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闇、蠢き揺れる

「調子はどうだ。マジックサイエンティスト」


 アフクルム城の地下にて、ズールは奇怪な老人に話しかけている。

 大量の巨大な透明の筒が等間隔に並ぶ研究室で、一心不乱に何かを紙に書き込んでいた。

 その紙にはズールが理解不能な数式と文章が羅列されている。

 この老人はマジックサイエンティストと呼ばれており、大魔術師の弟子達(エーギルエッグ)六賢人の一人だ。


「なんだ、小僧か! ワシは忙しいのだ! 邪魔をするな!」

「いや、ガチで調子が気になるのよ。今のところ、作った魔物の等級は?」

「何度言えばわかる! これは魔物ではない! 魔法生物なのである!」

「悪い悪い。で、魔法生物の等級は?」


 マジックサイエンティスト、本名サルタン。

 彼はその昔、魔術学会でキメラ学なる独自の学問を発表した時にあらゆる非難を浴びていた。

 魔法によって新たな細胞を作り出し、それらを組み合わせて新たに生物を生み出す。

 彼自身、それは魔法学会に衝撃をもたらすと考えていたのだ。

 ただしその衝撃の結果、サルタンは魔法学会から追放されてしまう。


「海の魔王イカの時点で一級だ! 文句あるか? あるのかー? んー?」

「いやいや、あるわけないだろ。さすがはマジックサイエンティストだ」

「フン、わかればよいのだ! あの頭が固いクソジジイどもはワシの偉大な研究を禁忌だとバカにした! わからん奴がアホなのだ!」

「だよな、まったくもってその通りだ」


 人の手によって生物を作り出すことは当時の魔法学会で壮絶に非難された。

 危険な召喚獣を召喚して使役させるほうがよほど危険ではないかというサルタンの言い分は一理ある。

 危険視されたのはサルタンの思想だ。

 彼は好奇心しか持たず、それを満たすためなら何が犠牲になろうとも構わなかった。

 サルタンが作り出した魔法生物によって、一つの町が壊滅した事件など彼にとっては些末なことだ。


「素晴らしい成果には犠牲がつきまとう! 凡人どもにはそれがわからんのだ!」

「あんたの魔法生物がたくさんいれば、俺が望む世界が実現する。いい理解者だろ?」

「見込みのある奴はお前だけだ! 魔法学会のジジイどもめ、未だに忘れておらんぞ! キィィーー!」

「お、落ちつけよ。そんな奴ら、いつでもどうとでもなるだろ?」


 当時、彼を非難した者達の大半が他界しているのだがズールはあえて口に出さなかった。

 若者だったサルタンを非難した老人達が今も生きているはずがない。

 しかしサルタンの網膜にはいつまでも彼らが映っていた。


「ハァ、ハァ……あぁイライラする!」

「気持ちはわかるが今は派手な行動はやめたほうがいい。せっかく俺達が協力して、あんたをこの国の中枢に潜り込ませたんだ。苦労が水の泡になりたかねぇからな」

「ところでソピオーネのクソババアはどこいった! あのマヌケ面にほえ面かかすほどの魔法生物が誕生したのだ! 呼んでこい!」

「あのババアはイズベルタ収容所にいるよ。あそこにグレートバランが向かうかもしれないからな」


 エクスピースもな、とズールは心の中で付け加える。

 ズールの読みは当たっていた。

 まずエクスピースがグレートバランと激突する。

 グレートバランが勝てばよし。万が一、負けてもよし。

 しかしここで互いが共闘するケースも考えていたのだ。

 そして案の定、この二つは手を結ぶ。

 これはグレートバランに潜り込ませていたスパイからの情報だ。

 更にエクスピースがイズベルタ収容所へ向かうと聞いて、ズールは小躍りしたい衝動に駆られる。

 ハンデッドや特級に彼女達が敵うはずがない。

 特に深淵の禍神はユグドラシア時代にバンデラが嫌がったほどの相手なのだ。

 勝てなくはないかもしれないが面倒、アレと戦うならパーティを抜けると言い出した。

 その結果、ユグドラシアは渋々挑戦を諦めたのだった。


「あそこに人質救出に向かうのがグレートバランにしろエクスピースにしろ、壊滅は必至だ」


 ルイカの居場所を突き止められた際のことを考えて、ズールはリスクが高いイズベルタ収容所を選んだ。

 特級の魔物だけでもほぼ確実だが、ズールはダメ押しとしてソピオーネをエクスピースにぶつけた。

 人質の見張りを兼ねているものの、ズールにとってソピオーネ達は捨て駒だ。

 収容所内で果ててもいいと考えていた。


「せっかく海軍に従えられている魔王イカをグレートバランにチラ見せしたんだ。その上でアフクルムの闇と言われているイズベルタ収容所を見たあいつらがどう出るか……。追放落ちさせられた恨みも相まって、あのバカどもはおそらくアフクルムに戦いを挑むぜ」

「フン! そんな浅はかな知恵でどうにかなるものか!」

「その浅はかな知恵が功を成した時こそがあんたの腕の見せ所だぜ。魔法生物を従えたアフクルムがグレートバランを壊滅させりゃ、世界中に衝撃が走る。あんたの偉大な研究が世に知れ渡るぞ」

「なーるほど! そういうことか! ウヒャヒャヒャ! 小僧、見直したぞ! ヒャーヒャヒャ!」


 研究には知恵を回すが人心には関心がない。

 サルタンの性格をズールはよくわかっていた。

 ズールの見立てではグレートバランが本気になれば、アフクルム軍に打ち勝ってしまう恐れがある。

 そこで魔法生物という戦力をプラスすることで勝率を上げるのだ。

 仮にアフクルムが壊滅したところで問題はない。

 一国が魔物を従えていたという事実はいずれにしても世界に周知される。

 その時にサルタンがどうなるかはわからないが、ズールの知ったところではない。

 ズールにとってはサルタンすらも自らが望む世界にするための駒でしかないのだ。


「グレートバランはいい資金源になってくれたよ。だがあいつらがいつまでも俺なんかにいいようにされるわけがないからな。適当なところで死んでもらわないと困る」

「小僧! ワシの研究が世に認められた際には助手にしてやらんでもないぞ!」

「そりゃどうも。身に余る光栄だぜ」


 グレートバランを始めとした一級以上の冒険者パーティ、その他の世界中に点在する戦力。

 それらを壊滅させてこそ、ズールの夢は叶う。しかしここにきてエクスピースという不穏な存在が現れた。

 ズールは時々考える。今のリティはどれほど強くなっているのか?

 彼の見立てでは一級冒険者と一騎打ちをしてもいい勝負をする。

 そうなれば、更なる成長は自身の野望の邪魔になると考えていた。


「ズ、ズールさぁん!」

「おう、リッキー。どうした?」


 スマイルキラーことリッキーの笑顔が消えている。

 ズールの片腕を務めていた彼はアフクルム王宮に忍び込んで、重鎮と入れ替わっていたのだ。

 変装した彼は権力を行使して、サルタンを王宮に招き入れることに成功する。

 そして十分な資金と設備をサルタンに与えたのだ。


「ル、ルイカがあぁ、あそこから救出されましたぁ!」

「へぇ、そりゃ大した仕事をしたな」


 それもズールの想定内だ。

 だからこそ彼は余裕を見せていたのだが――。


「し、深淵の禍神が、と、討伐されたみたいッすねぇ」

「……は? あー、まぁグレートバランならやれるっちゃやれるだろ。でもあっちの被害も少なくないだろ?」

「それが……無傷ですねぇ」

「あ?」


 ズールはかすかに体の芯が冷える。

 嫌な予感というものだが、ズールは久しくそれを感じていなかった。


「エクスピースが特級を討伐した……。グレートバランの船内はその話で持ち切りみたいっすねぇ」

「アレだろ? エクスピースも何人か死んだだろ?」

「消耗したものの、生還して今は元気になってるそうですねぇ」

「は、はぁ……?」


 ズールが最後に嫌な予感というものを感じたのはリティがユグドラシアにいた時だ。

 ただしそれは自覚できないほど薄いもので、彼自身も恐れと認識できなかった。

 しかし今は違う。


「そ、それじゃ話が変わってくる。あぁなんだってんだよ……マジかよ……」

「ズールさん、どうしますかねぇ?」

「あの特級野郎はあの時のユグドラシアでさえやばかった相手だぞ……」

「もう暗殺しかないっすかねぇ?」


 エクスピース、いや。リティの成長はズールの想像を遥かに超えていた。

 今、自分が戦って勝てるものかどうか。

 そう考えて、確実にいけるという自信が沸かない。


「クソッ! 怪物め! やっぱりユグドラシア時代に殺しておくんだった! あぁもうオレのアホ!」


 手に汗を握りながら、ズールは次の手に打って出た。

コロナEX、コミックウォーカー、ニコニコ静止画においてコミカライズ四話まで公開中です!

小説3巻もよろしく!

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― 新着の感想 ―
[良い点] また、変な奴が現れたが悪人だから質が悪い。 類は友を呼ぶとはよく言った物です。 [気になる点] リティの伸びしろがどんな奴にも計れないところでしょうか? ズールが最初は口達者な小悪党だっ…
[一言] 踊らせる積りが踊らされだしたな(ʘᗩʘ’) 元々、取らぬ狸の皮算用だったけど最悪の事態を想定してない時点で程度が知れるという物か(⌐■-■) 再生怪人(落ちこぼれ)に禍神(怨霊)まで使って…
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