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「だから、昨日皇くんを出かけるのに誘ったのは、あくまで私の精神的負担を軽くするため。これで納得した?」
「…………」
正直、そう聞かれるとはっきり「納得した」とは言えない。
かといって、白月にもっと納得のいく説明を求めても、俺が納得できるような答えが返ってくることは恐らくないだろう。
だからそもそもの原因——、根本的な部分の改善策を提示してみることにした。
「なぁ」
「なに? まだ何か尋ねたいことでもあるの?」
「……お前さ、ほんと、何で親のいいなりになってんだよ。辞めたいなら『辞めたい』って言えばいいじゃねぇか」
「は? 何言ってるの? 辞めるって何を?」
白月はそう言って首を傾げる。
そんな白月を見て、俺は胸のあたりがスーッと冷たくなるのを感じた。気分が悪い。イライラする。
本当は、俺が何を言おうとしているのか分かっているのに、わざと知らないフリをしている。
そんな白月に腹が立った。
白月が知らないフリを貫き通そうとするなら、俺の口からはっきりと言ってやろう。
そう決めた俺は、勢いよく席を立って白月の目をしっかりと見据えると、吸った息をすべて吐き出すようにして、言うべき言葉を白月にぶつけた。
「全部だよ、全部。今までやってきたこと全部! 勉強も、ピアノも絵画もスポーツも! 好きでもないことをいつまでもウジウジ言ってやってんじゃねぇよ。お前がそんなんじゃ、本当にそれを愛して、努力して、勝とうとしてる奴があまりにも惨めすぎる。悲劇のヒロインぶる暇があるんなら、つまんねぇ天才ごっこなんて今すぐにでも辞めちまえ!」
胸のあたりを漂っていた重くて冷たいものが、言葉として一気に口から溢れ出した。
この6年間、ずっと思っていたことを吐き出すことができた。
俺が『天才』を——、白月蒼子を嫌う理由。
それが今まさに、俺の口から勢いよく飛び出し、真っ直ぐ白月へと向かって行った。




