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財布を持って部室を後にした俺たちは、学校近くのコンビニに立ち寄り今晩の夕食を購入した。
合宿の夕食というと、自分たちで何か作って食べるものかとばかり思っていたため、「コンビニで手早く済ませよう」という白月の提案を聞いて少しばかりテンションが下がってしまった。
しかしまぁ、何かを作ると言っても米すら炊かれていないのでは仕方がない。合宿所の食堂に米はあると話は聞いているため、明日はしっかりと準備しておこう。
そんなことを考えつつ、カップ麺とおにぎりを数個購入し、1時間もせずに部室へと帰ってきた俺たちは、現在こうして各自席に着き、簡単な夕食を済ませている最中というわけだ。
俺は胃を刺激する醤油ラーメンの香ばしい匂いを嗅ぎながら、2つに割った割り箸をスープの中に突っ込むと、細く縮れた麺を摘んで少し冷まし、勢いよく麺を啜る。
口の中で旨味が弾けているのがよく分かる。
たった数百円でこれだけのものを食べられるなんて、この国の食品加工技術は全くもって素晴らしい。
と、そんなことを考えながら麺を口に運んでいると、正面に座る白月が箸で摘んだ麺に優しく息を吹きかけているのが見えた。
長く垂れ下がった髪を汚さないように耳にかけ、艶やかな唇を動かし静かに息を吹きかけるその姿はまるで、高級食材でも口にしているかのように思えるほどに上品で、それでいて、なんだか少し官能的にも見えてしまった。
おいおい、俺は一体何を考えているんだ。
俺はほんの一瞬だけ浮かび上がった感情を頭を振って払い落とすと、そのまま隣に座る葉原にちらりと目を向けた。
すると葉原は既にカップ麺を食べ終え、一緒に買ってきたおにぎりを小さな口で頬張っているところだった。
「流石に食うの早いな……」
「んー、そーかな? 普通じゃない?」
いや、普通ではない。
そう言いたくなるのをグッと堪えて、俺は残っているカップ麺を口に運ぶ。
すると、それまで無言でカップ麺を口にしていた白月がホッと一息ついて口を開いた。
「久し振りに食べたけれど、本当に美味しいわね、これ。お湯を入れて待つだけで食べられるなんて、葉原さんが毎日食べたくなるっていうのもなんだかよく分かる気がするわ」
「でっしょぉ〜! カップ麺は庶民の味方であり、若者の味方だからね!」
「私も今度、家で食べてみようかしら」
「うんうん! 是非是非!」
カップ麺を食べるだけでそこまで盛り上がれるのも凄いな、などと思いながら2人に注意を促す。
「そればっかり食ってると、そのうち体壊すからな。しっかり栄養考えて食えよ」
「なんか今の晴人くん、お母さんっぽーい」
「皇くんは何だかんだ言って、人の世話をするのが好きだものね。将来、主夫にでもなったら?」
2人はそんな俺の忠告をニヤニヤと笑みを浮かべて聞き流し、再び夕食を口に運ぶ。
「親切心で言ってやってるのをいちいち揶揄うんじゃねぇよ。……太っても知らねぇからな」
俺はボソッとそう呟くと、残った麺を勢いよく啜り、スープを胃の中へと流し込んだ。




