リティ、悪魔について知る
「な、なぁクーファ……お前にはオレが必要だろ?」
悪魔が苦悶の表情を浮かべながらも、まだ諦めない。クーファは何も言えず、立ったままだ。
この悪魔のおかげで生きてこられた恩を捨てきれずにいる。そんな弱みを悪魔は見逃さなかった。
「オレがいなくなって、もう一度召喚術を成功させられる自信があるか? どんな奴が出てきて、どんな代償があるか……想像できるか?」
クーファは何も言わずにリティをちらりと見る。リティもそれに対して何のリアクションもしない。クーファの自発的な行動を待っているのだ。
「だんまりじゃねえか。お前みたいなのはコソコソと盗みを繰り返しては惨めに生きていくのが関の山だ! だからオレに頼るしかないよなぁ?!」
「盗み……?」
あらぬ過去を暴露されたクーファが、より口を噤む。盗みというワードでリティも驚くが、クーファを軽蔑しない。
「クックックッ……そいつは小汚い恰好で街をうろついてな。野良犬みたいに追い回されながら生きてきたんだよ。笑えるだろ?」
「面白いんですか?」
「誰にも望まれず、疎ましがられた奴が今更どう生きようってんだよ? オレがいなけりゃどうなってた? なぁ?」
「どう、なってたか……」
クーファが悪魔の言葉に乗せられつつあるのを見て、リティがまた手を握る。びくりと震えて驚いたクーファだが、リティの曇りなき眼差しを見て落ち着いたようだ。
「クーファさん。私が手助けします」
「リティ、さん……」
「無理だぁ無理無理! いいよいいよ、オレを殺してゴミでも漁って生きてろ! フレッケッケッケッ!」
リティのおかげか、悪魔の下品な笑い声と煽りを聞いてもクーファが動揺する様子はない。そしてリティの手を強く握り返す。
「わ、わたしっ! お、おともだち、つくりたいです!」
クーファがリティから手を離して握り拳を作る。悪魔が後ずさって驚くのも無理はない。
悪魔はそんなクーファを見た事がないのだから。何故こうなった、どうして。悪魔はそんな自問自答の答えを見る。剣を突きつけてくる、リティを睨み返した。
「友達だぁ? お前みたいな奴にゃ無理だよ!」
「リ、リティ、さん。わたし、今まで悪いこと……しました」
悪魔を無視して、クーファはリティに語りかける。悪い事という言葉に面食らったリティだが、しっかりと頷いて聞く姿勢だ。クーファは顔を伏せて、たどたどしく語り始めた。
「お母さんと、お、お父さんがいなくなって……。ひとりぼっちでした。だから、食べ物も、いっぱい、盗みました……。石、たくさん……なげられました。捕まって、た、叩かれて、怪我して……」
「そうだ! お前はそんな惨めなあがッ!」
リティが悪魔の口に剣を突き刺す。もはやリティに悪魔に対する慈悲はなかった。ただの討伐対象であり、言うなれば魔物だ。唯一違うのは、何の報酬もない事くらいだった。
「あ、ある日、召喚術の話を聞いて……。あれなら、ぶ、武器もないし、使えない私でも出来るって……。でも、お金がないからギルドにも……入れなくて。それでも、なんとか、成功させました……」
「あが、あふぁ……」
喉まで刺されて何も言えない悪魔が足掻いてる。リティはそれを維持したまま、何も言わずに聞いていた。
本来であれば召喚術にも基礎があり、必要なものもある。それを何も持たない少女が成功させたのは紛れもない才能だった。
リティにそこまでの詳細は見通せてないが、すでにクーファを認めている。話を聞きながらも、リティは感動すらしていた。
「召喚師ギルドにいって……そしたら、みなさんすごく褒めてくれて……。称号、もらいました……」
「……苦労されたんですね」
「嬉しかったのに、でも、話したら、契約違反だから、黙ってて……それでも、みなさん……」
「出会いっていいものですよね」
大きく頷いたクーファは、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。変わろうと願っているクーファに、リティは大きく心を揺さぶられている。
もらい泣きしかけたところを堪えて、リティは改めて刺したままの悪魔を見下ろした。
「クーファさんはこの悪魔と離れたいですか?」
「……ずっと一人だったから、契約違反なんてと、思ってました……。でも、いまは違います……」
鼻水をすすり、クーファはリティの目を見た。リティも彼女の言葉を待っている。
「わたし、一から、やりなおしたいです! 悪魔と離れたいです!」
クーファの言葉を確認したリティが一度、悪魔から剣を引き抜く。そして止めの一撃を放とうとした、その時だった。
「はいストーップ」
洞窟の奥から、カタラーナが現れた。ここで初めてリティは今、自分達が試験に挑むところだというのを思い出す。
かなり時間がかかったはずだし、探し出して不合格を言い渡しに来たのではないか。そんなリティの邪推をよそに、彼女はしゃがんで悪魔を見つめる。
「まさか悪魔を召喚していたなんてね。こうなった経緯は察したけどね、リティちゃん。これは待ったほうがいいわ」
「え? 殺しちゃダメなんですか?」
「悪魔を殺しても魂はこの世界に止まり続けるの。そしていつか復活してしまう。悪魔にとって肉体はただの器だからね」
「えーーーーっ!」
「グソッ……」
この悪魔の態度が肯定していた。あと一歩で面倒な事態を引き起こしていたと、リティは気づく。
「ね、下位悪魔のデシテルさん?」
「ハァ?! オレをあんな雑魚と一緒にするな! オレはガリエル……」
言いかけて、悪魔は口を閉じる。しかし、カタラーナさんはしてやったりと笑顔で労った。
「はい、よく言えました。大悪魔バフォメットの眷属ガリエルさん」
「あ、あぁー! チキショウッ!」
悪魔ことガリエルが這いながら逃げようとするが、背中を何かが撃ち抜いた。的確に心臓を貫かれた悪魔は断末魔の叫びさえ上げずに息絶える。
リティはカタラーナの腕に装着されているボウガンに注目した。いつの間に、そんな疑問をカタラーナは見透かす。
「これ? 魔道具ファランクス、普段は腕輪なんだけど必要に応じて切り替えられるの。ちなみに特注だから、ねだってもダメよ?」
「まどーぐふぁらんくす! それで悪魔を?」
「悪魔については後でね。それよりあなた達、試験中でしょ」
「あっ! そういえば、どうしてここがわかったんですか?」
「ここら一帯はリュードゥが荒らしまわってるから地盤が緩いのよ。だから私も落ちてみた」
リティはこの時点で何かを予感した。それを知っていながら、わざわざ彼女はここに導いたのだ。
カタラーナの性格をうっすらと把握しつつあるリティは、ジッと彼女の顔を見上げる。
「うん。わざとね」
「やっぱり……」
「こういうハプニングに対応できてこその冒険者よ。まぁでも、さすがにネームドはやばいかなと思って急いで来たんだけど……」
「倒しました。これ、収集品です」
「わーお!」
ネームドモンスター深き底の暴掘主は3級冒険者を何人も葬ってる。怒らせると地下全体を揺らして埋めにかかるから、始末に負えないとカタラーナは笑った。
リティはまたもタイミングに助けられたと頬をかく。そうなっていれば、確実に死んでいたからだ。
「いやー、ホントお姉さん驚いた! あなた、見どころしかないわよ!」
「クーファさんのおかげです」
意外な言葉に一番驚いたのはクーファだ。しかし、動揺しすぎて言葉が出てこない。声を出そうとしても、かすれる一方だった。
「クーファさんが時間を稼いでくれたおかげで、魔物が地下を掘り進む場所を特定できたんです。私一人だと、もっと早くやられていたかもしれません」
「あ、あ、の。わたし」
「抱えて走っていた時ですよ。あの時間は貴重でした」
「そ、そんな……」
足手まといと罵倒されてもおかしくない場面だ。それをリティはポジティブに捉えて、クーファを除け者にしまいと考えた。
悪魔を召喚出来ずにいた彼女を落ち着かせようとした時間。あれこそがリティにとって、勝利へ繋ぐ時間だったのだ。もし一人なら、闇雲に攻めて死んでいたとリティは本気で思っている。
「そうなの。それじゃもういいかな」
「えっ……まさか」
「試験よ。ここのネームドを倒すような子達をダムシア渓谷で試験なんて無駄。だってあそこの魔物を主食にしているのが、リュードゥなんだもの」
「無駄!? まさか」
「合格よ」
リティの不穏な邪推は見事に打ち払われた。それはリティにとって、跳び上がるほど嬉しい言葉だ。
しかし、まだリティは喜ばない。相手は半ば不意打ちのようなやり方で、ほとんどの受験者を追い払ったカタラーナという人間だ。
「合格ですか」
「うん? 嬉しくないの?」
「まだ早いですから」
「ん?」
さすがのカタラーナも、こればかりは理解できない。リティが自分に懐疑的な印象を持っているなど、微塵も気づいてないからだ。
真剣な眼差しのリティに対して、カタラーナは首を傾げるしかなかった。
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