エクスピース、船内で落ち着く
「なんや、うちらどこまで行っても冒険者なんやな」
作戦会議の後、ナターシェはエクスピースの全員に決定した事項を伝えた。
エネリーはやれやれといった感じであり、ロマは頭を抱える。
エクスピースがガーニス大氷河入りを条件に、人質の救出に協力することになったこと。
このままではアフクルム国からも睨まれて、追放落ちも免れないこと。
アフクルム国が従えている帝王イカに似た怪物、アフクルム海軍の動向、すべてを踏まえればエクスピースにっても悪い話ではない。
何よりイズベルタ収容所の概要を聞いた時、リティが前のめりになった。
「にわかには信じられないわね。そんなリスクのある場所に監禁なんて……死ぬでしょ」
「あそこの最下層にいるネームドモンスターは音に反応するの。音さえ出さなければ無害だから、生きている可能性はある」
「もし人質の子が音を出して殺されたら、それこそグレートバランが遠慮する必要がなくなるわ」
ロマの指摘に反対する者はいなかった。
追放者ギルドが何を考えているのか、未だ見えてこない。
ズールがすべてを壊すと目論んでいたとしても、果たしてそれだけが目的か。
リティはズールについて改めて考えを整理した。
「ユグドラシアにいた時も、ズールさんはアルディスさんから私を庇ってくれました。でも私はあの人が嫌いでした」
「リティがハッキリそこまで言うなんてね」
「あの人は冒険者じゃありません。冒険者の振りをしているだけです」
闇討ち、卑怯。リティはそれらも戦いや生き残りの一つとして捉えていた。
そんなリティすら嫌悪する何かがズールにはある。
冒険者に憧れているリティにとって、ズールという存在は悪なのだ。
それがズールの目的の本質でもあった。
そう、ズールは単なる混沌だけを求めていない。
その先にあるものこそが真の狙いだった。
「追放者ギルド……。中には一級冒険者クラスもいるって話やな。実力があってもろくでもないのがおるんや」
「あ、あの。それってグランドシャークみたいな……?」
「せやな、クーファちゃん。特にリティちゃんが言うズールみたいなのは、冒険者を化けの皮くらいにしか思っとらんのやな」
クーファは今一度、ミライを抱き寄せる。
そのような連中のせいでミライが不幸な目にあったとなれば、物静かな彼女の心に火が灯った。
リティはひたすらズールの狙いを考えている。
ユグドラシア時代に起こったことを思い返していた。
「ズールさんはよく自分で作った薬や魔道具を自慢していました。中には危険すぎて、ユグドラシアでも使用が禁じられていたものまであります」
「お国によっては規制されてるところもあるな。最近じゃそれで商売がやりにくくなっとるっちゅう話や」
「ズールさんはそれが気に入らなかったんです」
トーパスの街にて追放者ギルドの者達がマームを襲撃した際に使った煙幕。
そこでリティを襲撃したニルスの最期。
グランドシャークのジョズーとコバンザの最期。
リティは確信に近づいていたが、先に答えを出したのはエネリーだった。
「つまりズールは自分の商品をばらまきたいんやな。秩序が乱れるほど表立てるんや」
「あの人の本質は快楽です」
リティは自分を庇った時のズールの顔を思い出した。
それは酷く歪んでいて優しさはなく、あるのは哀れみ。
虐げられる者を救って安堵させてはまた落とす。
死の商人。混沌の使者。それこそがズールだとリティは捉えていた。
* * *
クーファはアーキュラに未だブランドものをねだられており、ミライは船内を満喫していた。
船内には屋台のような店もあり、一つの街としてだけでなく祭りのような感覚で楽しめる。
その際にミャンは肩に巻き付いて、食べ物を買い与えられている。
ミライのおこづかいの範囲であり、これにはさすがにリティやエネリーも注意した。
「みゃあん……」
「みゃあんやないで、ホンマに。ミライちゃんも、あんまり何でも買い与えんようにな」
「はぁい……」
「クーファちゃんもついていながら、あかんで」
「でも……」
「ほんとにねー」
クーファがアーキュラにからかわれているうちに、ミライは屋台を楽しんでいる。
ついにはミライにクーファが食べ物を買い与えられており、ここ最近では姉と妹のような関係が逆転している気配さえあった。
「リティちゃんも、変な店には近寄らんようにな。あの派手な店とかやばいで」
「何のお店なんですか? プレイガールって書いてあります」
「入ったら冒険者としての格が落ちるで。特に一流の冒険者はまず入らん」
「じゃあ入りませんっ!」
リティの扱いも手慣れたものだとエネリーは安堵する。
エクスピースは船内での居住区にて居住権を得た。個室のグレードは平船員と同じだが、彼女達に不満はない。
巨大船の中にある街にて、リティはひたすら駆け回った。
冒険者ギルドはないものの、積極的にどこかの店に赴いて働かせてくださいと頼み込む。
血の気が多かったり癖が強い住人が多いが、リティのバイタルの前では沈黙する。
常人の数倍は動き、飲食店の繁忙期などはものともしない。
酒場での喧嘩が始まれば、間に入って時には制圧する。
問題を起こして海軍を追放されたという男が小さな少女にねじ伏せられたとあっては、もう暴れる余地もない。
威勢がよかった態度も鳴りを潜めて、今は謙虚に隅で酒を飲むようになった。
そんな酒場だが、争いごとが消えたわけではない。
「あ、あんなガキが二級冒険者かよ……」
「フン、俺だって三級だぜ。ここに入らなかったら、もっと上に行ってたかもな」
「よく言うぜ。ネームドモンスターにびびっていち早く逃げたくせによ。そんでパーティメンバーからも見放されたんだろ?」
「あぁ!? てめぇこそ二級の昇給試験に十回以上落ちて、女から見放されてんじゃねえか!」
「あー! それ言っちゃったぁ! ぶっ殺す!」
分刻みでケンカが起こるような場所で、リティはいつの間にか話題の中心となっていた。
そんな中でリティは改めてグレートバランのレベルの高さに感心する。
戦闘員であれば大体が三級冒険者と同程度の実績と実力があった。
何らかの理由で挫折した者や傷がある者が多いが、実力者揃いだ。
この後、二人の男は数秒後に床に伏すことになる。
「逃げ出したといっても、危険を早く察知できたんですよ。それはあなたの武器です」
「そ、そうかもな……」
「十回も挑戦し続けるなんてすごいですよ。心が強いです」
「そんなものかなぁ?」
殴り合いを始めた二人が数分後には人が変わったように落ち着く。
これが日常風景となっていた。
酒場でも重宝され、リティは各店から引っ張りだことなる。
報酬にも色をつけてもらい、このような場所でもエクスピースの財源は潤った。
自分よりもよほど商人に向いているのではないかと、エネリーは最近になって密かに思う。
当の彼女は船内で買い取り屋をして生計を立てていた。船内の品を買い漁っては転売を繰り返している。
リティを誉めつつも、もっと狡猾に立ち回っていた。
が、しかし。エネリーはバランダルに言われた言葉が引っ掛かっている。
――人生なんて選択の繰り返し、ギャンブルみてぇなもんだ。ここぞという時に勝負できねぇ奴は一生へっぴり腰の人生を送る
「あかんなぁ……」
戦闘ではエネリーは各メンバーに劣る。
それは単なるスキルやセンスだけの話ではない気がしていたのだ。
買い取りの際に傷がついた品を値切りつつも、エネリーは己の課題を見つめなおしていた。
* * *
「そろそろ着くぞ。てめぇら、パンツを上げて構えとけ」
バランダルの下品な物言いに嫌悪したロマだが、他の者達は気にしていない。
アフクルムの王都から遠く離れた西の海岸にグレートバランは到着した。
イズベルタ収容所へ向かうのはエクスピース、そしてお目付け役のエルリードと風の精霊のシィルだ。
本気を出せばグレートバランでも風の上位精霊を味方につけた彼に敵う者はバランダル以外にいない。
そのようなお墨付きをもらったエクスピースだが、誰一人として当てにはしていなかった。
なぜならそこにいるのはエクスピースなのだ。
「ねぇ、あなたアーキュラちゃん。私ね、エルリードにカラリスのバッグを買ってもらっちゃったのぉ。そっちはどう?」
「シィルちゃんはいいねー。うちのマスター、お子ちゃまでさー」
意気投合している上位精霊だけが緊張感が一切ない。
ルイカの安否、イズベルタ収容所。エルリードの財布事情。
今、守られているのはエクスピースの資金のみだ。
一向はこれより捨てられた地、イズベルタ収容所へと向かう。
錚々たるメンツだが、その場所をわずかに知るエルリードがもっとも緊張していた。
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