新人類 自宅警備員
西暦20XX年。
人類は次の段階への進化を果たす。
常識や物理法則を無視した特別な能力を持った人間達が登場したのだ。
火を自在に操る者、瞬間移動、時間停止など、その能力は多種多様。
こういった力を持った者達を人々は、
——新人類——と呼んだ。
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新人類の登場と同時にその力を悪用する者もあらわれた。既存の武器、兵器で彼らに対抗することは出来ず、そういった犯罪者達を止める術を警察や軍は持たなかった。
しかし、影ある所に光あり。悪のために力を使う者がいれば、正義の為にその力を使う者がいる。
新人類を止められるのは新人類だけだ。
「おい、もうお終いか?」
大男——身長は3メートル以上で筋肉の塊のような——が地面に倒れている男に問い掛ける。返事は返ってこない。当然だろう。隣町から派手に殴り飛ばされ、腕や脚があらぬ方向に曲がっている。
まだかろうじて生きていたのはこの男が「正義の執行者」の通り名で呼ばれるほどの、それなりに名の知れた新人類であったからか。あるいは、よほどの手加減をされて殴られたのか。
「ちっ、つまらねえなあ」
この大男は酷い悪人である。強盗、放火、殺人、世界で悪いと思われることは大体やり尽くした。それだけのことをしても、のうのうと生きていられるだけの力が彼にはあった。
彼もまた新人類である。能力は「身体能力の向上」ただそれだけである。ただそれだけで彼は最強の名を欲しいままとしている。
彼の場合はその度合いが違う。その身体には傷ひとつついたことはなく、彼の拳は大地を砕く。
彼を火で燃やそうと効果はなく、時間をとめようとも意味がなかった。
新人類でも止めることができない新人類。それが彼であった。
故に彼は何をしようとも許され、突っかかってくる者も滅多にいない。いたとしても、今回のように瞬殺である。
もうこの大男を止める者はいないと思われていた。
「ああぁぁ!!お前、人ん家に何してんだー!!」
(はあ?誰だ?)
大男は声のした方向に振り返る。
そこには男が一人。大男はその男の顔に見覚えがあった。
彼はこの国で初めて発見された新人類であり、かなりの有名人であったのだ。
それ故に彼の能力も分かっている。彼の能力は「自宅警備」自分の家にいるときだけ効果が発動するという、かなり限定的な力であった。
家に入ってきた強盗を捕まえたことから発見され、この国最初の新人類ということで注目されたが、その能力のショボさと、使い所の無さから国の恥とまでいわれていた。
「お前のせいでよぉ、なぁ!誰かは知らねえけどよお、人が飛んできてよお、俺の家滅茶苦茶になってんだよなあ!!」
確かにヒーローを吹っ飛んでいった勢いで何軒かの家が壊れてしまっていたが。
(あの中にこいつの家もあったのか?)
自分の家をなくしたことで能力を発動することは出来ないだろう。そうなればこいつは一般人同然。
「おい、お前よぉ、なに無視してんだよ。ああ、もう許さねえからな」
新人類でも、もはや相手にならない俺に、自宅を無くした自宅警備員が拳を振り上げ向かって来る。
(ああ、馬鹿らしい)
わざわざ相手にする価値もない。大男は動かず、自分が殴られるのをそのまま見送った。
ドゴッ
自宅警備員の拳が大男の体にぶつかり鈍い音が鳴る。彼の攻撃など、最強には全く通用しない。
「…………あああぁぁぁ!!痛!痛い痛い痛い痛い!!」
……はずだった。
大男にとって痛みを感じることなどいつぶりのことだっただろうか。今までに感じたことのない痛みに堪らず、地面に倒れ込み、泣いて、叫んで、転げまわった。
(何で!?自分で家滅茶苦茶にナッタイッテタヨ!?というか、そもそも何で俺にダメージが!?)
自宅警備とは家に降りかかる障害や脅威を排除するのが仕事である。排除するためにはそれを凌ぐ力がいる。よって、家という限定された場所において彼は一番強くなくてはならない。
自宅警備の能力は自宅に対する障害、脅威の度合いによって変動するのだ。
能力が過小評価されていたのは、彼の家に対する脅威のMAXが、強盗程度であったからだ。
では何故能力が発動したのか。自宅は壊されたはずではなかったか。
そもそも「自宅」とは何か。自分の家である。
では、「家」とは。人の住む建物。場所ともとれるのでは?
つまり……
「俺の町から出て行きやがれー!!」
こうなりますね。
蹴り上げられた最強の大男は、空へと打ち上げられ、星になった。
何という暴論。何という傲慢さか。俺の住む場所、生きる場所が自分の家になる。
アットホームな雰囲気の町……ではなく、こいつにとってはマジのホーム、リアルにホーム。
「自分の家だと思ってくつろいでって」
なんていわれるまでもなく、この男にとっては自分の家なのだ。
人類みな家族。お前のものは俺のもの。
まあ、こいつの人間性はともかく、自分の家を守ることが彼の使命。彼のいる場所はある程度の安全が保障されるし多少はね。
しかし、最初は本当に自宅だけでしか発動しなかった能力が町まで広がったのだ。
最終的には自国警備員に……いや……
地球警備員になる日もそう遠くはないのかもしれない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
今回のは、まあ……酷い話をつくってしまいました。
元々かきたい話があったのですが、設定に矛盾が出てきてしまい、それを解消する為に設定を足して、また矛盾が出来て……を繰り返しているうち、自分が何をかきたかったのかがわからなくなってしまい、そっちは諦めました。
結果、のりと勢いだけでかいたため、頭を全く使わない話になってしまいました。
解説もクソもありません。
読み直したところ、3メートルごえの大男の犯罪。放火って。ちまちまライターで火をつけるシーンを想像して笑ってしまいました。(放火という犯罪行為を軽視しているわけではありません)
最強なのに。