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逃亡劇

「あ、そうだ日用品を切らしてたんだった。マーケットに寄るから、私はここで。」


個人宅のグローリアは、そういう面にも気を使うのだろう。

別の方に彼女は歩いて行った。


「...今日の晩御飯当番誰だっけ。」


「確かシルヴィアさんです。シャワー室の清掃当番が咲さんです。」


いらんことをこいつは思い出させる。

日番は回ってきたことなどすっかり忘れていた。


「糸引いてる裏切り者って誰だと思う?」


別行動をしていたリンネだ、彼女も別の情報を拾っているかもしれない。


「うーん、それなりに地位がある者かと。ペルメテリアの実情を把握していなければ、要点を敵対派に伝えられませんし。」


地位がある人物と聞いて、咲の頭の中にはディーナが浮かんだ。

良くない兆候だ。


彼女への疑心が、決定打も無しに高まってしまっている。


「課をまわってみて...この人そうかも、って奴は居ない?」


「あ、そういえば。」


彼女に聞いてみて正解だったようだ。


「黒い服装の男の人が裏路地で怒鳴ってました。なんか、裏切り者って言うのとは別の感じがしたんですけど。」


「何よそれ...って、男? 顔でもみたの?」


黒い服装...それがジャージを指すのであれば、咲が先日見かけた者と一致する。


「顔はみてないですけど、雰囲気って言うか何て言うか...あれ?私なんで男性だと思ったんでしょうか。」


シルエットだけを見たとき、咲は無意識にディーナの輪郭を浮かべていた。

雰囲気だけは確かに柔らかい少女だ、リンネの見た者とは別の存在なのだろうか。


「でも、そんだけ怪しい格好してたらさ、逆に疑えないわよね。」


「外見で印象に残してしまうにであれば、敵対派に情報を流すなんて事は容易じゃないですもんね。」


自分をそれらしく見せぬように周りと同じにするだろう。

それはそれで、あのジャージへの奇怪性は増していく。


一体なんのためにあのような格好で居るのだろうか。

そんな事を考えている内に社員寮に着いた。





ジャー...キュッ


「炭鉱勤務の時は当番なんて回って来なかったのにー!」


一通り流し終えて、濡れた服で咲はシャワー室を出た。


「リースの申し出で月宮も当番は免除してたんだ。でも、異動しちまったんだもんなあ。」


「あら、お帰りチヒロ。」


あまりにデカイ独り言だった為か丁度帰宅したチヒロ全て聞かれていた。


恥ずかしいことこの上ないが、咲は一切その様子を見せない。


「リンネも戻ってるか?」


「ああ、シルヴィアから料理でも教えてもらってんじゃないの? あいつ絶望的に飯が不味いから。」


「そんなに酷いのか。月宮しか試作品を食べた事がないから分かんないな。」


「今日の夕食も私だけリンネお手製かしらね。たまにはシルヴィアのご飯が食べたいわ。」


それを聞いたチヒロは愉快そうに笑うと、頼んでおくよ、と言って共同スペースの方に向かった。


咲は一度自室に戻り濡れた服から着替える。

サイズが一回り大きい...リンネのかもしれない。


「リンネ、これ前言ってた書類。炭鉱周りの調査報告書だ。」


「ありがとうございます。...これ、持ってきて良かったんですか?」


なるほど、リンネへの用事はあの炭鉱の一件に関するものだったのか。

何気なくソファに座ると本を一冊手に取った。


「ハハハ、持ち出したのがバレたらちょっと厄介なだけさ。リンネは気にしなくて良い。」


警備課でも裏切り者への疑惑があるのだろう。

もしや、そこにディーナの名前も上がって居るのだろうか?


書類を渡すだけ渡すと、チヒロは踵を返して玄関の方に向かった。


「あ、チヒロ!!今日の夕食は残して置いた方が良いか?それとも、何か軽食を持ってく?」


エプロン姿のシルヴィアが駆け寄った。

母親の様な雰囲気を感じる。


「あー...そうだな、軽食の方にするよ。」


待ってて、とシルヴィアは言ってキッチンに戻った。

箱から小包を持ち出して玄関の方に向かう。


「警備課だから大変なのはわかるけど、あまり無理をしないようにな。毎日遅くまで御苦労様。」


報告書をリンネに渡すためだけに戻ってきたのだろう。

入社式まで一週間、総合警備は詰めの段階にあるのかもしれない。


小さくガチャン、という音が響くとシルヴィアだけが一人で戻ってきた。


「絶対そっちの性格出した方が良いと思うわ。」


「なんだい月宮? 私のツンデレが合ってないとでも言うのかい?」


「そこまで言って無いわ。」


「ところで、ディーナがいつ戻るとか分かる?」


言葉ではない声を漏らし、シルヴィアは思案する。

しばらくして答えが帰ってきた。


「遅い、とだけしか分からない。なにぶんディーナはつかみ所が無い性格でな、私は把握しきれて無いんだ。」


ディーナに話を聞くにはよ夜更かしして待つ必要がありそうだ。


「言伝てがあるなら聞いておこうか?」


「大丈夫ですか直接話した方が良い用事だから。」


「ふっ、なにやら深刻そうな顔をしていたのでな。」


顔に出ていたのだろうか。

それとも、シルヴィアもまた飯が下手くそなエルフ同様に洞察が優れているのか。


「まあ...その、なんだ。リースが言う様にディーナは確かに秘密が多いし、年上っぽい雰囲気を出してるけどな。」


「その実、以外と天然だったりする。」


何が言いたいのだろうか。


「きっとリースが思ってるような事はしてないよ。」


「でも、悩んでたりしたら私が聞くって言っておいてくれ。」


「シルヴィアさーん!これ次どう切れば良いんですか!?あ!爆発した!」


優しそうに笑うとシルヴィアはリンネの方に戻っていった。

咲の服装を見たことでリンネが何か喚いていたが、咲は書物に目を戻した。


と、同時に再び玄関の扉が開く。

ディーナか、という淡い期待はすぐに崩れ小さなシルエットが写った。


「もー!シルヴィアが帰っちゃうから一人で買い出し行ってきたよ!」


「お、ありがとう。リンネから料理の教えを受けていたのを忘れてたんだ。」


「はあ...暗いし、重いし、怖いし...買い出しは今度誰かと行こ。」


窓辺を見ると夜の風景が広がっていた。

リースの持ってきた荷物を見るに、確かにあの体型にこの量は重かっただろう。


「夜が怖いなんて案外可愛いところあるじゃない。」


「違うよ! マーケットから帰る途中にさ、なんか裏路地で怒鳴ってる奴が居て。」


「暗いからうっすらとしか見えなかったけど、そいつ一人で壁に向かって怒鳴ってたんだよ。」


「ペルメテリアにあんな狂った奴がいるなんて思いもしなくて、久々に怖い思いした」


「それ、今さっきの出来事!?」


僅かだがリンネの情報と一致する。

おそらく服装は暗め、怒鳴ってる奴。


「え、何?突然...ついさっきの事だけど。」


体が走り出していた。

リンネの服を借りて良かったかもしれない、体が軽くて動きやすい。





「はあ...はあ...マーケットは...のどこだったか...聞いてない...。」


全速力で走ったので息も絶え絶えであった。

人気の無い市場には、怒鳴っている奴など確認できない。


「裏路地...はあ...だったわよね。ふう~...とりあえず動こう。」


何も考えずに飛び出してしまった事を後悔した。

リンネを強引に連れてくれば良かったかもしれない。


とにかく適当にそこらを歩く。

人も居ないので聞くことも叶わない。


「はあ...はあ...もう居ないのかな...。」


次の機会に期待をかけようとしたとき、微かだが妙な音が聞こえた。

真っ直ぐ行ってすぐ左の角を曲がった先から聞こえる。


そろりそろりとなるべく音を出さぬように歩き、音の正体を見いだす。


「黒い服装...あのシルエット...!やっぱり!」


「動くな!!人事課よ!」


叫び声と共に一気に畳み掛ける。

怯んでたじろいでくれると助かるのだが。


「え...?」


だが、物事は上手く運ばない。

角の先は行き止まりではなく通り抜けで、対象は走って行った。


「ああ!?逃がすか!」


裏路地とだけ聞いて行き止まりという先入観があったことが間違いだ。

だが、その間違いを言い訳にあいつを逃がす訳にはいかない。


「以外と早い...でも、私だって転移者なのよ!」


逃亡者は沈黙を貫く。


「なんとか言いなさいよ!この!私の独り言になってるじゃない!!」


くねる路地を右に左に駆けていく。

時折落ちたものを投げて妨害してくるが、何も問題は無い。


一つだけ挙げるとすれば、体力が底を尽きそうな事だ。


裏路地を走り抜け、今度は開けた市場に出る。


「製造...いや、何を作ればいいのかしら。」


酸素が回らず頭が上手く機能しない。

このままでは...逃げ切られてしまう。


「せっまい道ばっか通りやがって...気を緩めたら撒かれちゃう...。」


もはや逃亡者は道すら通っていない。

屋台を屋根を飛んで、縦横無尽に逃げ回る。


「何か...あ、そうだ...そうよ...ここは入り組んだ場所じゃない。」


「製造!」


舞台がマーケットであることが幸いした、材料なら基本的に揃っている。


再び逃亡者は右に...左に...と曲がって逃げ続ける。

このまま逃げればマーケットから外れてしまうだろう。


だが

「でも」


させない

「させないわ!」


逃亡者は不自然に張った縄に気づかず、足を引っ掻けてよろめいて倒れた。


「はあ...はあ...ありったけの...はあ...紐を集めて...ここの出口候補全部に...縄を引っ掻けておいたの。」


自らも倒れそうになりながら、転んで動かない逃亡者に近づく。


「さあ...全部話してもらうわよ!」


「ディーナ!!」


経理課の龍人は諦めたように咲を見つめていた。


「ふんふーん、何を買おうかな~。」


グローリアは二人と別れてから数十分、未だにマーケットで商品を選んでいた。


陳列物を見ていく内に、ほとんどの日用品が同時に切れそうな事に気がついてしまったからだ。


外の屋台で常備のエナジードリンクを見ていると、誰かが猛烈な速度で走っている音が聞こえた。


「元気ね...武道の実践練習でもしているのかしら...。」


巻き込まれる訳には行かない、とグローリアは場所を移す。


すると、入り組んだ路地の方で小さな悲鳴が聞こえた。


「うん...?」


見つめた先には、妖精族の少女が一人と、同じく妖精...亜種のドワーフ複数人がたむろしていた。


その場を離れようとしたが、最近裏切り者の摘発に手を出していたからだろう。


「何をしているのですか!」


いらん正義の心を持ってしまったようだ。


明らかに嫌そうな顔をした少女がほっとけなかった、と自分に言い聞かせる。


「ああ~...俺達はその子とちょっと遊んでただけさ!」


「マーケットの新規開発によ~、ドワーフしか駆り出されないなんておかしいだろ?」


「だから同じく妖精族にお手伝いをお願いしてたんだよ。」


新規開発...その言葉が正しい事を示すように、至る所に工事用具が放置されている。


「だから、龍人のお前はさっさとどっかに行け!」


威嚇するようにドワーフはその巨体から殴打を繰り出す。


だが、その瞬間...工事用具をまとめていた紐が突然消失する。


不安定な状態に陥った工事用具は、幸か不幸か四方八方からドワーフの方に倒れ混み...


グローリアは無傷で、同時にドワーフ全員を鎮圧した。


「え...?...一体、どう言うこと...?」


目の前に降りかかった『幸運』の結果に、グローリアは動く事が出来なかった。


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