場など、誰も望んでいない。
「……とまぁ、何かやる度にこうやって騒がれるのはしょうがない。二人は今のうちに慣れておいてね」
「はい! 耳を塞ぎます!」
リティにとって問題だったのは騒音だったのかとカタラーナは苦笑する。注目そのものを避けたいと願っているクーファのほうが正常だが、すでに顔が見えない。これはこれで問題だと、カタラーナはあえてクーファのマフラーをはぎ取ってフードを外した。
「ひゃあうっ!」
「ひゃあうじゃないの。服装は好きにしていいけど、これも訓練だと思うのよ」
「で、でで、でぇもぉぉ……」
「なんかここまでくると面白いわね」
ゆで上がったように耳まで赤くしたクーファが、今度はリティの背中にくっつく。そんな状況で高額の報酬を得て、今度はギルドの奥へと通された。
* * *
冒険者ギルド王都支部の支部長とカタラーナを交えて手続きを終えた。3級となれば、必然的に請け負える仕事の質が上がる。討伐依頼だけではなく、各界の要人からの依頼も受注可能だ。
デマイルのように、全員の懐が広いわけではない。彼らが最低限、良しとしているのが3級だ。つまり気に入られたならば、出世のチャンスでもある。冒険者から結果的に富豪へ羽ばたいた者もいるほど、3級は夢への登竜門でもあった。
「これで晴れて君達は3級だ。おめでとう」
「ありがとうございます! 頑張って冒険します!」
「冒険か……」
そう遠い目をするのが、王都支部長だ。特級の実績を持ち、王族からの信頼も厚い老齢の彼には苦い言葉だった。
未踏破地帯で地獄を見て、仲間が葬られ。唯一生き残った一人が廃人同然となる。やがて彼の死を看取った後は本部からの誘いも断り、支部長としての余生を選んだ。もはや半ば隠居を決め込んでいた彼が、リティをどう見るかといえば。
「やめておけ……と、本来であれば言うのだが。ワシの言葉でお前さんの生き方は変えられん。目を見ればわかる……ゲホゲホッ! ゲホッ……ゲホッ!」
「だ、大丈夫ですか?!」
支部長の吐血が激しい。カタラーナが背中をさすり、落ち着けるが呼吸は荒かった。
「ハァ……ハァ……」
「あの……お体を悪くされてるのですか?」
「若かりし頃に無茶をしたツケだな。だが、あの頃のワシに『こうなるからやめておけ』といっても聞かんだろう」
「それほど過酷な冒険を……」
どれだけの実績があり、実力があっても人は老いる。永遠には活動できない。この老人が、リティにその現実を見せつけた。こうなれば将来への不安が頭をよぎり、尻込みをしてもおかしくはないがリティは尚も変わらない。
「そもそも……言葉一つで他人をどうこうしようと思うのが間違いなのだ。特に若い頃のワシや君のような人間はな。言って聞くようならば、言わずともとっくにやめておる。違うか?」
「はい。支部長ほどの方がこうなってしまうほどの冒険です。より気が引き締まります」
「それはよかった。顔を見せた甲斐があったな」
「おかしいわ。いつもの支部長ならやめさせたと思うんだけど?」
カタラーナの茶々に支部長が薄く笑う。3級にもなれば、無茶をしない範囲ですら収入としては十分だ。
商売を始めるのもよし。家庭を築くのもよし。これ以上となれば、常人は踏み入れない。
剣士ギルドの教官達のように、丸く収まるのが普通だ。支部長としては、そういった道もあると示したかった。
「カタラーナ、お前さんが通したような冒険者だぞ。ワシがどうこう出来るか」
「ひっどーい。まるで私が変人みたいな言い方ね」
口をついて突っ込みたくなったリティだが、全力で黙る。クーファは初めから何も言う気はない。緊張のあまり、早く終わらないかなとさえ思っていた。
「リティ、お前さんは冒険者以外はやれんよ。そういう類だ」
「自分でもそう思います」
「そっちの子は……ま、焦らんでいい」
支部長の言葉の意味を当のクーファですら理解してない。クーファとしても、悪魔がいなくなった状態で冒険者を続けられる自信がなかった。
それに冒険者というものに、それほど情熱があるわけでもない。クーファのそういった部分を支部長は見透かしていた。
「それにしても、よくわかりますね」
「歳をとって動かなくなると、目ばかり肥えていくのがいかんな。そして暇になり、しょうもない事ばかり気になり始める」
「目を鍛えるのはいい事だと思います」
「ウワッハッハッハッ! お前さんと話してると飽きんな!」
最後に笑ったのはいつだったかと、支部長は思いを馳せる。自分の過去を投影して幾度なく冒険者を引き留めようとしたが、そんな気すらさせないリティだ。
同時に、この子の訃報だけは聞きたくないと密かに願うのであった。
「支部長、聞きたいんですけど。召喚師ギルドって今、どうなってるんですか?」
「カタラーナ、どうとは?」
「悪魔族の危険性と取り扱い方すらも教えないような場所なんですよ」
「なに?」
クーファが顔を上げて、真剣な二人の顔を見比べた。話が進むにつれて次第に支部長の顔が険しくなり、カタラーナも同様だ。怖くなったクーファは再び視線を落とす。
「クーファちゃん。悪魔を召喚できると知った召喚師ギルドの連中はどんな様子だったの?」
「う、嬉しそうで、私も……嬉しかった」
「そう……」
カタラーナが席から立ち、クーファの手を取る。
「クーファちゃん。召喚師ギルドまで一緒に行こうか」
「え、え、ええ?」
「あの! 私も実は用があるんです!」
「リティちゃんが? まぁいいか。むしろちょうどよかった」
リティは寒気を感じた。カタラーナがほんの一瞬だけ見せた凍りつくような無表情。それは筆舌に尽くしがたい怒りであると、リティは予感したのだ。
リティに詳細は察せない。わかるのは、彼女がそれほどの怒りを見せる理由が召喚師ギルドにあるというだけだった。
名前:リティ
性別:女
年齢:15
等級:3
メインジョブ:剣士
習得ジョブ:剣士
重戦士
ようやく3級に上がりました。
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