31
「いいえ。本当のことを言ってもらえて安心したわ」
「そうか。喜んでもらえたようで何よりだ」
感情のこもっていない声で、適当に言葉を返しておく。
白月は呼吸を整えるために一度深呼吸を挟むと、何かに対して覚悟を決めたような真剣な表情をして再び話を続けた。
「私はね、皇くん。教師も、生徒も、世間も、両親も……天才である『白月蒼子』のことしか見ていない中で、唯一私のことを『1人の人間』として見てくれたあなたに救われたのよ」
「救われたって……大袈裟だろ」
事実、俺はこいつを何かから助けてやろうなんて思ったことは一度もなかったし、寧ろ、こいつが失敗するのをいつも心の底から願っていた。
こいつよりも努力しているやつは他にも沢山いる。けれど、凡人がいくら努力に時間を費やしたところで、あいつらが持つ才能に打ち勝つことは出来ないのだと俺は知っていた。
俺はこいつのお陰で、わずか11歳にして世界の理不尽さを理解することができたのだ。
そんな俺は、周りの奴らが「すごいすごい」と白月を持て囃すのをいつも馬鹿馬鹿しいと思って見ていたし、俺だけは絶対にこいつを称賛したりはしないと心に決めていた。
けれど白月はそんな俺に救われたと言ったのだ。嫌味かとも思ったが、白月の瞳を見て、こいつは本当にそう思っているのだと理解した。
「あなたと一緒にいる時だけは、天才としての『白月蒼子』を忘れることが出来た。だからあの日から6年間、出来る限りでいいから皇くんの近くにいようと、そう思うようになったの」
「……お前、やっぱり俺のこと好きだろ」
「せっかくいい話をしているんだから、気持ち悪い勘違いはやめてくれない? うっかり殺してしまいそうになるわ」
これが仮に照れ隠しだとするなら、こいつは照れ隠しが下手すぎる。もう二度と照れるな。
そんなことを考えているうちに、白月は勝手に話を締めに入った。




