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イズベルタ収容所 7

 サンクチュアリにより行動が制限された深淵の禍神にエクスピースは猛攻撃だ。

 リティはバーティカルエッジやトラストと、ありとあらゆるスキルを叩き込む。

 ロマは疲労を圧して踊り続けて、エネリーは深淵の禍神の巨体の死角を取る。


「はい斬ったでぇ!」

「アアアア¨ァァッ!」


 深淵の禍神を支えている大量の手の一つがエネリーによって斬られる。

 バランスを大きく崩した巨体が傾き、そこへリティが追撃を入れた。

 バーティカルエッジは暴霊船長クリーバーの必殺のスキルであるが、相手は最強のハンデッドだ。

 深く傷をつけることができず、リティはそのタフネスに胸を高鳴らせている。

 世界にはこれほどの怪物がいる。

 世界が広ければ、これ以上の怪物がいるかもしれない。

 そんな妄想が肥大化して、よりモチベーションが高まっていた。


「楽しい! 楽しい! もっと!」

「ア¨ア¨ァァ¨¨ア……!」


 暗い地下の最下層に侵入してきた冒険者を深淵の禍神は数えきれないほど殺してきた。

 ある時は果敢に向かってきた腕自慢達が数秒後には全身の関節があらぬ方向に捻じ曲げられて死んだ。

 ある時は数ヵ月、あるいは年単位で立てた計画を実行して奇襲を仕掛けたパーティを涙させた。

 ある時は逃げる背中を見せたまま動きを止められて、最大限の絶望を感じさせて殺す。

 ほぼすべての生命が深淵の禍神に命乞いをしたのだ。

 その意味を知るはずもない深淵の禍神だが、あらゆる生命の行動はすでに固定概念として定着してしまっている。

 それに沿わないエクスピースが深淵の禍神には異質なものとして認識された。


「てりゃあぁーーー!」

「ア、アッ!」


 神とまで名付けられた怨念は魂の集合体であり、肉体の集合体でもある。

 当時、イズベルタ収容所では死体が消える事件が頻発していた。

 死体を放置すれば腐敗するため、所員達は悪態をつきながら死体を収容所の一角にある大部屋に捨てていた。

 焼却炉を建設する案も上がったが、必要費用に難色を示した国の上層部が首を縦に振らなかった為だ。

 そんな日々の中である。

 いつまで経っても溜まらない死体に一時期は不思議に思う者達がいた。

 しかし、面倒な仕事が減ったということで上には誰一人として報告しなかったのだ。

 それが未曾有の悪魔が生まれる予兆だとも知らずに。

 地下で非業の死を遂げた魂が集まっただけではアンデッドの域を出ない。

 アンデッドは厄介な存在だが、当時のアフクルムは優秀なエクソシストを抱えていた。

 そのため、生半可なアンデッドでは討伐されてしまう。

 怨念はそれを知っていた。

 どうすれば憎悪と復讐を成し遂げられるか。

 魂は死体をも取り込み、地下で蓄えられていく。

 肉体と魂が合わさった怨念、それはアンデッドにして実体を持つ。

 その為、聖なる光も通さない。


 蓄えられた怨念はやがてイズベルタ収容所を恐怖に陥れるようになる。

 夜、見回りをしていた所員の身体が強張ってそのまま全身が破壊された。

 仮眠をとっていた所員は金縛りにあったまま窒息死している。

 所員が連続で不審死を遂げたとあって、イズベルタ収容所内では当然のように囚人が疑われる。

 囚人達はストレスが限界にきていた所員達の怒りの捌け口となってしまう。

 酷い拷問や虐待の末、殺された囚人の魂と死体は怨念によって取り込まれた。


 さすがに事態を察した国の上層部はイズベルタ収容所に調査団結成の計画を立てていた。

 ついに逃げ出す所員が出始めた為、まずはその粛正も兼ねてのものだ。

 結成された調査団は聞き込みをした所員をも殺し始める。

 それもそのはず、彼らはその事態になっても未だ人的要因を想定していたからだ。

 何者かがイズベルタ収容所を内部から壊そうとしている。

 他国のスパイが紛れ込んでいる。

 そんな想定の中、囚人だけではなく所員すらも犠牲となった。

 その時、調査団の前で死体が見えない力によって引きずられる。

 その先には悪魔がいた。

 さすがにまともな事態ではないと気づいた調査団だったが、すでに遅い。

 一人、首がねじ切れて死んだ。

 アフクルム国軍の中から抜擢された精鋭達が応戦を開始するも、彼らが攻撃を開始することはなかった。

 悪魔を敵と認識した段階で、彼らは一人残らず全身が潰れてしまったのだ。

 悪魔は囚人や所員、調査団すらも取り込んでしまった。

 もはやそこにあるのは純粋な憎悪だ。

 イズベルタ収容所内で犠牲になった者達の意思だけではない。

 悪意をもった所員、処刑前提で訪れた調査団、すべての憎悪が悪魔に集まってしまっていた。

 悪魔の中にあるのはただの憎悪ではない。

 感知できるものすべてが憎悪の対象だ。物音、匂い、そこにあるものがなんであろうと構わない。

 悪魔にとっては万物が憎むべきものだった。

 ただ一つの問題があるとすれば、それは何も見ようともしない魂達の性質だろう。

 悪魔が視覚を持てなかった理由であるが、そんなものは些細なことだった。

 数多の犠牲を出した上でそんなものが判明したところで、冒険者による討伐など叶わないのだから。

 イズベルタ収容所が森に埋もれるまで隠蔽した国にとってはどうでもよかった。

 アンデッドをも凌ぐハンデッドという概念が確立されようと、国は徹底してイズベルタ収容所をなかったものとした。


「てやぁぁぁッ!」

「ア、ア、オ、マ、……エ、ア¨ァ……」

 

 悪魔はリティに恐れを抱き始めた。

 こんな生物は初めてであり、周囲の人間に対しても同様だった。

 奇妙な踊り手、祈りを捧げて不快な光を放つ少女。

 悪魔を形成する魂と死体がかすかに蠢いて、自身を保てなくなる感覚があった。

 それは不快などではなく、解放の前兆だと悪魔は知らない。

コロナEXにてコミカライズ4話が公開されております!

原作でいえば五級昇級試験前あたりですね。

ちょうど一巻分となりますので、単行本が発売されたらぜひ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 破棄溜まりに溜まりに溜まった怨念と骸が繋がって混ざって濁り固まった成れの果てがコイツか(٥↼_↼) 歴史的な惨劇でもなく人の手で生まれてしまった怪物か(ʘᗩʘ’) 可哀想に(◡ ω ◡)そ…
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