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どうやら同姓同名という線は消えたらしい。
「お前こそ、何でいるんだよ」
思わぬ遭遇に動揺しつつ聞き返す。
「私? 私はもちろん自分の作品を見に来たのだけれど。それより、皇くんがこんなところにいることの方が驚きよ。あなた、絵に興味があったの?」
「いや、別に……。入場無料だったんで、たまたま入って見て回ってたらこの絵が飾ってあって、お前に声をかけられて……」
俺はここに至るまでの経緯をそのまま白月に伝える。すると白月は、納得したのかしてないのか、「ふーん」と曖昧に返事を返して俺の隣に移動して来た。
「これ、私が描いたの」
そう言って白月は、目の前に飾られてある作品に目を向ける。
「知ってる」
そう、ぶっきら棒に言葉を返すと、少しの沈黙を挟んで白月の口が再び開いた。
「……どう思った?」
「は?」
「この絵を見て、皇くんはどう思ったかって聞いてるの」
白月はその絵から目を離さずに問いかける。
「俺は……」
そう言って、俺も再びその絵に目を向ける。
それからしばらく考えて、俺自身がその絵を見て思ったことをそのまま口にした。
「すげぇと思った。……何が凄いのかって聞かれると答えに困るけど、それでもこの絵が他の絵とは明らかに違うってのは俺にもわかる。これを描いたのが白月だってことに、今も少し驚いてる」
ここで変にプライドを持ち出して、作品を貶すようなことはしてはいけないことだと思った。だから、思ったことを正直に口にする。
それを聞いた白月は、少し虚を衝かれたような顔をしてこちらを向くと、ゆっくりと瞼を閉じて静かに笑った。
「驚いた。まさか、そんなことを言われるとは思っていなかったわ。てっきり、『下手くそな絵だな』とでも言われるかと思ってた」
「描いた本人に問題はあっても、この絵には何も問題はねぇだろ。ここで嘘の評価をするのは、この絵に対して失礼だ」
「絵に優しいのね。皇くんは」
「絵は暴言吐かないからな」
そう言って、俺はこの絵が持つ意味について再度考える。
作品内容の欄には『これが私のいる世界です』とだけ書かれている。これだけでは、この絵の持つ本当の意味を理解することは困難だ。隣で自分の描いた作品を見つめている作者本人に尋ねれば、答えはすぐに返ってくるのだろうが、それはなんだかズルをしている気がするため出来ない。
正解か不正解かはともかく、自分で何かを読み取ろうとすることがきっと大切なのだ。
そうして、じっと作品を観察し意味を汲み取ろうとしているところに、白月が「ねぇ」と声をかけて来た。
「……なんだよ」
「ちょっと、座って話さない?」
俺はそう言う白月と彼女の描いた作品を少しの間交互に見比べると、短く息を吐き出してエントランス付近のベンチに向かって移動した。




