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グリとポコの日常  作者: 小石屋
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第三話 日曜日の過ごし方

皮肉屋のグリはつい余計なことを言ってしまいます。おかげでよく晴れた日曜日に一人きり。でもそんなときホムが面白い遊びを考えます。

 その日グリはとても自然に目を覚ましました。窓を開けるとまだ薄暗く、とても清々しい五月の風が入ってきました。

「よく晴れた日曜日だ」グリは大きなあくびを一つしながら独り言を言いました。それからしばらくぼんやりと庭を眺めていますと、そのうち太陽はぐんぐんと空に登り、朝露に濡れどこかひんやりしているように見えていた草花が、眩しいぐらいにぴかぴかと輝き始めました。

「違ったぞ。今日は特別に良く晴れた日曜日だ」

 グリはそう言いなおしますと、急いで顔を洗いに行きました。そして顔を拭きながらこんな風に考えました。

――今日は滅多にない特別に晴れた日曜日だ。だから何か特別なことをしないといけないぞ。

 朝食を食べようとテーブルに着くと、ちょうど見計らったようにポコがお茶と焼き上げたトーストを持ってグリの前に置きました。

「ふんっ」グリは馬鹿にしたように笑いました。

「こんな日にトースト?どうかしてるよ」

「なんで?いつもトーストじゃない」

「今日はどう考えてもクロワッサンじゃないか」

「そんな贅沢は駄目よ」「ちぇっ」

 グリはしかたなく冷蔵庫からイチゴのジャムを取り出しトーストに塗りたくりますと、ほとんど一口で食べました。

 それから今日一日をどんな風に過ごすか考えていますと、ドアをトントンと叩く音が聞こえました。グリがドアを開けてみると、外に幼馴染のレンが立っていました。レンはくすんだクリーム色の毛並みをしたパグでした。

「やあグリ、遊びに来たよ」

「ああレン、遊んでもいいよ。でも君は今日何をするつもりなんだい?」

 グリがそう聞くと、レンは持っていた釣竿を嬉しそうにグリに見せました。

「ザリガニを釣りに行こうよ。良く取れる沼地を見つけたんだ」

「へえ、ザリガニ釣り?ふんっ」グリは馬鹿にしたように鼻を鳴らしました。

「ザリガニを釣るのはもちろん嫌いじゃないさ。でも今日僕はもっといいことをしたいんだよ」

「へえ。それってどんなだい?」

 グリは腕を組んで考え込みました。たっぷり五分ほどそうした後で言いました。

「よくわかんないけどさ、ザリガニを釣るよりはもっといいことさ」

「ふーん。わかった、じゃあ僕だけで行くよ。気が変わったら来るといいよ」

 レンはそう言うとさっさと釣り竿を持って出かけてしまいました。グリはなんだか少し寂しい気持ちになり口笛を吹きながら考えました。

――なんだよ、僕はただ今日がどれだけいい日曜日か教えたかっただけなんだ。もう少し熱心に誘ってくれたら行ってやっても良かったのに。おまけに新しく見つけた沼地じゃあもう僕はそこへ行きようがないじゃないか。

 それから戸口をうろうろと歩き、レンが戻って来ないかしばらく待ちましたが、もうドアがノックされることはありませんでした。

 グリは少しだけ先ほどの自分の態度を後悔しました。せっかくの特別に晴れた日曜日なのに、ほかに誘ってくる友達などいなかったのです。

 グリはようやく戸口から離れると、台所にいるポコに声をかけました。

「ねえポコ。君は今日何をするつもりなんだい?」

「私は友達と映画に行くつもりよ」

「ふんっ」グリはまた馬鹿にしたように鼻を鳴らしました。

「こんなせっかく特別よく晴れた日曜日に映画だって?笑っちゃうね」

「そう?だってお外で何をするのよ」

 グリは腕を組んで考え込みました。たっぷり五分ほどそうした後で言いました。

「そうだ!気球に乗るなんていいんじゃないか?こんなに良く晴れた空をすいすいと散歩するんだよ」

「それは素敵ね!素晴らしいわ」

 ポコはよく晴れた空と鮮やかな色をした気球を想像し目を輝かせました。

「でもグリ、気球に乗れるところなんて知っているの?」

「知らないよ。それに気球が飛んでいるところなんて見たこともない」

 ポコはとてもがっかりして言いました。

「じゃあ気球になんて乗れないじゃない」

「まあこれは例えさ。気球に乗るようなそんな素晴らしいことがどこかにあるんじゃないかと僕は思うんだよ」

「そう。じゃあそれが何かわかったら教えてよ。私はとりあえずお友達と映画に行くわ」

 そう言うとポコもさっさと出かけて行ってしまいました。グリはいよいよ自分の態度を後悔しました。

――ああ映画も良かったかもしれないな。暗いところで映画を見てそのあとよく晴れた公園でその余韻に浸るのもいい気分だったのかも。

 グリはいよいよ何もすることが無くなって途方にくれました。そしてふと思い出したように小さなホムを見ますと、ホムは小さなリュックを背負ってどこかに出かけようとしているところでした。

 ホムはリュックの脇に小さな水筒をぶら下げ、頭には探検家が被るような帽子を被っていました。

――おや、こいつは何か生意気な格好をしているぞ。どうやら冒険家気取りらしい。でもこんな小さな奴にこれから何をするのか聞くのは癪だな。えい、もうどうでもいいや。

 結局グリはホムには何をするのか聞かず、知らんぷりしているとホムはさもうきうきとした様子でさっさと出て行ってしまいました。

 仕方なくグリは父親からもらった望遠鏡を持って、町を見下ろせる高台の公園に行くことにしました。

――そういえば父さんは言ってたっけ。悩んだら空を見あげろって。大きなことを考えるんだって。

 高台の公園に着きますと、今日に限ってそこには誰もおりませんでした。グリは望遠鏡を空に向けましたが、夜じゃないので星は一つも見えず、もちろん気球も見えませんでした。グリが望遠鏡を気まぐれに下に向けますと、町を歩く楽しそうな人々が見えました。

 グリはもう望遠鏡をのぞく気もせずに、公園のベンチにただぼんやりと座り込みました。

――僕はいつもこうだ。気ばかり焦って何もしない。レンと釣りに行けばよかったし、何なら映画だってよかった。

そこまで考えてからグリは首を振り独り言を言いました。

「いや、違う。僕のせいじゃない。みんなのせいで僕の日曜日は台無しだ。誰も僕の言うことなんて理解してはくれないんだから」

 グリは寂しさを紛らわせようとぴゅーぴゅーと口笛を吹いていますと、そこへ小さなホムが通りかかりました。

「やあグリさん。一つ私に望遠鏡を覗かせてくださいな」

 その物言いがいかにも生意気だったのでグリは癪に障りましたが、自分が何か言うとみんなどこかへ行ってしまうので、グリは黙ってホムを胸のポケットに入れてやりました。するとホムはそこから顔を出して望遠鏡を覗き込み、町のあちこちを眺めながらグリに指図しました。

「ああグリさん、もう少し右を見たいです」「こんどは左ですね」「おっとちょと行き過ぎた」

グリはそのたびに望遠鏡を少しずつ動かしてやりましたが、ホムが何を見ているのかはちっともわかりませんでした。やがてホムは言いました。

「グリさんありがとう。下ろしてください、私は行きます」

 グリが地面に下ろしてやりますと、ホムはふんふんと機嫌よく鼻歌を歌いながら歩き始めました。せっかくの日曜日に一人でいるのがうんざりしていたグリは、とうとう我慢できずに聞きました。

「ねえホム、行くってどこへさ」

「河原に行きます」グリはおどろいて聞き返しました。

「河原って君の足じゃとても遠いよ」

「ええ、でも今日はそのために出てきたんです」

 グリは河原と聞いて何かとても楽しいことが起こりそうな予感がしました。そして迷った挙句言いました。

「ねえホム、河原には僕の足で行けばすぐさ。連れて行ってやろうか?」

それを聞いてホムは嬉しそうに目を輝かせました。

「わあいいんですか?ありがとう!本当に嬉しいです」

 素直にお礼を言われてグリは悪い気はしませんでした。グリはホムをまた胸のポケットに入れて望遠鏡を肩にかつぎますと、どしどしと大股で河原へと向かいました。

 河原に着きますとホムは鼻を鳴らしながらあたりを歩き始めました。そして河原に落ちている小さな石を太陽に透かしたり、耳に当てたり川でじゃぶじゃぶ洗ったりし始めました。グリはしばらく黙ってその様子を見ていましたが、たまりかねて聞きました。

「ねえホム、君はさっきから何をしているんだい?」

「石を拾っているんです」「それはわかるさ。でもなんのために?」

 ホムは砂埃で汚れた体をぶるっと震わせてから答えました。

「私は学校なんて行ったことがないんですけど、落ちぶれた学者のネズミが言っておりました。星空には見える星だけじゃなく見えない星が沢山あるんだと。光るのをやめてしまった星や、最初から光らない星もあるそうです。私はね、そう言った星が河原に落ちてきて石になるんだと思うんですよ。だからこれは星を拾っているようなものです」

グリは星が好きだったので、ホムのその言い回しがなんとなく気に入りました。

「なんでそう思うのさ」

「だってどんな石でも磨くと少し光るんですよ。お日様に透かしても光ります。これを見てください」ホムはリュックから大事そうに小さな石を一つ取り出した。それは小さな翡翠色の石で、その小さな石の中に赤や橙や黄色のガスがかかっているようでとてもきれいに見えました。そしてなんだかとても羨ましくなりました。

「ふうん。そんなら僕も一つ探してみようかな」

 グリが河原を歩きながら一つ一つ石を拾い上げていますと、具合のよさそうな石を一つ見つけました。

「ねえホム、これをごらんよ。なんだか本当に星が落ちてきたような石だよ」

 それはとても丸くてきれいな形をした白い石灰岩で、煙のような赤い筋がいくつも入っていました。空にかかげてみますとなんだか若干光っているようにも見えます。

「ああいいですね!きっとその石は星の石ですよ」ホムが小さな手を叩きながらあんまり嬉しそうに言うので、グリもつい嬉しくなりました。そして自分が拾ったその綺麗な石と同じくらい綺麗な石を探して河原じゅうを歩きまわりました。

 二人はお気に入りの石をちょうど五つずつ見つけ、それを早く磨きたくて急いで家に帰りました。そして二人は拾った石を綺麗に水道の水で洗い、古い布と金属の食器を磨く研磨剤を持ってきて二人でごしごしとやりだした。夢中になってそうやっているともういつの間にか夕方になっていて、昼ご飯も食べていません。それでも二人は五つの石を磨き終わるまでやめませんでした。そしてようやく磨き終わるとホムが言いました。

「ああ今日はなんてすばらしい日曜日なんだろう。宝物が五つもできた」

「うん、僕も今日はなんだか夢中になった。でもこの星の石をどこに置こう。家の中に置くとポコが嫌がるだろうし」

 そう言いながらグリは空を見あげました。ホムもまた同じように空を見あげました。もう日は暮れて星が瞬き始めています。二人はお互いを見合って、そして笑いました。

 二人が庭先で温めた牛乳を飲んでいますと、ポコがようやく帰ってきました。そして二人がなんだか薄汚れてひどい恰好をしているのに気づき、飽きれたように言いました。

「せっかくの特別なよく晴れた日曜に二人で何をしていたの?」

 グリは首をすくめ皮肉っぽく言いました。

「地面に星を飾ってたんだ」

 ポコは訳が分からないというふうに首を傾げました。それを見てホムはグリにウインクをして見せました。


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