表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/204

リティ、3級の昇級試験に挑む

 リティはカタラーナを観察していた。実力者には違いないが、試験もしないで追い払うほど自分達に見込みがないのか。

 投げ飛ばされた冒険者達も、決して弱くはない。4級で、いずれもどこかの支部長の推薦を受けた者達だ。そう考えると、やはりリティは納得がいかなかった。


「私は3級になりたいんです。試験を始めて下さい」

「確かに優秀な冒険者は、一人でもいたほうがありがたい。でもね、数だけ多くても意味がないの。むしろ邪魔」

「では、もし私達が優秀なら?」

「そうじゃないから、こうなってるんでしょ」


「ケッ! やめたやめた!」


 立ち上がった冒険者の一人が、王都の中心へと消えていく。もう一人がカタラーナを睨む。


「あんたみたいな試験官じゃ話にならない。他を当たる」

「隣国のあいつとか、私よりもひどいと思うわよ」

「あんたみたいなのが何人もいるのか? 冒険者ギルド本部だか知らないが、お高くとまりすぎなんだよ」


「その通りだ」


 続いた冒険者達が、カタラーナに罵声を浴びせる。しかし彼女は指で耳を塞いで、挑発とも取れるポーズをするだけだ。

 リティもカタラーナはいい性格をしてないと思ったが、彼らに続かなかった。

 そんな事をしたところで、事態は変わらないと思ったからだ。


「試験をやると告知しておきながら、この仕打ちだ。冒険者は信用で成り立っている部分もあるのに、あんた自らが壊してどうする」

「言いふらしたければ、どうぞ」

「来るものを拒んで、先細る。本末転倒だな。そんなに強いなら、あんた達だけいりゃいいさ」


「おーい、こんな女なんかほっといて今日は皆で飲みに行こうぜ」


 一人の誘いに、ほぼ全員が賛同する。同じ冒険者として、これでいいのかとリティは自問自答する。

 わらわらと集団でこの場から離れようとする冒険者達に、リティは問いかけた。


「あの! 皆さん、本当にいいんですか?! 3級になりたくないんですか?」

「その女が試験すらやる気もないのに、何を言ってるんだ?」

「やる気がないなら、その気にさせればいいんです。簡単に諦めるんですか?」

「試験はここだけじゃない。他を当たればいいさ。君も時間は有限だと知ったほうがいい」


 リティの説得も空しく、ほぼ全員が辞退して去っていった。

 彼らは何かしらの信念を持って4級になったのではないか。紆余曲折を経て、ここまできたのではないか。

 リティはやはり、彼らを理解できなかった。そんなリティの横で、カタラーナが声を押し殺して笑う。


「……ハハハッ! いやホント、その通りよ。ちょっと拒否したら、簡単にいなくなったわ。いいわね、わかった。試験をやってあげる」

「えぇ?」


 カタラーナの急変する態度にリティはついていけない。改めてリティ達の前へ立ち、一言。


「えー、私が試験官のカタラーナよ。本当はもう少し粘って追い返そうかなと思ったけど、あなた達いいわ。すごくいい」

「あなた達……」


 リティが隣を見ると、もう一人いた。ブラウンのフードとマフラーで顔を覆った怪しげな人物が立っている。

 リティよりもわずかに身長が低く、歳が近い冒険者かもしれないと思った。この人物もまた、さっきの猛攻を受けていたはずだがダメージは見えない。


「何故、さっきみたいな事をしたんですか?」

「私達が挑むのは、全力で冒険者の侵入を拒んでいる未踏破地帯よ。少々の事で音を上げて帰るような奴なんかいらない。つまりここから先、3級からは普通の冒険者はいらないの」

「うーん……確かにそうですけど……」

「ねぇ、あなた。目の前で、自分より遥かに強い人が一瞬で殺された経験はある?」

「え、ないです」


 女王戦を思い出したが一人を除いて無事だ。状況としては近いが、何故かこれを引き合いに出すのはためらった。

 リーガル支部長と女王の実力は拮抗していたというのが、リティなりの分析だったからだ。


「あの人達は私を相手にしてすぐに諦めたけど、そんな私達を全力で拒んでるのが未踏破地帯。もちろん自論だし、完全に正しいとも思ってないけどね」

「でも、最初は弱くても皆で協力すればいいです。それに退かなければいけない場面だってあります」

「あなたとの議論は面白そうだけど、キリがないから試験の説明に入るわ」


 リティの反論をかわして、カタラーナは試験場所を明かした。試験場所までの道のり、時間。必要な物、すべてをリティは把握する。

 そして試験会場であるダムシア渓谷。ここに生息する魔物の討伐証明を手に入れたら合格というシンプルな内容だった。


「準備とかあるだろうから、出発は明日ね。あ、今度はちゃんと試験やるから安心して」

「信用します」


 少なからずカタラーナに反感を持ったリティは、刺のある返答をした。そして隣にいる人物はさっきから一言も喋らない。

 これから同じ試験に挑む仲間として、何か声をかけたいが思いつかなかった。何せあちらからも、目もくれないのだから。


* * *


 王都でカタラーナと待ち合わせて、3人で会場へ向かう。リティはそれなりに荷物になったが、他の二人はほぼ手ぶらだ。

 これから行われる試験では、助け合いになるかもしれない。それなのに何一つコミュニケーションも取らないのはまずいとリティは思った。


「私、リティです。よろしくお願いします」


 返答がない。まるでリティの存在すら認識していないかのようだった。嫌われているのかと心配になったが、その原因がわからない。


「あ、ちなみに自分の身は自分で守ってね」


 カタラーナの唐突なセリフの意味がすぐにわかった。5級のグリーンゴブリン数体が、リティ達を待ち伏せている。今のリティ達なら問題のない魔物だ。


「グリーンゴブリン……知性も低く、武器も持ってません。ですが、油断しないで戦いましょう。えっと……」


 フードマフラーの名前を呼ぼうと思ったが、名乗ってないのでわからない。妙なところで詰まってしまったところで、先制したのはゴブリン達だ。

 猿のような鳴き声を発しながら、飛び跳ねてくる。動きも乱雑で、下手をすればガルフのほうが手強い。リティは2体を斬り捨て、自衛する。


「さぁ、残りは……あぁっ!」


 フードマフラーの人物が、ゴブリン達から逃げ回っている。それが面白いのか、ゴブリン達はからかうようにフードマフラーを追い詰めていた。

 てっきり対処すると思っていたリティは、すぐには動けなかった。グリーンゴブリンは4級が苦戦する魔物ではない。

 前衛ではないのかと考えたリティが、ひとまず数体のゴブリンに斬り込む。


「てやぁっ! そやぁっ!」


 さっくりとゴブリン達を討伐したリティが、彼らの討伐証明である耳を拾う。大した額にはならないが、積み重ねが大事だと考えるのがリティだ。

 とはいえ、一人占めしていいものか。リティは逃げ回っていたフードマフラーに近づく。


「このゴブリンの討伐報酬、後で半分にしましょう」


 尻餅をついたまま、フードマフラーの人物は答えない。さすがのリティも、これでは取りつく島もなかった。

 そしてカタラーナがゴブリンの死体を観察している。


「的確に急所を狙ってるわね。こんな低級の魔物でも容赦ないわー」

「低級だろうと油断は禁物ですよ。何が起こるのかわからないのが冒険ですから」

「その通りよ。やっぱり目をつけていただけあるわ」

「そ、そうなんですか? 私が一番弱いって言ってましたよね」

「少し折ってやろうと嘘ついただけ。あの中じゃぶっちぎりの強さよ。それをここで改めて確信した」


 悪びれないカタラーナの態度に、リティは口を尖らせた。どうしてこの女性はこうなのかと、リティの中で反発が強まる。

 とはいえ、今は試験官だ。試験さえやってもらえて、合格すればいい。リティの目標は相変わらずぶれない。


* * *


「さ、もう少し進んだところでキャンプにするわ」


 日も沈んで、試験に挑むのは明日となった。これまでに何度か魔物に襲われたが、やはりフードマフラーの人物は戦わない。

 それどころか動こうとすらしない事もあった。もちろんこれは試験ではないので、カタラーナもそれについて何か言う事はない。

 さすがのリティも、こればかりは問いつめるべきだと判断した。


「あの、どうして戦わないんですか? 私が何かしたのであれば謝ります」


 またも返答はない。いっそマフラーをはぎ取ってやろうかと、リティもかすかに苛立ちを覚えた。

 別に自分が嫌いなのであれば構わない。しかし命を預け合う立場としては、そんな個人の感情は捨ててほしいと思っている。こと冒険に関しては一切の妥協を許さないのがリティだ。


「どうして……」


 もう一言、何か言ってやろうと思った時だった。渓谷近い岩場にて、足元が揺れる。付近の岩がぐらりと倒れて、自身の目線も下がる。


「あ……」


 バランスを保とうとしたリティだったが、足場が崩落してしまった。同時に降り注ぐ周囲の破片や岩。

 上に手を伸ばすが、遅い。成す術もなく、地上から引き離され、リティは転落していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 下手気によっわちいのにランク上げて 未踏破地帯に行けるようにしちゃって死なれまくるより断然良いですね そう、つまりカタラーナさんはツンデレ!! [気になる点] 読みにくいかどうかは、同じ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ