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「どっちどっち? 男子? 女子?」
「男子男子」
「んだよ、男子かよぉ……。はい、解散解散」
「えっ、なんかめっちゃかっこよくない?」
「やばいやばい!」
「えっ、えっ、彼女いるの? てか、名前は?」
教室から一歩外へ出ると、1組前に群がる生徒たちからちらほらと転校生の情報が耳に入ってきた。どうやら転校生は男子生徒らしく、男子と女子で感想に大きな差があるのが何となく面白い。
話を聞きつけたのか、教室前には全てのクラスから見物客が押し寄せ、完全に周りの迷惑になっている。
転校生が男子と聞いて一気に興味をなくしていた輝彦も顔だけは確認しておきたいと、精一杯背伸びをして教室内を覗き込もうと躍起になっている。
しばらくして、転校生の正体を確認し終えた生徒たちがそれぞれのクラスへと戻っていき、ようやく俺たちもその姿を目を収めることができた。
「輝彦、見える?」
「んー…………あっ。もしかして、あいつか?」
「どれどれ?」
「ほら、あの一番奥の席の奴」
誠の問いに対し、輝彦がそう言って指を差す。
俺と誠は、輝彦が指差す方向に向かってゆっくりと目を動かし、大勢のクラスメイトに囲まれて談笑する転校生の姿を瞳に写した。
と、その瞬間、俺は思わず息を呑み込んだ。
「……ッ!」
心臓がバクバクと煩いほどに脈を打つ。
全身の毛はぞわりと逆立ち、筋肉は凍結したかのように硬直した。
「…………晴人?」
誠の呼びかけにすら反応できないほど俺は動揺し、2つの眼球は彼を捉えて離さなかった。……いや、離せなかった。
何故ならその転校生は、俺が一度とある場所で見かけた人物その人だったから。
そんな彼の横顔を目にしたことで、俺の中に眠る “あの日” の記憶が蘇った。
——そう。
あの日、白月と偶然遭遇した美術展で俺は、彼に出逢った。