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リティ、スカウトされる

 入院して意識が戻ってからというもの、リティの噂を聞きつけた人々がやってきた。純粋にお礼を言いにきた者達が、何かしら見舞いの品を置いていく。

 お供え物のように、置き場所がなくなるほどの量だがリティはきっちりといただいた。

 その上で老夫婦の手作りサンドイッチも食べるのだから、医療関係者含めて誰もがこう言う。


「もう退院できそうね」

「そうですねー。早く冒険者ギルドに行きたいです」


 誰もが死んだと思う程の重傷だったはずだが、今や病室を宙返りやバク転で賑わせる。他の皆はまだ動けないんだからとロマに注意されるのも、病室の日常だ。


「女王を追い詰めた少女冒険者の噂が街中でもち切りみたいね」

「うーん……」


 スカルブの女王とリティの空中戦は多くの者達が目撃している。この街での知名度もすっかり上がったリティだが、これを皮切りにもはや知らぬ者はいない。

 しかし、リティとしては釈然としなかった。


「皆さんも頑張ったのに、なんだか変ですよね」


 支部長を始めとした多くの人達が討伐に関わっていたはずだ。

 ところが街ではリティが英雄のように祭り上げられている。その一点だけが、リティの居心地を悪くしていた。自分の功績だけじゃないと説明したところで、軽くあしらわれるだけだ。

 共に戦った支部長達はまだ退院できず、中には起き上がれない者もいた。あの激闘は自分だけのものではない。だからリティはどれだけ褒められようと、他の人達の存在を強調し続けた。


「未熟な私が皆さんに助けられたんです。たくさん勉強になりましたし、英雄だなんてとんでもないですよ」

「リティは真面目ね。そこが強さの源泉でもあるのだろうけど……」

「ロマさんの遊撃も、驚きました。あのカマキリの魔物の死角を的確についてましたし……」


 あの戦いの中でそこまで見ていたのかと、ロマはあまり褒められた気がしなかった。そっちのほうがよっぽど驚く、と突っ込みたかったがあえて飲み込む。


「それはそうとリティ。気に病む必要はないわ。さっき廊下で、剣士ギルドの見習いの人達と会ったの」

「あの人達もお見舞いに?」

「そう。ジェームスさんやトイトーさんが心配みたい。早く復帰して訓練してほしいだなんて言われててね。見ている人は見ているのよ」

「見習いの人達にとっては教官達が英雄なんですね」


 彼らが討伐を成し遂げた事で、剣士ギルド全体の士気や実績も底上げされる。

 それは重戦士ギルドも同様で、ゴンザに至っては毎日むさくるしい連中ばかりやってきて嫌になると毒づく。

 その他大勢の中にも、きちんとした理解者がいる。リティはむしろそっちのほうが幸せであり、大切な事だと思った。


「失礼する。リティという少女がこの病室だと聞いたのだが……」

「私です」


 病室を訪ねて来たのは、白銀の鎧をまとった女騎士だった。エメラルドのショートカットが、やや男勝りなイメージを与える。

 目元もきつく、とっつきにくそうな雰囲気はあったがリティは魅入る。大人の女性たるスタイルの内に秘められた肉体の練度。ナターシェと出会った時以上に、それを強く感じた。


「あなたがそうか。私はイリシス、王国騎士団第三部隊の隊長を務めている者だ」

「だ、第三部隊?! あなたが聖騎士(パラディン)の!」


 リティの発言の前にロマが割り込んだ。慣れているのか、彼女はロマに特別な反応は見せなかった。

 ロマが興奮するその強者は、栄えある王国騎士団の14からなる部隊の一つを束ねる紅一点だ。最強部隊の一角"シルバーフェンリル"隊の隊長を務める彼女の功績は、冒険者に換算すれば特級にも届く。

 各国からも引く手も数多で、手中に収めようと見合いを申し込む他国の節操のなさは国内でも語り草だ。もちろん未だ彼女が出向いた事はない。


「国内で唯一"聖騎士(パラディン)"の称号を授与された女性騎士……まさかこんなところで会えるなんて」

「ロマさん、その聖騎士(パラディン)もジョブなんですか?」

「冒険者ギルドの他に何らかの特権者が認定したジョブを"名誉職(レアル)"というの。あのユグドラシアの人達も全員、そうだったはずよ」

「そ、そうなんですか」

「あの人達の場合は、独自のスタイルを築いて国に認めさせたケースだけどね」


 眩暈がするほどの高みの話だが、リティは興奮を鎮めるので精一杯だ。ユグドラシアの他に、それと同等に位置する人間が自分に何の用かとイリシスを見上げる。

リティの前に、ロマが疑問をぶつけた。


「あなたほどの方が、わざわざスカルブ討伐に?」

「ビッキ鉱山のスカルブは私も以前から気にかけていたのだ。以前から会議でも議題に上げたのだがな……」

「気にかけていただいていたんですか」

「重鎮達の重い腰を上げられなかった私の責任でもあるからな。今回は半ば強引に出撃した」


 話ながらもイリシスはリティのベッドに腰をかけてきた。少し遠慮のない人だなとロマは思ったが、些末事として流す。


「そ、それでそんなすごい人が私に?」

「そう、そうだ。リティ、シルバーフェンリル隊に入る気はないか?」

「はい、シルバーフェンリル隊に……」


 言いかけたところでリティは口を閉じる。今、自分は何を誘われたのか。我が耳を疑うが、イリシスは微笑みでそれを否定した。


「ええええぇぇ! いや、あの! えっ!」

「冗談の類ではないぞ。本気だ」

「いえいえいえ! なぜ私をそんなすごい部隊に?!」

「君もすごいからだ」

「私、4級ですよ!?」

「関係ない」


 要領を得ないやり取りに、ロマもついていけない。心なしか彼女とリティの距離が縮まっているのを気にしている。ベッドのシーツに手をついて、ややリラックス状態だ。


「もしかして、恐れ多いと感じているか?」

「もちろんですよ!」

「気にするな」

「と言われましても……」

「ふむ」


 イリシスがリティに近づき、腕や脇を触る。続けて腰、太ももと布団の中にまで手を伸ばした。

 咄嗟に逃れようとしたが、動けない。いや、逃げられないのだ。単純な力だけではない。リティがスカルブの女王相手に散々やっていた初動読みをされている。

 この人は自分に何をしているのか。言い知れぬ恐怖を感じたリティはイリシスに頭突きを放った。


「ぶふっ!」


「あ……」


 まさかダイレクトに鼻先にヒットするとはリティも思わなかった。涙目になって鼻を抑えるイリシスは我に返ったように、頭を下げる。


「ごめんなさい……」

「いや、こちらこそ夢中になりすぎた。なに、少し体つきが気になってな。不快にさせたのならすまなかった」

「いえ、少しビックリしましたけど……」

「フィジカルモンスター」

「え?」


 途端にイリシスが神妙な顔つきになる。リティの頭から隅々まで観察して、腕組をして何かを考え込んだ。

 一方、ロマはイリシスに不信感を抱いていた。自分はこの女性に対して何かよくない感情を抱いている。それが何かはわからないが、ロマは歯ぎしりをして堪えた。


「リティ、答えは急がない。ただこれだけは約束しよう。もし君が入隊すれば、今の倍以上の速度で強くなれる」

「……本当ですか?」

「君達が倒したスカルブクイーン……報告での判断だが、1級相当と見ていいだろうな」

「はぁ、すごく強かったですから」

「しかし、私が知る未踏破地帯ではせいぜい下の中といったところだろう」

「げのちゅう?」


「……イリシスさん。何が言いたいの?」


 ロマのやや刺のある追及にもイリシスは動じない。真意は不明だが、イリシスはリティを煽っている。

 その上で何としてでも獲得したいと考えているのだ。続けてロマが何か言いかけたが、先にイリシスが口を開く。


「というより、未踏破地帯では1級より下の等級に認定された魔物がいない。そうだな、スカルブクイーン相当の魔物が同時に何匹も襲いかかってくる状況を想定してほしい」

「……想像できません」

「そんな想像すら出来ない世界なのだ。つまり普通に冒険者を続けていたのでは、到達は難しい」


「イリシスさん! いい加減にして!」


 ロマが激昂した。ここにきてイリシスがようやく表情を変えて驚く。リティも何事かとロマをまじまじと見つめた。


「リティは冒険をするのが夢なんです! もちろんあなたがいうような恐ろしい魔物もいるし、簡単じゃないはず……。でも……そうやって脅しかけて入隊を迫るのは感心しないわ!」

「脅しではないのだがな」

「やり方の問題よ! とにかく! リティにきちんと判断させてあげて!」

「そうだな。すまなかった」

「……は?」


 また頭を下げたイリシスにロマは拍子抜けする。この人物を掴み切れない。

 凛としていると思えば、どこか常識がない。そこへ謝罪する礼儀は持ち合わせている。ロマは困惑する一方だ。

 ベッドから降りて立ったイリシスは、リティとロマを見比べた。


「勧誘となるとすぐに熱くなってしまう癖がある。それに君の言う通りだ。リティには夢があって本気で追っている」

「そ、そうよ。それがわかったら……」

「そしてそれをきちんと理解しているパートナーがいる」

「なっ……!」

「君がムキになるのも無理はない。無神経な事をしてしまった」


 先程とは違い、かすかに俯いて暗い雰囲気だ。本気で怒らせてしまった事を悔いている。それはロマにも伝わった。しかし、その上でどう切り返していいのかわからない。


「冒険とは良いパーティに恵まれ、人としても成長できる機会でもある。それこそが冒険者の醍醐味だったな。それにリティに……君、名前を教えてほしい」

「ロマよ」

「ロマ、君のようなパートナーに巡り合えたリティは幸せ者だろう」

「だ、だからパートナーってどういう……」

「今回は断られてしまったが、気が変わる事もあるだろう。まだこの街に滞在しているので、いつでも声をかけてほしい。もちろん、ロマ。君にも言っている」


 いつの間にか自分も勧誘対象になっていた事に驚いたところで、イリシスは病室を出て行った。

 散々引っ掻き回されたが、今は静かだ。物静かな雰囲気でいて、根は嵐のような性質かもしれない。それが戦いにも反映されているとしたら。リティはますますイリシスに興味を持った。


「はぁ、あのイリシスがあんな人だったなんて。それにパートナーってどういうことよ。私達は友達であって、ね? リティ?」

「え? えっと……」

「パートナーって……なんだか大袈裟よね。それに2回しかパーティを組んだことないのよ。さすがに早すぎるわ」

「ロマさん?」


 イリシス以上に、リティにとって今はロマがわからない。

 イリシス、シルバーフェンリル隊、そして勧誘。スカルブクイーンよりも強い魔物がいる未踏破地帯。まだまだ世界にはいろんなものがあって、いろんな事が起こる。

 イリシスには驚かされたが結果的により人生、そして冒険への意欲が高まったのであった。

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[良い点] 百合の気配!!!
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