イズベルタ収容所 6
前の話で追放者ギルドのメンバーは残り3人とか書かれてましたが
正しくは4人です。
あと一人誰だよって思った人は正しいですし、覚えてる人はマジですごいです。
気がつけばリティは吹っ飛んでいた。
激痛を感じる間もなく、何をされたかもわからない。
壁に激突しても尚、反撃の姿勢をとることができない。
体が動かないのだ。全身の神経系統が麻痺したかのごとく、指先すら動かせない。
それは仲間も同じだった。
動けず、戦闘開幕で全員が床に転がってしまった。
「オ、オ¨アァァァァァ……」
「化け物め……!」
エルリードも同じ姿勢だが、シィルを使って反撃に出た。
空牢、特定のエリアの酸素を消失させて生物の活動を奪う必殺の攻撃。
ハンデッドである深淵の禍神に効果的とは彼も思ってないが、ないよりはマシだと考えたのだ。
そのくらい追い詰められていると、エルリードは自覚している。
「ア、アーキュラ……!」
「はいはい、すっごくピンチだねー」
エクスピースのメンバー全員をアクアロードで一か所に集めて、ミライが回復に努める。
彼女が全員の神経系統を癒している間、クーファはアーキュラを使って反撃を試みた。
ウォーターガン、オールドバイ、オケアノス。
オールドバイで溶かし、オケアノスの激流に閉じ込めてその中でウォーターガンによる一点集中の水圧をぶつける。
おおよそ生物が耐えられるはずがない水の暴力に、深淵の禍神もさすがに身動きが取れなかった。
が、それがさほど問題ないことを彼女達はすぐに思い知ることになる。
「わぁぁあっ!」
「ぐっ!」
エクスピースがまた吹っ飛んで分断されてしまう。
水の暴力や風の牢もまた弾けるようにして消えてしまった。
水の上位精霊の力を簡単に跳ねのけられたことで、アーキュラのプライドが刺激される。
「死んで堕ちた分際でやってくれるねー……」
しかしアーキュラを使役しているクーファがそれどころではない。
何度も床や壁に叩きつけられて、まるで見えない何かに掴まれて遊ばれているようだった。
その際にクーファとアーキュラによる水のクッションで衝撃は和らげたものの、リティ以外のメンバーは危ない状態だ。
特にミライはそう何度も耐えられない。
少しは回復できたものの、このままではジリ貧だとナターシェは舌打ちをした。
ロマも現状に憤りを感じており、なんとか剣を杖代わりにして立ち上がろうとする。
「ア、アーキュラちゃんの攻撃は効いてないの?」
「効いてないわけじゃないよ……。例えるならものすごく硬くて生命力があるって感じかな……」
ナターシェはマームの遊び相手をするときにやっていたカードゲームを思い出した。
カード一つに設定されているHPと防御、深淵の禍神はこれが恐ろしく高いのだ。
つまり絶望的な相手である。
何より要のリティが何もできずにいる現状、ダメージソースはクーファとエルリードしかない。
「アア¨ア¨ァァ、ア¨ァー……!」
「ひどい声……!」
それは何かを訴えているのか、地下での残虐な仕打ちを受けた者達の叫びか。
ロマがあらゆる想像をしたところで、突破口は見えない。
仮にこれが怨霊の類だとすれば、正攻法での突破は極めて困難だ。
ミライのおかげで少しは回復した体に鞭を打って、ロマは意を決した。
「あなたの、想いはわからない、けど……」
ダグラード遺跡の呪われし歌姫の時とロマは同じ試みをした。
怨霊の意思をくみ取り、踊りに乗せて応えるのだ。
深淵の禍神は呪われし歌姫とは次元が違う。通じるはずがない。
しかしそう諦めてしまうわけにはいかなかった。
相手はリティが手も足も出せない化け物である。
今こそ自分がリティの助けとなるべきではないか。
そしてロマは舞った。
「ロ、ロマさん……」
ロマの頭にはいつか呪われし歌姫だったダグラードの王女からもらった髪飾りがある。
暗い地下にて、煌びやかに光らせてロマは舞う。
「オ、オ¨……」
深淵の禍神の動きがかすかに鈍ったのをリティは見逃さなかった。
モーゼスエッジを構えて、全力で飛びかかる。
「バーティカルスラッシュッ!」
キャプテン・クリーバーの必殺の一撃、ではない。
二撃、三撃、四撃。無数の斬撃が深淵の禍神を斬りつけた。
しかし次の瞬間、リティはまたも吹っ飛ぶ。
床、壁、床、床、壁。数回にわたり叩きつけられた挙句、今度は体が締め付けられた。
「うあぁ……! ああぁッ……!」
「リ、リティちゃん! あかん!」
エネリーもまた体に鞭を打って立ち上がり、数本のナイフを深淵の禍神に投げる。
更に手製のボムも放り込むが、やはり焼石に水であった。
エネリーも吹っ飛ばされて締め付けられるが、後悔はしていない。
自分も命をかけて前に出る。ここぞという時に勝負に出た自分を心の中で褒めていた。
「うぎぎ……こ、こら、あか、ん……!」
クーファがまたアーキュラを使い、水の暴力で再攻撃する。
ミライは自分自身を回復して、その足でリティの下へ向かう。
しかし回復したところで謎の力による拘束は続いていた。
深淵の禍神はやはりリティを危険視しているのだ。
それだけに他のメンバーへの攻撃の手が緩んでいるが、ダメージソースとしては心元ない。
「ミ、ミライさん! 何度もすみません! 今度こそ、今度こそ決めますッ!」
「わたしも、動きを……」
ミライが深淵の禍神に向けて聖属性上位魔法を放つ。
本来、アンデッドを寄せ付けない結界のような役割を果たす魔法だが今は深淵の禍神に攻撃の形で使用している。
またクーファの水の暴力が解除されたところで、交互に追撃を行っていた。
その隙を縫ってリティが再び攻撃を叩き込む。
「オアア¨ア¨ッ!」
「ああぁぁ負けませぇぇぇんーーーーー!」
再び謎の力による攻撃がリティ達を襲い、攻撃が途切れてしまう。
しかしリティだけは活動をやめなかった。
抗いようのない謎の力のはずであるが、リティは抗っている。
神経系統の麻痺を自力で防いでいるのか、これにはもはやエルリードすらわからない。
「アアアア¨ァ!」
「ガスか!?」
深淵の禍神の体からドス黒い霧のようなものが吹きだされた。
エルリードは咄嗟にシィルを使って風で吹き飛ばす。
風の結界のように場が形成されて、ガスを戦場から追い出したのだ。
「あなたのそれは、全身をすり抜ける攻撃ですけど……負けませんッ!」
エクスピースとエルリードの身動きを封じているのはウラコが使っていた謎の力だとリティは気づいた。
通常であれば魔法でも防ぎようがない。
上位のアンデッド特有の得体の知れない力なのだが、ここにいるのもまた得体の知れない怪物だ。
人間を超えた体の構造をしているのか、それは誰にもわからない。
リティは動きを鈍らされても尚、立ち上がる。そう、鈍るだけにとどまっていた。
深淵の禍神はリティを潰し殺すつもりであったが、それが叶わない。
加えてロマの踊りがじわりと効いてくる。
呪われし歌姫から貰った髪飾りは魔を払うとされており、代々王家に受け継がれてきたものだ。
災厄、病、あらゆる魔を払い続けてきたからこそ王家が繁栄してきた。
ロマは自身の想い、そして呪われし歌姫だった彼女の悲哀を踊りに乗せている。
それはつまり、言ってしまえば――。
「辛いのはあなただけじゃない……」
キャプテン・クリーバー、呪われし歌姫。
望まぬ死を迎えた魂達などこの世にいくらでも留まっている。
しかし死した者がいつまでもこの世に留まるべきではないのだ。
ロマは深淵の禍神という呪いを解放しようとしていた。
サンクチュアリ、ロマの踊り、隙あらば動き出すリティ。
エルリードは何を見せられているのか、わからなかった。
「おいおい……俺が手助けしたとはいえ、相手は特級だぞ。誰もが討伐を諦めたんだぞ」
特級の討伐報告はあまり多くない。
ユグドラシアでさえ、数える程度だ。
特級パーティの彼らでさえその程度なのだから、一級になった程度の冒険者が敵うはずがないのも道理だった。
しかもエクスピースは二級、本来であれば数秒で全滅してもおかしくない。
ところが彼女達は互いをフォローして、なんとか戦っている。
「バランダル大船長……あんたにこれを見せてやりたいよ」
全身が激痛まみれで動けないながらも、エクスピースは動いている。
エルリードはまたもや見とれていた。そんな場合ではないというのに。
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