取らざるを得ない後手
パシッ
咲は自身に目掛けて飛んできたカップを取ると、竜族原産の飲料物を流し淹れた。
「...で、今回何で呼び出されたかわかってる?」
リースらを後に、訪れたのは製造部の...武器やらを扱う課らしい。
「ペルメテリアを裏切ってるかもしれない奴が居るって話ですよね?」
人事課の少女は少し間を開けて『そうよ。』と返した。
言葉では読み通りの様に振る舞っているが、実際はただの勘だった。
自身には人を見る目が無いことは重々承知しているので、適当に血色が悪くて疲れきった面持ちの社員を呼び出してみたら、正解だった。
幸運が回ってきたのかも、とグローリアの顔を浮かばせつつ咲は平常を装って続けた。
「この課の労務から推察するに敵対派にひっそりと兵器を横流している、違う?」
「その通りです。」
やっと探していた裏切り者を見つけた。
と、思ってからこの行動が誤りなのではないかと思い始めた。
こと兵力横流し担当の裏切り者に対しては、こちらがその行為に気付いていないと思わせる方が正しいかもしれない。
今となっては手遅れなので後に手を考えよう。
「流した兵力の総数は?」
「そこまでは...なんとも。この課の外に出すだけでも大変でしたから。」
こいつ裏切ったくせになんで自分も努力を誇ってんだよ。
「わかった、質問を変える。どんな兵器を流したの? 銃器? 剣?」
「っと、確か報告にあげた時は銃器だけだった筈です。 今でもそれは変わってない事を確認しています。」
うん...? 報告?
「え?あなた敵対派に銃器流して、それを上に報告したの?」
「いや、違いますよ。同僚で怪しい奴が居たんで尾けてみたら見たことない奴らにこの課の兵器を渡してたんで。」
「それを上にあげたんですよ。って言っても、誰が裏切ってるのかわからないんで...ここの課長に挙げた訳じゃないっすけど。」
あり得る事だ。
密告、告発...数十名も裏切り者が居たのだから、良心の揺れるままに行動し、看破していた者が居ても不思議じゃない。
「まさか人事課が対応してるとは思わなかったんすけど、まあ、情報が届いてたんで良かったです。」
咲にとっても良いだ、何せ彼が当の裏切り者ではないのなら偽装物の横流しは問題無く行える。
ただ気になる点があるとすれば
「確認の為に聞くけれど...一体誰に裏切り者情報を届けたの?」
そんな情報は回っていない事だ。
知らないはずの人事課が彼を訪れているということは、情報がどこかで止まってしまっている。
「経理課のディーナさんです。」
またディーナの名前だ。
「経理課って...またなんで? そういうのって警備課が最初に候補に上がるでしょ?」
「ディーナさんは信用出来ますし、社長とも面識があるみたいだったので。」
その信用できる女は...その情報を握り潰している。
「あなた以外にディーナに告発したのはいる?」
「さあ、俺と同じ内容の告発かは知らないっすけど、よく誰かの相談に乗ってるのは見かけますよ。」
それならば、裏切り者に関する情報を複数抱えていてもおかしくない。
ではなぜそれを隠匿したのだろうか?
「ありがとう。それと、重要な事だからもう一度言ってほしいんだけど。」
「この課の裏切り者は誰なの?」
名前を聞いても覚えられなかったので、咲は後に当該人物の顔を確認してその場を後にした。
頭を占めたには同室者の一人であるディーナの事だ。
一体なぜ...ペルメテリア側の者であるはずの彼女に怪しげな噂が耐えないのだろう。
そして、もうひとつ嫌な推測が頭に浮かんでいる。
当初は『裏切り者』への認識について、ペルメテリアに潜入した敵対派によって取り込まれた者、という事で決まっていた。
だが、そこ後に何十人も炙り出して気付いた事がある。
取り込まれた者達が在席する課は、等しくペルメテリアの弱点に近いのだ。
さらに言えば潜入した敵対派の動きの手際が良すぎる気がしたのだ。
つまり
「ペルメテリア内に敵対派を手引きした者が居る。」
「そうですね、あの量を取り込んだ時点で、敵対派になんらかの手を差しのべた者がいることは間違い無いでしょう。」
「そして、その人物はそれなりにペルメテリアで重役に着いている者かと。」
リンネとグローリアも二人も同じ結論に至ったようだ。
本来は終業で誰もいないはずの会議室に、未だ明かりが灯っているのは三人が話しているせいだ。
「ペルメテリア内部地図、ペルメテリア産兵器...ペルメテリア産技、資本、社員の能力、...挙げて行けばキリがない。」
「でも、現状判っている裏切り者が流したペルメテリアの内情は、一切の無駄無く有意義な情報であるわ。」
「誰かが...任意の情報を得られる課を敵対派に流しているとしか思えない。」
「咲の推測通りであれば、敵対派の拠り所はその一人。幾多の裏切り者を捕まえても...そこまで害を与えられている訳ではないのね。」
彼女達に容疑者を提示するべきだろうか。
ディーナが疑わしい、などとまともな根拠も無しに。
せめて彼女に裏切りに手を貸す動機があれば良いかもしれない。
「ところで、敵対派って一体何に敵意を向けてる訳なの?」
「敵対派の実態が掴めていないから、予想程度だけれど。」
「ペルメテリア単体を狙っているに『平和』そのものじゃないかしら。」
「戦争が無いと困る連中なんて探せばいるだろうしね。」
「もしくは...。」
「自国に王が殺された事への復讐とかかしら。」
魔族の事だろう。
そういえば、ペルメテリアで『魔族』という存在を見たことがない。
「ペルメテリアで魔族って働いてるの? 居るなら話を聞いておきたいんだけど。」
グローリアは首を横に振った。
予想はついていたので、肩を落とすことも無い。
「平和の組織なんて呼ばれてるけどね、実際は十種族中の八種族しか雇われて居ないのよ...あ、ごめん、今年で九種族だったわ。」
「...ああ、リンネか。」
「魔族とエルフ族だけは居ないの。今年はリンネが採用されたから、仲間外れは魔族だけになったけど。」
エルフが敵対派というのは考えづらいだろう。
であれば、魔族か戦争中毒者か、若しくはその両者が手を取り合った組織なのかもしれない。
ディーナはそれらの要素を持たない筈だ。
敵対派との動機は一致しない。
「ところで月宮産の兵器はどうなったの?」
「万全よ。とりあえず射撃能力は奪っておいたわ。」
しかし全てではない。
横流しの総数と時期から考えれば、月宮産の兵器など敵対派の総兵力の内、雀の涙程度だろう。
さらに、向こうには『無限のエネルギー』が渡ってしまっている。
なんとしてでも咲が無かった事にしたい技術だ。
「今日は解散にしましょう。」
「入社式まではあと一週間もあるんだもの。ペース配分を間違えたら頓挫しちゃうわ。」
グローリアの締めによって二人は帰路に着いた。
やはり、思い返しても敵対派の上手い様に動き過ぎている気がする。
あちらが波に乗っているだけじゃなく、ペルメテリア側の調子も悪いのかもしれない。
一週間後入社式を越えて無事であることを祈りつつ、時間は過ぎていく。




