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グレートバランのスパイ 後編

 エネリーはグレートバラン船内に入った当初から、目につく人間を観察していた。

 喋り方、癖、仕草、趣向。各平船員をチェックした意味は特にない。

 タハラージャにいた時から自然と身について実行していただけだ。

 騙し騙されの世界で生き残るための術であり、それはグレートバラン本船という場でも変わらない。

 さすがにスパイがいるなどと、エネリー自身も考えていなかった。

 ウラグルが気になり始めたのはグレートバラン本船に乗船してから数日後だった。

 船内で売られている商品の転売を行っている時、船員にヘコヘコしているウラグルが目につく。

 普通であれば取るに足らない小物だと感じてスルーするだろう。

 しかしエネリーは違った。


「あんたみたいなのは大体、腹黒いんや。人に頭下げ続けて何も感じない人間なんておらんで」

「い、いえ、その、あの……」


 ウラグルはすでに拘束されて、バランダル達の前に突き出されていた。

 証拠品であるビンと手紙も押収されているため、言い逃れなどできない。

 各船長達に囲まれている中、ウラグルは頭の中が真っ白だった。


「こいつを船に乗せたのはどいつだ?」

「四番船の下っ端だったはずですぜ。ただ乗船させるなら必ず大船長とも顔を合わせてるはずですがね」

「よし、カシムと他の船長ども、並べ」


 一番船の船長カシムに続いて、エルリードを含めた者達が整列する。

 そしてバランダルが拳に息を吹きかけた。

 リティは眼を見張る。

 バランダルと手合わせをした時にそれの痛さを思い知っているからだ。

 その威力たるや、リティをして意識が飛びそうになるほどだった。


「連帯ッ!」

「ぐあぁっ!」

「責任!」

「ぎゃっ!」

「なんだよッ!」

「うぎぁっ!」

「わかってんのかぁッ!」

「がっ……!」


 こうして船長達が床に突っ伏す。

 バランダルの拳は一級冒険者達からしても気絶に相当する。

 その光景に身を震わせたのは当のウラグルだ。


「あ、あっ、あ……」

「よう、コソコソとご機嫌だったようだな?」

「ご、ごめん、なさっ……」

「漏らしてんじゃねえよ。きたねぇな」


 ウラグルの失禁にバランダルは呆れた。

 特級冒険者として名を馳せた彼に凄まれて平静でいられるはずがない。

 ウラグルが最後にバランダルとまともに顔を合わせた時とは別人だ。

 今のバランダルは飲んだくれでもなく、グレートバランの大船長にして特級冒険者なのだから。


「おう、ダンチョー。後でてめぇのところの下っ端を連れてこいや」

「は、はひ……」


 四番船の船長であるダンチョーが床に突っ伏したまま答えた。

 彼直属の手下がしでかしたことなのだから受け入れる他はない。


「さぁて、問題はこいつだな。お前、どうしてほしい?」

「い、命、だけは……」

「ズールの野郎は元気そうだな。だったらあいつのところにてめぇの首を投げ込んでやろうか?」

「あ、あひっ! たしゅけ……ぎゃぁッ!」


 バランダルのビンタがウラグルの頬を張った。

 更に足蹴りされた勢いで、会議室の壁にぶつかる。

 痙攣して身動きがとれないウラグルの首根っこをバランダルが掴んでから床に叩きつけた。


「あ、あが……」

「これでも手加減してやってんだから()を上げるなよ? 気絶なんかしやがったら殺すぞ。全力で意識を保て」

「ひ、あ、いい、あ……」

「質問に答えろ。目を逸らしたらぶっ殺す。嘘ついてると判断したらぶっ殺す。三秒ほど答えに詰まったらぶっ殺す。いいな?」


 それからバランダルの地獄のような質問が始まろうとした。

 その時だ。


「うげっ……ごぼぉっ……」

「なに、どうした?」


 喋ろうとした時、ウラグルが血を吐いて倒れた。

 そのもがき苦しむ様はリティが何度か見ている。

 トーパスの町で本性を表わしたマームの護衛ニルス。

 ファクティア王都で戦ったジョズー。

 そしてルタ国内の渓谷で戦ったコバンザを含めた追放者ギルドの者達。

 今、ウラグルが彼らと同じ末路を辿ろうとしている。

 そこへクーファとミライが走ってやってきた。


「ミ、ミライ! お願い!」

聖属性高位魔法(アンカース)!」


 ミライがすかさずウラグルに魔法をかけた。

 途端、ウラグルがピタリと止まる。

 吐血が収まり、ウラグルがだらりと舌を出して横になった。


治癒高位魔法(エンジェルヒール)!」


 回復魔法の光が会議室内を満たす。

 少しずつウラグルの表情が和らいでいき、やがて倒れたまま呼吸が戻る。

 まだ動かないものの、誰の目から見ても命の危機は去ったとわかった。


「よ、よかった……間に合った。成功、した……」

「ミライちゃん! 今のはなんですか!?」

「わ、わたし、ずっと怖くて……。追放者ギルドの人達が、あ、あんな死に方をして……だから、何とかできないかなとずっと思ってた……」


 コバンザ達が無残な死に方をした時、ミライは震えていた。

 それはあまりに無慈悲な殺害手段であり、同時に彼女だからこそ理解できた。

 彼らが飲まされたのは闇魔法の呪いが施された魔道薬であり、契約者の意にそぐわなければ死に至らしめる。

 ズールは追放者ギルドにおいて、信用できない者達にそれを飲ませていたのだ。

 ミライとて、それが大魔術師の弟子達(エーギルエッグ)とズールの協賛で作られた魔道薬とまでは見抜けない。

 しかし呪いであることは看破していた。

 数百年と続いた聖マティアス教国の頂点に君臨していたアイシアの娘だからこそだ。

 内に秘められた聖なる力は劣悪な環境によって閉ざされていたが、エクスピースとの出会いを経て開花しつつあった。

 ミライはたどたどしいながらも、それが呪いであることを伝えた。


「ずっと、ずーっと考えて……やっと答えがわかった……今まで気づかなくて……ごめんなさい」

「ミライちゃん、謝る必要なんかないんです。強くなりましたね」

「リティお姉ちゃん……」


 クーファもミライの傍らでずっとサポートし続けた。

 それの正体をクーファに相談して、今日まで研究を続けてきたのだ。

 一朝一夕の話ではない。

 人が呪いで惨たらしく死ぬことにミライが抵抗を感じていたからこそ成し得たのだ。

 それはやはり内なる聖の力による性質といってもいい。


「……たまげたな」

「う、うぅ……」

「おい、ネズミ野郎。よく聞け」


 バランダルがウラグルの髪を掴む。


「てめぇは悪運で助かった。俺としても安心しているところだ。なぜかわかるか?」

「い、いえ……」

「てめぇは殺されるか海に捨てられるかでびびってたんだろうがな。そうはならねぇ」

「え……」


 ウラグルの表情が和らいだ。

 命だけは助けてもらえる、そう希望を持った。

 が、しかし――。


「てめぇは一生をこの船で終える。死ぬまでこき使ってやる。二度と陸に上がらせねぇ。船員の指示は絶対だ。逆らったら殺す」

「あ、あ、ぁ……」

「本当に死ぬくらい働かせる。自由なんかねぇ。てめぇに与えられるのは衣食住だけだ。ネズミよりマシだろ?」

「う……」


 ウラグルは言葉が見つからなかった。

 それは実質奴隷であり、ある意味で国に突き出されるより最悪な人生だ。

 助けたミライとしてそれは本意ではなく、何か言いたかった。

 そんなミライの胸中を見透かしたようにエルリードがフォローに入る。


「もしあいつが解放されたところで、ろくな人生にならない。どこかで野垂れ死ぬか殺されるかしただろうよ」

「そう、なんだ……」


 どちらがマシか。

 それは各々の価値観によるところだろう。

 しかしエルリードとしては、これがバランダルなりの助け舟だと考えていた。

 何よりグレートバランの船員の目を欺いてスパイをしていたその手腕にバランダルは目をつけている。


「じゃあ、さっそく最初の仕事だ。ネズミ、まずはズールのクソッタレ小僧にこう手紙を書け。『グレートバランは一週間後の朝、動く』ってな」

「ひっ! そ、そんな、ことしたら!」

「どうせ下らねぇこと企んでるんなら、真正面から叩き潰す。そして世界はグレートバランの恐ろしさを改めて思い知るだろうよ」


 震えるウラグルにバランダルは更に詳細を伝えた。

 それは実質、グレートバランの挑戦状だ。

 自分達を利用しようとしたことがどれほどのツケとなるか、ズールに叩き込もうとしている。

 彼らのスパイが今度はグレートバランに利用されるという皮肉な結果となった。

Web版コミカライズの更新は今月29日となりました。

そしてコミック発売が11月15日となっており

すでにTOブックスオンラインストアや

Amazonなどで予約が開始されております。

ぜひお買い求めいただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味、ここでタヒなせて欲しかった位にこき使いそうだね~❗
[良い点] おお、 グレートバランと追放者ギルドの全面戦争が始まりそうですね、エクスピースにとってはこれほどありがたい事無いですが。 バランダルがエクスピースに出会い、ズールに焚き付けられてから元気…
[一言] アハハハハ(≧Д≦) 確かに船だけに連帯責任だよね〜ヽ(・ˇ∀ˇ・ゞ) しかしミライ(ʘᗩʘ’)君って奴は(。•́︿•̀。)お陰で大船長の頭も少し冷えて有効活用(隷属)にしてくれたか(◡ω…
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