表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/204

イズベルタ収容所 3

※ナターシェの過去は167部 エクスピース、ナターシェの実力を知る より

 ゾイスト、レブナント、そしてウラコ。

 三種類のハンデッドに加えてエクスピースは追放者ギルドを相手にしなければいけない。

 ロマとリティがレブナントとゾイストを相手取り、エルリードとシィルはギリギリまで手を出さなかった。

 ウラコの相手はクーファだ。

 適切な対戦カードというのもあるが、クーファはウラコが他人のように思えなかったのだ。

 何一つ光がなく、路上をさ迷っていたあの頃を思えば自分も一歩間違えればこのハンデッドと同じ。

 クーファはウラコと正面から対峙して、そして鋭く見据える。


「幽霊船の時も今も……。どうしてこんなにも恵まれない人達が多いの……」

「なに、世間知らずなこと言ってんのさー」


 ウラコは虚空の瞳でクーファを捉えて動きを封じた。

 いわゆる金縛りである。魔術でもない束縛はいかにクーファが優れた魔術師であっても逃れられない。

 更に力が加わり、クーファの全身を砕かんとした。


「コ、コールドマザーッ……!」


 クーファは自身をコールドマザーでコーディングした。

 完全な耐性は得られずとも、ウラコの拘束の力を軽減する効果はある。

 しかしウラコの髪が伸びて壁や天井に張り巡らされた。

 クーファは目を見開いて驚愕する。その髪は戦場を覆いつくさんばかりだからだ。


「ちょっと! 足が……!」

「ふんっ!」

 

 絡みついた髪をリティは強引に引きちぎる。

 しかしベルクファクトと戦っていたナターシェは虚を突かれて態勢を崩した。

 ベルクファクトがその隙を見逃すはずがなく、ナターシェに手傷を負わせる。

 寸前のところでガードしたものの、腕をほぼ犠牲してしまった。


「くっ……!」

「おい、どうした。ナターシェ、お前はあれだけ俺達にいきり散らしておいてその様か?」

「ベルクファクト、あんたなんで追放落ちなんか……」

「お前のせいだよ、ナターシェ。二級冒険者パーティ、ドラゴントゥースは崩壊したのさ」


 ドラゴントゥースはかつてナターシェが所属していたパーティだ。

 準一級昇級試験に挑んでナターシェが強引に探索を進めた結果、一人の仲間を失う。

 当時、パーティのリーダーであるベルクフェクトはナターシェに対してこう告げた。


「ナターシェ、お前は一人のほうがいい」


 それからベルクフェクトは語る。

 ドラゴントゥースのメンバーの一人は冒険者引退を決意する。

 ある者は置手紙を残して失踪する。

 ある者はパーティの資金を盗んで行方をくらます。

 二級冒険者パーティは事実上、崩壊した。

 ベルクフェクトは傷ついたナターシェに舐め回すように視線を這わせた。


「ナターシェ、これはきっと天罰だ。調子に乗ったお前はいつかこうなるようになっていた。そうそう、若かったライアスを覚えてるか? あいつは冒険者を引退したが今は病に伏せているらしいぜ。かわいそうにな。誰かがパーティを強引に動かさなければ、輝かしい未来があったってのに……なぁ! ナターシェェッ!」


 ベルクフェクトは動かないナターシェに暴行を加える。

 ナターシェは身動きとらず、堪えていた。


「お前は! お前はァァ! お前さえいなけりゃ! ライアスも! マーカフも! サムエラもッ! 今頃はもっとマシな人生を送っていただろうなぁッ!」

「ぐっ! あぐっ!」

「俺はお前の行方が気になって調べた! やっと見つけたと思ったらお前はどこぞの貴族に雇われてご満悦だ!

だからお前の大切なお嬢様を手下に襲わせたのさ! 見事に失敗しやがったけどな!」

「マ、マーム様を襲ったのは……あんたの差し金……」

「そうだ! 今頃、気づきやがって! あそこで失敗して解雇されてりゃ追放者ギルドに迎え入れて俺が優しくしてやったんだがな!」


 ナターシェの中は自責と後悔、そして怒りで埋め尽くされていた。

 ベルクフェクトに古傷をえぐられて立つことすらできないが、立とうとしている。

 恩人に背いて、あまつさえパーティを崩壊に導いてしまった。

 かつての思い出が頭にフラッシュバックして、ナターシェは涙を流しかける。


「だからてめぇは今ここで……ぐふッ!」


 ベルクフェクトの暴行が収まった。

 彼を後ろから刺したのはエネリーだ。

 彼女に似つかわしくない興奮した面持ちで呼吸を荒げている。


「こ、この……!」

「ナターシェちゃんが世話になったなぁ。でも今はエクスピースで元気にやっとるんや。犯罪者の出る幕はないで」

「知ったようなことを、このクソガキが……ぐあぁッ!」


 エネリーのナイフがベルクフェクトを一閃した。

 懐に潜り込まれたベルクフェクトがよろめいて、エネリーの動作に驚きを隠せない。

 ベルクフェクトとて、敵の力量を把握できるほど経験は積んでいる。

 その上でエネリーの一撃を真正面から受けてしまった事実を受け入れられなかった。


「あんたは人の弱みに付け込む悪徳商人か。そんなんでナターシェちゃんを殺して気が晴れるんか?」

「だ、黙れ! お前のようなガキに何がわかる!」

「だったら年長者としてナターシェちゃんをしっかり教育すればよかったんやッ! あぁ!?」

「な……」


 普段、感情を見せないエネリーが怒りを発散させる様にナターシェはただひたすら面食らった。

 彼女の怒りもそうだが、自分のためにここまで怒ってくれるとは思ってなかったのだ。

 いつも笑顔で底を見せず、白々しさすらあったからだ。


「あんたは年上のパーティリーダーのくせに年下のナターシェちゃんに頭が上がらんかったんやろ! 生意気なガキがおるんなら、怒鳴りつけてでも正すのが大人っちゅうもんやで! でもあんたが勝手にコンプレックスを拗らせて好きにさせたんや! 仲間が殺されたのはナターシェちゃんのせいやない! あんたのせいや!」


 ナターシェにも責任があるとはエネリーもわかっている。

 しかしここでそれを言うべきではなく、ベルクフェクトに弱みを見せる必要などなかった。

 何よりナターシェが本来、負けるべきではない相手に屈しているのを見たくなかったのだ。

 ベルクフェクトは歯ぎしりをして、剣をより強く握る。


「お前に冒険者の何がわかる……! 思いあがってんじゃねえぞコラァァッ!」


 ベルクフェクトの剣に炎が宿った。

 彼のジョブは魔法剣士(マジックファイター)、重い両手剣と腕力に加えて魔術の威力を加算するのである。

 吠えたベルクフェクトはエネリーに斬りかかった。


「俺はお前がションベン垂れの頃から冒険者やってんだ! 道理ってもんがあるんだよ!」

「自分の責任はスルーか! うちのリーダーがあんたじゃなくて命拾いしたわ!」


 エネリーの身のこなしは軽々しかった。

 怒り狂ったベルクフェクトの剣を回避して神経を逆なでる。

 真正面から挑んで、尚且つ自分のやり方で戦う。

 エネリーはバランダルに言われたことを思い出して覚悟を見せていた。


――ここぞという時に勝負できねぇ奴は一生へっぴり腰の人生を送る


――死ぬ気で生きてる奴は何も恐れねぇ。


「ナターシェちゃんに頭下げて詫いやッ!」


 ベルクフェクトはエネリーに背後を取られて足首を斬られる。

 呻いて、たまらず尻餅をついたベルクフェクトにエネリーがしゃがみ込んで首元にナイフを当てた。


「こ、こんなガキに俺が……!」

「うちは剣術のことわからんけど、ナターシェちゃんに教えたのはあんたやろ。なんとなくわかったわ」


 ベルクフェクトは身動きをとれず、視線で周囲を確認した。

 そして更に信じられない事実を思い知ることになる。

 ハンデッドの姿がどこにもないのだ。

 その時、何かが倒れる衝撃が響く。


「……これで最後ですね!」

「くたびれたわ……」


 最後のゾイストがちょうどリティとロマによって倒されていた。

 レブナントも軒並み姿を消しており、祈るような姿勢のミライがいる。

 残ったウラコは全身が溶けかかっており、かすかに片手を上げたものの崩れる。

 クーファがウラコを見下ろして、沈痛な表情を浮かべていた。


「オールド・バイ……。あなたにも終わりが訪れますように……」


 永遠に存在し続けるハンデッドにクーファは終わりを与えたのだ。

 人がいつか死ぬように、ウラコにもオールドバイによって時の流れを感じさせた。

 朽ちる寸前のウラコは目を細めて、どこか安らいでいる。

 完全に消え去った時、クーファもミライの真似をして祈りをささげた。


「バ、バカな……。あれだけ、あれだけいた、ハンデッドが……ウソだ、あり得ない……」

「あんたが手を出したパーティは生半可やないで。前に進み続ければ、こういうこともあるんや」


 エネリーに首元にナイフを突きつけられたまま、ベルクフェクトの戦意は失われつつあった。

 今までの自分の人生はなんだったのか。やはり間違っていたのか。

 今の自分は商人(マーチャント)にすら追い詰められている。

 ベルクフェクトの手から完全に剣が離れた。


「そうだよ、エネリーちゃん……。あなただってちゃんと戦えば……強いんだから」


 ナターシェが床に寝たまま、エネリーの健闘を称えていた。

コロナEXにてコミカライズ3話が更新されました!

リティとロマ、龍虎の対比!

冒頭のアルディス達のシーンもグッドです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 幾ら昔の仲間でも袂を分かし、道も違えた果てがこのざまか(´-﹏-`;) 恨み言を吠え倒しても所詮、負け犬か(-_-メ) しかし元々、才能無し呼ばわりされてたリティの下剋上から始まった冒険だ…
[良い点] エネリー師匠カッコイイ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ