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俺が白月蒼子を嫌う理由  作者: kuroro
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「……うん、そうだね。ほんと、合宿を開いて良かった。……だって、こんなにも綺麗な景色をみんなで見ることができたんだもん」


そう言う葉原の声には、伝えきれない沢山の強い想いが弾けるほどに詰まっていた。


すると、しばらくの沈黙を挟んで再び白月が口を開いた。



「——ねぇ、皇くん。葉原さん」


俺は白月の声に耳を傾ける。葉原も同じように反応して、白月の方に目を向ける。



「……この部に入部してくれてありがとう。合宿に参加してくれてありがとう。……良い思い出を沢山作ってくれて、ありがとう——」


突然の感謝の言葉に、俺と葉原は思わず目を合わせる。急にどうしたものかと思って再び白月に目を向けると、白月は続けて言った。



「私ね、すごく性格が悪いのよ」


一体何を言いだすかと思えば、そんな分かりきったことを今さら……。俺は一度嘆息して言葉を返す。



「知ってる」


「人と付き合っていくのも、すごく苦手なの」


「それも知ってる」


全く、突然何なんだ。葉原も困惑の表情を浮かべてしまっている。あまりの感動で、頭のネジが緩んでしまったんじゃなかろうか。


そんなことを考えていると、白月が鋭く冷ややかな双眸をギロリとこちらに向けてきた。



「いちいち話に入ってこないでもらえる?黙って聞いてなさい」


「…………」


先程までのムードはどこへ消えたのやら。

白月はいつも通りの冷たく尖った雰囲気を取り戻すと、突き刺すようにそう呟く。


そして俺が沈黙したのを確認すると、小さく息を吐いてから話を続けた。



「私はね、あなたたちのような『凡人』を心の底から羨ましいと思うわ。決して見下しているというわけじゃなくて、本当にそう思うの。……私にとって、あなたたちの生き方は“星”そのものだから」


「星……? つまり、どういうこと?」


葉原が首を傾げて尋ねる。

それに対し白月はブルーシートから腰上げて立ち上がると、柵の方に向かって歩き出し、欄干にそっと手を乗せて校庭を見下ろすように俯きながらそれに答えた。



「目には見えるけれど、決して掴むことは出来ず、手元に引き寄せることも出来ない。私に出来るのはただ遠くから眺めて、想いを馳せることだけ。……私はそんな『普通』が羨ましい。友達を沢山作って、色々なところへ出掛けて、思い出を共有して、笑顔で語り合う。……そんな『普通』の高校生が送る『普通』の生活が、私には出来ない。だって私は『天才』だから。……今までずっとそう思って生きてきた」


そう言って白月は、俯かせていた顔を上げて再び星空に目を向けると、くるりと体をこちらに向けて言葉を続けた。



「けれど私は今、そんな『普通』の学園生活を……“青春”を送れている。私にとって、この瞬間は奇跡のようなものなのよ。これも全て2人のおかげ。……だから、お礼を言わせてちょうだい。——ありがとう、皇くん。葉原さん」


そう言って淡い星明かりに照らされて見える白月の表情は、どこにでもいる『普通』の高校生のものだった。


そこには『天才』だとか、『特別』だとか言ったものは一切なく、ただ純粋に、1人の少女の可愛らしい笑顔だけが確かに存在していた。


俺も葉原も、そんな白月に何と返せばいいのか分からずに困惑し、結局照れ笑いを浮かべるのが関の山だった。


そうして、ひとしきり笑いあったところで俺はポツリと呟く。



「まぁ……なんだ、そんな難しいこと考えなくてもいいんじゃねぇの? 今日はせっかく流星群が見えるんだ。そういう面倒くさいことは全部、流れ星様に何とかしてもらおうぜ」


すると、冗談半分で言ったその言葉に対し、葉原が「あっ」と声を上げた。



「そうだよ、忘れてた! せっかくだから願い事しておかないとね! ほらほら、2人とも早く!」


葉原はそう言って額の前で手を合わせると、目を瞑ってウンウンと唸り出した。



「葉原……それ神社行った時の作法だぞ」


念仏でも唱えているかのような葉原にそう声をかけると、


「晴人くんは細かいなぁ。願い事さえ唱えられればそれでいいんだよぉ」


と、興醒めしたような目で睨まれた。



「葉原さんはともかく、皇くんまでそんな迷信を信じているなんて、正直以外ね。……でも、確かにそういう面倒なことは願い事として叶えてもらった方がいいかもしれないわね」


クスクスと微笑を続ける白月は、そう言って俺の目をジッと見つめてくる。すると、だんだん自分がものすごく子供っぽいことをしているような気がしてきて、思わず目を逸らしてしまった。俺は明後日の方向を向いた状態で白月に言葉を返す。



「あぁ、やっとけやっとけ。こういうのは本人がどう捉えるかの問題なんだからな」


「ふふっ、それもそうね」



そうして俺たちは夜空を駆けていく流星に向かってそれぞれの願いを唱えた。本当に叶うかどうかは定かではないけれど、今は、星の持つ神秘的な力を信じてみたいとそう思った。


***


それから流星群が見えなくなるまでの間、俺たちは静かに夜空を眺め続けた。この合宿での出来事を、音として、匂いとして、色として、記憶に深く深く刻み込むために……。


こうして、俺たち天文部の夏合宿最後の天体観測は静かに幕を下ろしたのだった。


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