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「でもまぁ、部室を独り占めできるってのはなかなかいいことなんじゃねぇの?」
必要かどうかはさておき、とりあえずは励ましの言葉を掛けておく。
「そうね。元々、誰かと一緒に活動したくて入部したわけではないし」
そう言って白月は窓際に移動し、閉まっていたカーテンを静かに開けた。
外ではまだ雨が降り続いている。
「そんなことより、何か話があって俺をここに連れて来たんだろ?」
俺は話を軌道を修正して白月に尋ねる。
天文部の話に夢中で、危うく本来の目的を忘れるところだった。
「そうだったわね。皇くんとこんなくだらない話をしている場合じゃなかったわ」
白月はそう言うと、長い黒髪を揺らしながらこちらを振り向き、雨の滴る窓に背を向けた。
「まずは、そうね……一応、謝っておかなければいけないかしらね」
それから3秒ほど間を空けて、白月は「ごめんなさい」と俺に向かって頭を下げた。
「急に謝られても困る」
「私が皇くんみたいな凡人に頭を下げることなんて、もう一生ない事なのよ? ありがたく受け取っておきなさい」
「なんで謝罪する側のやつから上から目線で言われないといけないのか、甚だ疑問だな」
こいつの俺に対する徹底した態度には感心すら覚える。よくもまぁ、いつもそんな強気でいられるもんだ。
しかし、それはともかく俺が本当に聞きたいのはそんな言葉ではない。
俺は勿体ぶるのが嫌いだ。
だから、こっちから単刀直入に尋ねてみることにした。
「と言うか、謝罪とかはどうでもいいんだよ。それよりも聞きたいのは、なんで休日に出掛けたくらいで、お前の父親はあんなにもお前を叱りつけたのかって事だ。親が元々厳しいとかいうレベルじゃねぇだろ、あれは」
そう口に出した事で、昨夜の出来事が鮮明にフラッシュバックした。
まるで何かに取り憑かれたかのように怒鳴り散らす白月の父親。
感情に任せて、自分の娘を思い切り引っ叩く父親の姿。
そして、その光景を目の当たりにし、呆然と立ち竦む俺に対して、敵意や苛立ちといった類の眼差しを向け、才能がどうこうと意味のわからない話を述べてきた白月の父親の姿。
白月も同様に昨夜の出来事を思い出したようで、ほんの一瞬だけ顔に雲がかかったのが見えた。
それから白月は数秒の間、口を閉ざして再び窓の方を振り返ると、未だ止むことのない雨を眺めながら自分とその両親について、静かにゆっくりと話し始めた。




