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エクスピース、アフクルムに挑む

「てめぇら、とっとと船を降りやがれ」


 リティとロマ、ナターシェは船内の訓練場に入り浸っている。

 リティはルイカを鍛えるという名目で、毎日のように二人で模擬戦をしていた。

 ロマとナターシェ、時折ルイカの剣術指導と忙しい。

 一方、エネリーは船内で転売を繰り返して資産を増やしている。

 彼女のせいで船内の商売事情が揺らぎつつあった。

 何せ店で仕入れて販売したところでエネリーが買い占めて適正価格で売り始めるのだ。

 この行いには批難が殺到して、気性が荒い船員達と揉めないわけがない。

 しかしエネリーはあくまで適正価格だと言い張る。

 商品の正しい価値を見抜いて、正しい価格で提供しているに過ぎなかった。

 そんな船内を見かねたバランダルは訓練場でリティ達を威圧する。


「バランダルさん! 特訓しましょう!」

「おう、上等だ。おい、アレを持ってこい」

「やめてくだせぇ、大船長! 今度こそ船がぶっ壊れますぜ!」


 訓練場に居合わせた船員が必死にバランダルを止める。

 リティとバランダルの模擬戦は壮絶を極めた。

 最初こそ素手でリティに挑んだものの、舐めて勝てる相手ではない。

 劣勢になったバランダルが武器を持った途端、船内は揺れた。

 彼専用の魔道具を手に取って戦えば、勝敗はまだわからなかったかもしれない。

 手近にあった斧でリティと戦い、それは数時間にも及んだ。

 そして最後に息切れしたのはバランダルだった。


「ヌオッソ、持ってこい」

「あいあいよー」


 バランダルの側近であるヌオッソが巨体をのっそりと動かして歩く。

 リティとしても彼の存在は気にかかっている。

 リティがバランダルと初めて戦った時、伝説級魔道具をヌオッソは投げて渡したのだ。

 涼しい顔をしてそれをやってのけるヌオッソの実力を等級に換算すれば間違いなく一級。

 グレートバランに来てからリティは船員の実力を心の底から思い知り、認めている。

 グレートバランに加わっていなくても、単独で名を挙げていただろう者達が多い。


「ヌオッソさん、模擬戦やりましょう!」

「あー?」

「てめぇは見境なしか。わかった、ぶっ殺す」

「ぶっ殺されません! やりましょう!」

「みゃあん!」


 リティはここ数日の間で、グレートバランの船員達と模擬戦をして全勝している。

 一番船船長のカシム、二番船船長のレイチェルはすでに敗北していた。

 三番船の船長エルリードは理由をつけて避けており、四番船の船長ダンチョーはむしろリティの応援をしていた。

 つまり事実上、船長クラスはリティに屈したも同然だ。

 だからこそバランダルは本気でリティを負かしておきたかった。

 しかしそれは周囲が許さない。その筆頭がルイカだ。


「リティ、やめとけって。オヤジは酒浸りで体力が落ちてるからもうまともに戦えねーよ。それにもう歳だからな」

「ルイカ、調子こいてるとまた海にぶん投げるぞ」


 ルイカはそうからかうが、あながち間違いではない。

 長らく体を動かさずに船内に引きこもっていたせいで、ブランクは無視できなかった。

 つまりリティはバランダルの全盛期を知らない。

 

「クソガキ、二度と冒険者なんかやれねぇように徹底的に潰してやる」

「大船長、ホントにこれ以上の修繕はきついですぜ! 港に停泊できないせいで物資の補充もままなりませんから!」

「あ? そういやそうだったな」


 グレートバランは追放落ちしているため、アフクルムの港に入港できない。

 これは目を背けられない問題だ。

 海上だけで物資を賄うにも限界があり、特に日用品などは陸で仕入れるしかないのだ。

 仮にアフクルム以外の港にしても、追放落ちしている彼らを受け入れるところはほぼないだろう。

 バランダルは頭をかきむしって苛立ちを隠さない。


「仕方ねぇ。ガキ、勝負はお預けだ。これからアフクルムを潰しに行く」

「はいっ!」

「はいっじゃないわよ、リティ! バランダルさんもさらっと何を言ってるの!?」


 ロマが慌てて流れを食い止める。

 買い物に行くような口ぶりで、バランダルは国を潰すと宣言したのだ。

 ナターシェはルイカの模擬戦の相手をしながら、バランダルの考えをなんとなく理解している。


「アフクルムは何か隠してやがる。あの化け物イカにしてもそうだ。あんなもん見たことねぇ」

「せやなー。あれはきな臭いでー」

「おう、コソ泥商人。今日もあこぎな商売でたっぷり稼いだようだな」

「そんな照れるわー」


 訓練場に姿を現したエネリーにバランダルは厳しい視線を向ける。

 半ばぼったくりが横行していた船内の市場を正してしまった彼女を、バランダルは良くも悪くも評価していた。

 エネリーのリュックから品物がはみ出している。


「特級冒険者パーティは国と冒険者ギルドに認められとるけど、国の匙加減みたいなとこはあるからなー」

「今も昔もアフクルムの上層部にはろくな奴がいねぇ。だがオレ達に関しては利用価値があるから認めていたんだ」

「その均衡が崩れる何かがあったっちゅうことやな。アフクルムの闇といい、ろくでもないわー」

「特にイズベルタ収容所から生きて帰ってきたどころか、特級まで仕留めた奴らまで出てきやがった」


 エクスピースの功績は冒険者ギルドに伝わっていない。

 陸に停泊できない時点でそれが叶わないが、バランダルが脳裏に浮かんだのはズールだ。

 彼の口ぶりからして、グレートバランの動きはすでに知られている可能性があると考えていた。


「アフクルムの奴らにゃたっぷり礼をする。オレ達を切り捨てたことを後悔させてやれねぇとな」

「ちょ、ちょっと! バランダルさん! 一国を敵に回すってこと!?」

「すでに敵だろうが。それにてめぇらはイズベルタ収容所で何を見てきた?」


 アフクルムの闇。

 現代のアフクルムの王族がやらかしたことではないが、過去は消えない。

 リティ達はハンデッド達と戦い、その最期も見届けた。

 傲慢な王族に多くの人間達が振り回されて、非人道的な扱いを受けて命を落とす。

 そして今は海軍が魔物を従えて、国の上層部がグレートバランを追放落ちさせた。

 バランダルはこれを長い目で見ている。

 今のアフクルムは放置していい存在ではないと気づいていた。


「で、でも……そんなことやったら私達、どこにも居場所がなくなるわ」

「放っておきゃマジでそうなるかもな。アフクルムはこの大陸の玄関、そこを好き勝手に牛耳られてみろ。お前ら冒険者達は陸に閉じ込められるかもな」

「バランダルさん……」

「てめぇ、ロマとかいったな。あの怪物小娘とパーティを組むならこの先、こんなもん以上に無茶な場面があるだろうよ。ここで怯むならとっとと家にでも帰ったほうが身のためだ」

「なっ! そ、そんなことしないわッ!」


 両親の反対を押し切って家出したロマにその選択肢はない。

 バランダルの言う通りであり、リティならばこれも冒険と捉えるだろう。

 そのリティはロマが思った通り、すでに筋肉トレーニングをしてやる気だ。


「ふんふんふんふんふんっ!」

「みゃんみゃんみゃんみゃん!」

「ミャンちゃんが腹筋してどうするん?」


 リティとミャンの腹筋を見ながら、ナターシェも覚悟を決めていた。

 バランダルの発言は決して大袈裟ではない。

 グレートバランが追放落ちしたというだけでも衝撃のニュースだ。

 そんなことを認める国である以上、これから何が起こっても不思議ではなかった。

 ましてや海軍は魔物を従えている。

 裏があると考えるのが自然だと、ナターシェは剣の柄を握る。


「冒険者ギルド本部に向かう前に大仕事だね。アフクルムの影になーんかちらつくよ」

「とっとと作戦会議だ。てめぇらも出ろ」


 ちょうど様子を見にきたエルリードは驚愕した。

 バランダルがエクスピース全員、作戦会議に出すというのだ。

 以前の彼では到底、考えられない。

 バランダルはハッキリと冒険者のことを心配した。


「バランダル大船長が冒険者のことを考えるなんてなぁ。シィル、こりゃスクープだぜ」

「なんだかんだで優しいのよねぇ」

「エルリード、後で話がある」

「やっべ」


 バランダルの話がある、はほぼゲンコツだ。

 それが痛いどころではない。

 気絶して起きた後も痛みが引かず、数日間は悩まされるのだ。

 これはグレートバランの雷と恐れられて、ある意味で名物と化していた。

コロナEX、コミックウォーカー、ニコニコ静止画においてコミカライズ四話まで公開中です!

小説3巻もよろしく!

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかんだグレートバランに馴染んだエクスピース。 あれ?クーファとミライ姉妹は? [気になる点] >一番船船長のカシム、二番船船長のレイチェルはすでに敗北していた。  どんな模擬戦をリ…
[一言] なんやかんやで馴染んだ物だなエクスピースの面々も(ʘᗩʘ’) しかし今起こってる事態は流石に看過できない物になるのは時間の問題だし(↼_↼) 今まで散々してやられて来ただけにそろそろコッ…
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