グレートバラン作戦会議 1
グレートバラン本船の中心部にある大会議室、ここに入る事が許されるのは船長クラスのみだ。
人質の居場所と救出、今後の方針。すべて決める際にエクスピースも代表者一人の入室まで許可される。
パーティリーダーなど、彼女達は決めていなかった。リティを中心に立ち上がり、彼女の力で引っ張ってきたパーティではある。
ただしリーダーとしての役割があるかとなれば怪しい。作戦や今後の動向の決定をするには資質以前に経験や知識が足りないのだ。
以上のような事実を聞いてバランダルは鼻で笑った。各船長達も様々な反応を見せる。
呆れる者、逆に興味を持つ者、大笑いする者。リティは反省して成長を望むが、今からでは間に合わない。
「エクスピースの代表者、ナターシェです。皆さん、よろしくお願いします」
経験豊富なナターシェが出席する事になった。エネリーが熱烈な意欲を見せていたが、結果的に譲った。
屈強な船長達を相手に度胸で挑みたかったのだ。いわゆるバランダルに臆した件のリベンジだが、今の自分に必要なのはそこではないと考えを改めた。
挨拶をしたナターシェに応えたのはたった二人だ。エルリードが手を振って、カシムが言葉で答える。
シィルが漂い、ナターシェを観察するようにまとわりついていた。
「ふぅん、なかなかのスタイルね。冒険者じゃなくても稼げるんじゃない?」
「シィルさん、これから会議なのでプライベートに立ち入ったお話は後にしてください」
「あら……」
上位精霊にまとわりつかれて態度を崩さないナターシェにシィルが意外そうな顔をする。
シィルに視線すら動かさずに動じず、船長達は早くもナターシェに興味を持った。
ナターシェは以前のパーティに所属していた際にグレートバランと接触した事がある。当時は食ってかかったが、今は落ちついていた。
バランダルはこのタイミングでそれを思い出す。が、それを口には出さない。
「シィル、こっちに来るんだ」
「はぁい」
シィルがしゅるりとエルリードの下へ行く。バランダルは退屈そうに鼻をほじって、会議の進行を待っていた。
そこへ切り出したのは一番船の船長カシムだ。突撃隊長の異名を持つ彼はこういった場でも、グレートバランの道を作る。
「優先すべきは人質にとられているルイカの居場所だ。当たり前だが、ルイカの身に何もない前提で進めさせてもらうぞ」
「だよなぁ、カシム! オレらを怒らせたら国くらい消えちまうからなぁ!」
四番船の船長バエールの声が大きい。隣に座っている二番船の船長レイチェルがわざとらしく耳を塞いでいた。
「居場所についてだが、誰か心当たりがあるか?」
「あるわけねぇだろ」
「ないね」
「あります」
ナターシェが堂々と答える。鼻をほじったまま、バランダルはナターシェを睨む。
度胸だけではグレートバランの船長達を認めさせられない。ここはグレートバランの中枢、いい加減な返答をすれば海の藻屑となりかねない。
ナターシェはすでに主犯がズールである事を船長の一人から事前に聞かされている。
「ズールは追放者ギルドなる組織を束ねています。皆さんも聞いた事はあるかもしれません」
「つまり負け犬の集まりにしてやられたって言いてぇのか?」
「そうです」
バランダルの意地悪い突っ込みにもナターシェは堂々としていた。それどころか、話を遮るなとさえ言わんばかりだ。
「実際、ズールはこの堅牢な本船に侵入してバランダル大船長と接触しています。個人的な考えですが、ズールはユグドラシアの中でもっとも強いです」
「殺せるかどうかって話ならそうかもな」
ナターシェはズールの危険性を説いた。一対一の勝負ならばアルディスやドーランドに及ばない。
しかし暗殺となれば、彼らを相手にしてもチャンスを見つけられるのだ。元々ズールに冒険者の資質はない。
資格習得、立ち回り。すべて冒険者を真似て、冒険者としての地位を手に入れられるほどの要領のいい男なのだ。
闇に身を置いていた者が冒険者としての身分を手に入れていたに過ぎない。
それを身をもって実感しているのがバランダルなのだ。反論の余地などなかった。
「ファクティア監獄からは多くの囚人が脱獄しています。中には元一級冒険者やそれに相当する実力者も含まれているとの事です。もし彼らが追放冒険者ギルドに加わっていたのなら、決して甘く見るべきではないと思います」
「で、居場所の見当はついてんのかよ」
「彼らは犯罪者の集まりです。ファクティア国内でも警戒が強まり、彼らの拠点は現時点で限られているはずです。ルタ国で彼らと戦った際にもそれは感じました。あの国の劣悪な地形と治安を考えれば、堂々と活動できたのも納得できます。しかしまともな国であれば、早々彼らの好きにはさせないでしょう。いくら実力者の集まりとはいえ、彼らを自由に歩かせる国などほとんどありません」
誰も反論しない。反論する事はできたが、それに意味などないとわかっている。
ナターシェの言葉も憶測の域を出ないが、何より力を感じていた。言葉に宿る力はナターシェの冒険者としての格だ。
二級で終わるべきではないナターシェという存在がグレートバランの面々を黙らせていた。
「結論を言いますと、人質はアフクルム国内にいる可能性が高いです」
「ほー、その心は?」
「エルリードさん。彼らの行動が制限されているとなれば、国をまたいで移動するのも容易ではありません。そんな労力をかけるくらいなら、それこそ殺しているでしょう」
「……君、このメンツを前にしてすごいね。私なら思ってても言わないよ」
「最初にカシムさんが言った通り、生きている前提で進めましょう。彼らを野放しにする国などありません。普通は、です」
もったいぶったナターシェの言い方だが、全員に察しがついている。
つい先ほどの出来事を考えれば、思い当たらないはずはなかった。
「港で皆さんと戦った時、そしてアフクルム海軍の様子……それにあの巨大な魔物。追放者ギルド。安易に結びつけるべきではありませんが、何かしら連想できませんか?」
「アフクルムが負け犬に首輪をつけて飼っているってか?」
「その逆かもしれません」
さすがのバランダルも予想しなかった。アフクルムは大陸一と言われている海軍を持つ。
グレートバランが懇意にしているだけあって、その力を疑っていなかった。
「最悪の事態を想定しましょう。追放者ギルドはこの国を拠点にして、大陸中に根を張ろうとしているかもしれません。未だマティアス教の過激派との紛争が絶えない地域もある中、そこに付け込む可能性もあります」
明確な根拠はないものの、またしても誰もナターシェの発言を遮らなかった。
今や全員がナターシェの次の言葉を待っている。バランダルさえも、いつしか鼻をほじらなくなった。




