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リティ、フィート草原で戦う

 一日目はフィート平原での狩りに決めた。

 街の北側に広がる平原は、視界を遮断する障害物がほぼない。所々、点在している木に小高い丘。緑一色とのどかな風景がどこまでも続いている。

 空気の良さにリティは思わず深呼吸をした。自然溢れる場所だが、ここには魔物が出没する。

 リラックスもそこそこにして、リティは散策を始めた。


 広い平原だが、主に生息する魔物は5級が大半だ。それには理由がある。街から街という主要な通り道となっている場所は、国が整備している事が多い。

 ここも例外ではなくて、道沿いに行けばまず迷わない。

 それに加えて魔物も国家戦力である騎士団が、強い魔物の大半を狩りつくしていた。絶滅とまではいかないものの、数は減少している。

 しかし、そうすべてが解決していなかった。定期的に国がそうして討伐出来ていればよいのだが、コストも馬鹿にならない。

 かといって放っておけば魔物はすぐに繁殖する。そこで冒険者の登場だ。


「ヤングラにあれは……バフォロか」


 ヤングラは魔の森にも生息していた魔物で見知っているが、バフォロは初見だ。

 牛のような体格だが、その角は枝分かれして正面を向いている。

 同じ5級だが、危険なのは後者だ。しかも彼らも群れを作る事が多い。

 今のところはヤングラ1匹とバフォロが3匹。それぞれが別々の場所で草をかじっているが、彼らは立派に人を襲う。

 迷って時間をかけるほど、気づかれる可能性が高いのは学習済みだ。

 リティはヤングラに奇襲を仕掛けた。武器なしでも倒せた魔物なので、これは難なく処理できる。


「まずは一匹、よし! 次!」


 バフォロ達がこちらに気づいたと同時に、ひとまず後退する。あの角に加えて突進力だ。

 無謀に挑むよりも、まずは彼らの攻撃経路を一直線にする。3匹が同時にこちらに突進してきたところで、行動開始。

 ギリギリまで引きつけてから、まずは右に旋回。端にいるバフォロの側面にロマがやってみせたスキルを仕掛けた。


「疾風斬りッ!」


 前足の付け根から背中にかけて、斜めに入った。絶命とまではいかなくても、倒れてくれたなら完了だ。

 突進の勢いを殺すのに必死なバフォロ2匹の隙を見逃さない。

 ジャンプして2匹の真上から、再び繰り出す疾風斬り。

 だが背中は側面よりも皮膚が厚いらしく、戦闘力を奪うには足りなかった。

 向こう側に着地したところで、バフォロが頭を振って攻撃行動を開始する。角は刃にもなっており、触れると致命傷の可能性があった。

 空を切る角を後退してかわし、距離を取る。

 そして突進が始まる直前を狙い、2匹の角を同時に払い薙いだ。勢いがつく前ならどうという事はない。

 リティはそれを無意識のうちに理解して、払い薙ぎでバフォロの頭が逸れたところに再び疾風斬りを放った。


「二連ッ! 疾風斬りッ!」


 ほぼ二発同時の疾風斬り。それは修練所ですら教わってない応用スキルだ。

 ロマも連撃は難しいであろう、このスキルをリティはこの実戦で編み出してしまった。

 背中、そして今回の一撃とダメージが重なったバフォロはいよいよ力尽きる。

 ヤングラ1匹、バフォロ3匹の討伐が完了した。 リティはバフォロの死体に近づき、皮膚に触れる。

 ガルフよりもスピードは劣るが硬い。パワーも段違いだ。こちらのほうが受ければ一撃で致命傷になりかねない。

 それがリティの分析だった。

 同じ等級でも性質が違う。それに伴って危険度も変わる。等級とは大雑把な区分でしかないとリティは解釈した。


 倒した段階で早速、解体処理だ。バフォロとヤングラの肉は街でも需要がある。討伐証明は角の一部を持っていけばいい。

 ただしリティ一人の身ではあまり多く持ち運べないので、この合計4匹分が限度だった。これだけでも稼ぎにはなる。

 しかし、リティは物足りなかった。


「ダッシュッ!」


 そこで思いついたのが街との往復だ。ここは街から出てすぐそこにある場所でもあるから、リティの体力をもってすれば容易い。

 荷を背負って街まで走る最中、リティの中に疑問が思い浮かぶ。荷物の持ち運びは最重要課題だ。それもある。

 何よりさっきの戦いで一番感じた事は、武器の重要性だ。

 疾風斬りは初動も速く、威力もそこそこだがバフォロのような耐久性が高い魔物は仕留めそこなう。

 贅沢かもしれないが、それが致命的な場面になる場合もあるはず。


「たくさんのスキルや武器を同時に使いこなせたら……絶対強いのに」


 一度に大量の武器を使いこなす。あまりに子どもじみた発想ではあるし、シンプルな理想論だった。


* * *


「討伐完了しました!」

「は、早い……ヤングラにバフォロ3匹……」


 近い場所とはいえ、たった3時間足らずで4匹の魔物を討伐して素材を持ち帰る。

 魔物の討伐数だけでも、5級冒険者がパーティを組んで挑むレベルだ。

 たった一人でそれを成し遂げた事実に、冒険者達はいよいよ浮き足立った。


「ありえないだろ……」

「あの素材だけでもかなりの重さだろう?」

「バフォロはタフで厄介だし、一匹でも面倒だろ。あの角を振り回されただけで近づけねぇし……」


 個体差もあるが、バフォロは5級の中でも厄介な部類に入る。

 5級に昇級して、初戦闘でこの魔物に畏怖するのはもはや通過儀礼とまで言われていた。

 あの角と突進の威力は、そんな初心者を易々と葬る事もある。

 ここにいる冒険者達も煮え湯を飲まされた事があるだけに、リティの存在がいよいよ理解できなくなっていた。


「では清算のほうを……」

「あ! まだ今日はたくさん狩るので後でまとめてお願いします!」

「え! いえ、あの!」


 戸惑う受け付けの女性をよそに、リティはまた外へ飛び出してしまった。

 まだ日が落ちるまでに時間があるとはいえ、天候も怪しい。

 リティの底なしのバイタリティとモチベーションは、5級の魔物数匹程度では収まらなかった。


* * *


 再び草原を疾駆していると、足元に何か気配を感じた。反射的に跳び上がると、何かが頭を出す。

 体長が恐ろしく長く、防具を身に着けた人間一人を絞め殺すのに秒もかからないという力を誇る蛇。5級の"アコン"だ。

 毒こそ持たないが、気づかずに忍びよられて犠牲になる人間が多い。


 バフォロが人間でいう重戦士(ウォーリア)なら、アコンは盗賊(シーフ)暗殺者(アサシン)といったところか。

 地を這う高速の蛇に、リティも攻めあぐねる。足を取られたら最後だ。

 跳躍して大きく引き離し、疾風斬りを放つも完全にはヒットしない。長い胴体の一部を斬ったくらいでは止まらなかった。

 耐久、早さ共にバフォロ以上に厄介だ。


 だがリティはすでに攻略法がわかっていた。この魔物、噛みついてくるような動作はほとんどない。

 つまり集中力を研ぎ澄まし、寸前まで待てばいい。

 足、腰、体、腕、頭。来るべきところを特定した段階で払い薙ぎだ。

 体を回転させて、迫った蛇の体を斬り刻む。巻き付くという性質上、突進よりも決まるまでのラグが大きい。

 初見の魔物の性質を見極めたリティは、アコンを難なく討伐する。


「この蛇は確か……」


 アコンの鱗も買い取り対象だ。肉も需要がないわけではないが、あまり人気はない。栄養価はそこそこだが味が淡泊で牛や鳥、豚に比べると劣る。

 あの二人もこの肉は欲しがらないだろうなと、リティは老夫婦を思い浮かべる。

 しかし無駄にするわけにもいかず、一応持ち運び対象だ。


 それからヤングラ、バフォロを立て続けに索敵。更に数匹を討伐したところで、10を超える群れに出会った時はさすがに避けた。

 これだけ討伐しても、まだあれだけの数がいるとなると冒険者も騎士もいくらいても足りないのが現状だ。

 リティは出来る範囲で、街との往復を繰り返した。バフォロの群れで逃げ出すようでは力不足だ。

 あれを倒せるようになるまで、徹底的に己を鍛え上げる。

 しかしその為にはどうすればいいか。いくら避け続けても、あれだけの数は難しい。

 耐久性、パワー、今の自分に足りないものだ。


重戦士(ウォーリア)ギルド……」


 そう呟いた先に答えがあるかはわからない。しかし思いついた時には体が動いていた。

 大量の素材を持ち帰り、冒険者ギルドで誰もが声を失う結果を出した頃にはすでに夜だ。

 ズールのトラップを参考にするのも考えたが、圧倒的に資材がない。バンデラのような高い魔力もない。

 今の自分に出来る事は。

 フィート草原での戦いの中で、リティは己について見つめ直していた。

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