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俺が白月蒼子を嫌う理由  作者: kuroro
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5月6日 日曜日。ゴールデンウィーク最終日。



最終日の今日を合わせて4連休。一日中机に向かって勉強するにはいい機会。


そんなことを考えていたのはクラスの中でも恐らく俺くらいだろう。


ゴールデンウィークに入る前日の教室は、それはもう軽くお祭り騒ぎで友人たちとどこかへ遠出する計画を練ったり、近場をブラブラと散策する予定を立てたりと、忙しない様子が窺えた。


俺も誠と輝彦に「映画でも観に行かないか」と誘われはしたが、渋々断ることにした。


付き合いの悪いやつだと、多少は思われたかもしれないが、こういったことは別にこれが初めてというわけでもなかったし、きっと2人なら理解してくれるだろう。



秀才である俺は、少しでも努力を怠ればまたあの頃と同じただの凡人に戻ってしまう。


白月に本当の意味での凡人だと、蔑まれることが怖くて、惨めで、悔しくて……


だから、少しでも時間があれば勉強に取り組むようにしている。


6年前からずっと続けている俺の日課だった。



けれど、ゴールデンウィークに入る前日の放課後、誠と輝彦と別れて家に帰ろうとしていた時のこと。またあいつがやってきた。



「あら、奇遇ね。こんなところで会うのも何かの縁だし、特別に一緒に帰ってあげようかしら」


「冗談も程々にしろ。待ち伏せとか、明らかに確信犯じゃねぇか」


「細かいことを気にすると禿げるわよ」



人の気配がない少し淋しげで閑散とした細道に、ずっと誰かを待っていたかのように静かに佇んでいた白月は俺が通るや否や、エベレストの山頂から見下ろしているかのような上から目線で声をかけてきた。


俺は一度静かに嘆息してから尋ねる。



「で、何の用だ?」


「用がないと話しかけちゃいけないなんて、随分と偉くなったものね」


「用がないならさっさとそこ退いてくれねぇか?早く帰って明日からの連休に向けてのスケジュール組まないといけないんだが」


「スケジュール?連休中、何か予定でもあるの?」


「いや、普通に勉強するだけだけど」


すると白月は、まるで家畜の豚でも見るかのような冷ややかな目をして俺を嘲笑した。


「ハッ、さすが凡人ね。せっかくの休日も勉強に時間を取らないといけないなんて。まぁ、あなたがいくら勉強に時間を割いたところで、私よりも点数が高くなることなんてないでしょうけど」



これが単なる挑発であることなんて、とっくに分かりきっている。


けれど、俺の根源にある『天才』に対する嫌悪感や憤りが、白月の言葉に反応してつい口から零れてしまう。



「あー、はいはい。才能に物言わせてるような天才様には、凡人の考えなんてわからないでしょうね!……ったく、本当に何も用ないなら帰るからな」


少し落ち着きを取り戻したところで、俺は前に立つ白月の横を通って細道を抜ける。


「—— 待って」


背後で白月が呼び止める。


俺は一度足を止め、後ろを振り返って尋ねる。


「なんだよ」


それから数秒の沈黙が続いた。


耳元を風が吹き抜ける音だけが聴こえる。



「日曜日……」


「え?」


「日曜日、街へ出掛けましょう」


「……は?えっ、なんで?」


「あなたと何処かへ出かけるのに理由なんて必要ないでしょ」


「いや、あるだろ」


支離滅裂で意味不明な発言を繰り出す白月に困惑しながら言葉を返す。


「いいから日曜日、私に付き合いなさい。8時に駅前に集合。少しでも遅刻したり、約束を放棄して来ないなんてことがあれば、あなたの噂を有る事無い事周りに言いふらすから。それじゃ」


「あっ、おい——」


そう言って白月は、俺の返事も聞くこともなくスタスタと俺とは反対方向へ向かって歩いていった。


もう脅しだろ、これ……




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