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救出後の休息

「ルイカ! てめぇッ!」

「ひぅっ!」


 イズベルタ収容所から救出されたルイカは無事、グレートバランの本船に戻ってくることができた。

 囚われていた場所が場所なだけあり、一時期は衰弱していたが今は復帰を果たしている。

 それまでバランダルとは顔を合わせていなかったが、今はこうして対面していた。

 バランダルはルイカと顔を合わせるなり、声を荒げていたが――。


「……よく戦った」

「オ、オヤジ……」


 バランダルはルイカを抱きしめた。ルイカに落ち度はない。

 非があるとすれば拉致したズールは当然として、潜入を許したグレートバランにある。

 気性が荒いバランダルとて、その辺りは弁えていた。

 強がっていたバランダルだがルイカが拉致されてから今に至るまで、気が気ではなかったのだ。

 それはリティと戦った際にも影響しており、戦闘面においては彼の本領などほとんど発揮できていない。

 天下のグレートバランがズールにいいようにされてしまったこと。

 血が繋がっていないとはいえ、養うと決めた娘を守り切れなかったこと。

 押し殺してきたネガティブな感情が、ルイカとの再会によって溢れ出てしまった。


「鬼の目にも涙、か」

「あらぁ、エルリード。それなぁに?」

「遠い異国の地にある言葉さ。どんなに恐ろしい怪物でも泣くことはある」

「エルリード、てめぇ後で覚えてろよ」


 しっかりと聞かれていたエルリードが身を震わせる。

 その時、医務室にリティが飛び込んできた。


「ルイカさん! さっそく特訓しましょう!」

「おい、小娘。何の話だ? ていうかもう動けるのかよ」

「はいっ!」

「はいっじゃねえんだよ。てめぇら、特級の化け物を討伐してヘトヘトじゃねえのかよ」

「元気いっぱいです!」

「みゃんっ!」


 イズベルタ収容所から帰路についたエクスピースはグレートバランの本船で休養を取っていた。

 緊張の糸が切れたように、ほぼ全員がベッドから三日間ほど起き上がれなかったのだ。

 もちろんただ一人を除いて。

 バランダルはエルリードから、エクスピースの活躍をしっかりと聞いている。

 特級なんか過去に討伐したパーティはあると不遜な態度を取ったものの、内心では胸の高鳴りが止まらない。

 何せグレートバランとて、特級の討伐実績などないのだ。

 かつてキャプテン・クリーバーの船を沈めた帝王イカが今は特級だが、グレートバランは出会ったことがない。

 幽霊船すら実物を確認できていなかった。

 エクスピースはグレートバランが出会うことすらできなかった幽霊船に遭遇している。

 そして今回の特級討伐だ。ここ最近、バランダルの態度が軟化している一因だった。

 質問攻めしたい衝動に駆られるものの、彼は意地でも態度を変えない。


「てめぇ、それでルイカに特訓ってなんだよ。勝手な真似するんじゃねえぞ」

「ルイカさん、冒険者になりたいと言うので特訓の約束をしました」

「あぁ? 許可してねぇよ。消えろ」

「ルイカさん、特訓したいですよね!」

「あ、あぁ! オレ、オヤジみたいに強くなりたい!」


 いつの間にかルイカとの距離を縮めたリティのアクティブさにバランダルはやはり驚く。

 ルイカは元々孤児であり、バランダルが拾って育ててきた。

 船内の雑用など、きつい仕事を与えてきたが一度としてバランダルは戦いを教えたことなどない。

 冒険者そのものに失望していたバランダルが、実の娘同然のルイカにそんな道を歩ませるはずがなかった。

 しかしそれが皮肉にも、ルイカがそんなバランダル達を見て憧れを抱いてしまうきっかけとなる。

 何事にも容赦がなく、媚びないグレートバラン。バランダル。

 それが真の強さだと思い込み、ルイカは一日でも早くそんな風になりたいと思った。


「ルイカ。おめぇ、散々怖い目にあってまだ冒険者になりてぇのかよ」

「確かに怖かった……。正直、ちびった。でも、そんな怖さを打ち破ってくれたのも冒険者だ。エルリードが、エクスピースの皆が助けにきてくれた時さ。変なんだけど……オレ、やっぱり冒険者っていいなとか思ったんだ」

「そうか……」


 エルリードはバランダルの異変に気付いた。

 いつもであればここでバランダルが怒鳴り散らして、ルイカが反抗する。

 そして最後にはゲンコツをされて、ルイカはふてくされながら雑用に戻るのだ。

 今のバランダルは怒る気になれなかった。

 自分もまたエクスピースに心を動かされたと自覚しているからこそ、同じ気持ちのルイカを叱ることができない。


「オヤジ、お願いだ。今すぐに冒険者になることを認めてくれってんじゃない。ただ……一歩だけ前に進むことを許してほしい」

「それがそこの小娘との特訓か?」

「はいっ!」

「みゃん!」

「てめぇらに聞いてねえよ。黙ってろ」


 リティとミャンに話の腰を折られたバランダルがルイカをあえて睨む。

 怯ませるつもりだったが、今のルイカは目をそらさなかった。

 元よりルイカの拉致は自らの不手際でもある。

 彼女が無許可で港に出たのも、抑えつけられた冒険心と憧れが爆発した形だ。

 港の荒くれにケンカを売って強くなりたいなどと、子どもの発想から出た行動だった。

 バランダルは今一度、考え直す。

 今の自分にルイカを叱ったり止める資格などあるだろうか、と。


「ルイカ。今から訓練場へ行く。来い」

「え? それじゃ」

「そこのクソガキ共々思い知らせてやるんだよ。てめぇらの甘っちょろさをな」

「の、望むところだ!」


 バランダルはルイカの一歩を認めた。

 ただしその上で心を折ろうとしている。

 それはリティという存在をライバル視している感情からくるものだが、バランダルは気づかない。

 リティだけに娘を任せられない。

 だからリティを打ち負かして、ルイカに現実を思い知らせる。

 そんな子どものような対抗心を燃やして、バランダルは拳を鳴らす。


「バランダルさん! よろしくお願いします!」

「調子に乗るなよ。てめぇなんぞ、拳で十分だってことをわからせてやるよ」

「みゃぁん!」

「あ?」

「やめたほうがいいと言ってます」


 ミャンのそれはある意味で警告だった。

 この後、バランダルは思い知ることになる。

 難攻不落のイズベルタ収容所と特級を乗り越えたリティの成長率を。

 船上で戦った時とは比較にならない強さになっていたことを。

 その日、バランダルは心の底から怪物と評する人間に出会った。

コロナEX、コミックウォーカー、ニコニコ静止画においてコミカライズ四話まで公開中です!

小説3巻もよろしく!

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― 新着の感想 ―
[一言] バランダルの旦那( ´-ω-)あんたも人の親か(ーー;) 新メンバー加入までは行かなくてもエクスピース候補生って所か( *゜A゜) でも以前も言ったが今エクスピースに欠けてるのは技術面に…
[良い点] なるほど、真のラスボスはバランダルか?笑 [気になる点] 次回はバランダル対リティの第2ラウンド、決着戦か?お互いに遠慮をする理由がなくなったな。 ふと、冒険者嫌いのレドナーとバランダルが…
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