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相見える監督官

夜は更け、暗い空には散りばめた星が煌めく。


しかしその一方で地表よりも更に下層...星の光の届かぬ地底には人々が集う。


「今回の分だ。ここの鉱石をふんだんに使った『ペルメテリア産』の武器で良いな?」


「ああ、ここを潰すには...皮肉にもここ(ペルメテリア)で出来た銃器が一番良い。」


国境緩衝点、点と表するにはいささか規模が大きすぎる気がするが形容は帯でも面でも何でもよい。


境界線の定義を『全ての種族』が放棄することで争いの種を無くす場所、それが国境緩衝点だ。


ペルメテリア開拓公社は緩衝点の役割として、最も大きい規模の土地に建てられた。


隣接する種族は五ヶ所、これと並ぶ緩衝点はペルメテリア以外には後一ヶ所のみだ。


つまり、ペルメテリアは五つの種族が全く手をつける事にない、大きな土地の所有権を保持したと言ってもいい。


「揺らがせるようで悪いが...君はペルメテリアでまあまあ高い役職だろう?」


「それなのにこちら側に武力提供なんてしても良かったのか?」


「ああ...役職なんて括った所で所詮は上が見限った最底辺の課の長だ。」


「ここで埋没するよりも、寧ろ上がその価値に気づかなかった資源を活用する方がマシだろ。」


「活用ねえ...。君みたいな腐った奴のお陰で、こっちは着々と順番が進められるんだよな。」


手付かずの土地であったが故に誰にも価値がわからなかった資源があった。


地下で取れる鉱石。

名前すら無いそれは、新たなエネルギー資源足り得るものだった。


「腐ったか、まあ腐らせたここの奴らだ。」


「忘れてた、それでこっちが目玉だ。無限のエネルギーが欲しいとか言ってたよな?」


「いや、今回の取引はここにあるので全部だよ。『無限のエネルギー』とやらには興味があるがね。」


「...これは?小さい...なんだこれは?小指程のこれが無限のエネルギー源だって?」


「増殖機関だ。ここの従業員の職務過程で偶然生まれたのさ。」


「こいつを動力源にすればアラ不思議。取り付けられた器具は壊れないまま動き続ける。」


「...ほう、それが本当ならこっちの主戦力が大きく変わるな。」


「だろ? どうだい、あんたらの資本を全額はたいてもこれは手に入れる価値があるぜ。」


「全額か...末席の俺が決める訳には...。」


「そんな脅威を敵に渡すわけにはいきませんね。」


二人の会話を一人の少女が遮る。

たった一人、覚悟を決めた声が地下に響く。


彼女がほんの少し言葉を紡ぐと、巨大な光が彼女の背に起きた。


「まぶしっ...。」


「課長...。あなたが裏切り者ですね?」


光は見慣れぬ装いを纏った者を六名、そして特加専の課長を照らし出した。


「新人のエルフか。ああ、そうだった...昼間ドワーフが慌てて報告に来てたな。」


「『監督官のエルフ』にバレたかもしれないって。」


課長の声には今までのような優しさは微塵も感じられない。

武器を売って仲間を殺す、そんな悪逆に身を染めた者の声色だ。


「いつ分かった?」


「確信したのはたった今です。ですが、裏切り者候補はあなたが首席でしたよ。」


「ほう、仮雇用の新人にしては鼻が利く。そんなにボロが出てたか?」


「この課の評判が最底なのにも関わらず、それを拭おうとすらせず、むしろより下げようとしていたので。」


「私は見てきた管理職の者は、皆同じく功をあげようとするんですよ。」


一国の主たる根拠がそこにはあった。

思い返せば、課長の行動は地下炭鉱の不浄のみに貢献している。


地下炭鉱の浄化装置並びに機材の使用の管理を、埃が被る程怠っていた。

マニュアルも共有されていない。


今までの出来事をより詳しく見れば、多数の疑惑が浮かぶだろう。


「この地下炭鉱をドワーフのみが適合出来る環境に遷移させ、自分の功利を貪っていたんですね?」


「異常な仕事量も今思えば、私が地下に視察に行くことを妨害するためだったのかもしれません。」


「なるほど...いや、そうかそうか。」


「何故ペルメテリアを裏切ったのですか!」


課長は少し目を閉じて考え込むと平然と言葉を口にした。


「簡単さ、ペルメテリアじゃ俺の才能は埋もれるだけだからだよ。」


「小さい頃には『神童』や『天才』だのほだされてそだってきた。」


「自分でも周りの期待に応えるように努力を重ねてきた。」


「周りの奴らとは一線を画す、だなんて自負に酔っていたのは四年前までの話だ。」


四年前、課長がペルメテリアに入社した年だ。


「ここじゃあ俺みたいな才能の奴らはごまんと居やがる。そのせいで、能力が有ると思っていたのに、今じゃ外れの炭鉱の管理者止まりだ。」


「上を見上げずに、ただ周りよりも頭一つ抜けた環境に身を埋めていたらどれ程幸せだったか。」


「規格外のカースト制度で、最下層の任を請け負った奴はな...こうやってズル賢く生き延びるしか無いんだよ。」


「だから敵対勢力に兵器を横流ししたと...。」


「こいつらがペルメテリアを潰してくれるなら、俺はもう一度だけ井戸の中に戻れるんだ。」


「そうでなくとも、この癒着に掴んでさえいれば大海の波に溺れずに済む。」


ペルメテリアの優秀さが生んだ弊害だろう。


倍率139倍を通り抜けた才能ある者達は、今度はその先で自分の才能を今一度見つめる事となる。


そして、その才能が他者と比べて抜きん出たものでないのなら...ただの非凡に過ぎなかった神童のなれの果ては、いよいよ挫折を味わう事になる。


「お前だってよお、ペルメテリアの試験を切り抜けたんだ。きっと優秀なんだろう。」


「だが、裏切り者を暴いて思い上がったな。たった一人で、俺達を相手に出来る訳がない。」


彼らは全力でリンネを潰しにかかるだろう。

彼女は自分で口にしたのだ、『ここに来てやっと確信した。』と。


思惑を誰かに口にした可能性も捨てきれないが、少なくともリンネを消せば、裏切り者が暴かれるには時間が出来る。


「ここで死ねや、新人。」


「こんな所で死ぬわけにはいかないんですよ!!監督官リンネ、敵対対象7名を制圧します!!」


ペルメテリア特別棟...地下60m


暗礁が覆うこの世界で、リンネが相対する者は


地下炭鉱及び特殊加工専任工業課課長、及び敵対勢力(レジスタンス)6名


リンネを取り囲む6人は、手元の銃器を持つとすぐに引き金に指をかける。


「光球っ!出力増大!」


「眩め!!」


光球はそのサイズを一次元上のスケールに変えた。

ほんの僅かな時間だが、廻りの視界を奪い去る。


されど、六ヶ所で引かれた引き金は基本単位を百分の一秒に、弾丸が少女に向けられた。


到達するよりも早く少女は地面を蹴りあげて初段を回避。

跳弾と乱射を素早く選別。


さも重力などそこには無いように、彼女は四方の壁を順々に蹴ってその場を離れた。


「曲芸かよ...なんだ今の動き!」


星屑(エテオール)。」


小さな星の弾丸が敵対者を狙う。


光が彼らに到達するよりも早く、リンネは駆け出した。

対象は一人...課長さえ沈黙させれば裏切り者は膝を折る。


「撃て!撃て!」


段幕のカーテンが目の前に開かれる。

点で捉えれば穴だらけだ。


背面飛びで段幕を乗り越えて、着々と同時に隙間を通る。

あと数手で銃撃手(ガンナー)の指をへし折れる。


「避けるのは読んでるぜ。」


「なっ!?」


避けられて後ろで死んだ筈の弾丸がリンネの背中に標的を定めた。


星屑(エテオール)分裂(スプリット!)


咄嗟に魔力をちりばめて同じく星のカーテンを背面の防壁とした。


火炎(ファイア)!」


狭道、それも一本道では勝ち目が無いと踏んで壁を破って貯蔵庫への道を開く。


前転で距離をとると、そのまま壁を蹴って空中に跳ねる。


(立ち止まれば弾丸が撃ち込まれる...動いて距離をとるしかない!!)


「逃げ回ってばかりだな。曲芸が見飽きたよ。」


(別の銃器...?)


天と地が逆転した視界には、絶えず段幕を張る6人の後方で武器を構える課長の姿が映った。


射出された弾丸は、口径が大きい段幕のそれよりも一回り大きい。


(かわせる。)


そう直感した筈だ、現に新種の弾丸はリンネの顔スレスレをかすった。


が、速度を落としリンネの眼前で速度を消して滞空すると。


「あぐっ..ああ...。」


爆発した。


爆風を直接受けたリンネの身体は貯蔵庫の炭鉱への道に飛ばされた。


「これはな、魔力反応を感知するとその場で爆発するんだよ。」


「張ってる段幕はも同じだ。魔力反応を感知すると、その対象に追尾する。」


「そこで寝てると蜂の巣にされ」


「まずは一人。」


課長の横で銃器を携えた一人が、突然倒れた。


「そんだけ乱射すれば壁に弾が埋まるわ。だから、使わせてもらったの。」


「ちっ、まだだ!!」


そういって新しい兵器を手に取る課長と対照的にリンネは彼から距離を取る。


リンネは課長の後方に視線を向けると、側の壁に手を掛けて飛び

壁を跳ねて奥に向かった。


「あ?」


段幕の援護をしていた六名は、課長から離れた場所で銃器を包むと密会場から裏通路を走って逃げていたのだ。


いつ手渡されたのかわからないが、例の増殖機関とやらを手にして。


「逃がさないわ!!」


流星(メテオール),追跡(チェイス)!」


「よそ見してんじゃねえ!!」


課長の銃器が唸りをあげて弾丸を発する。

今までよりも早く...敵を粉微塵にする程大きな弾丸が。


(これが...ペルメテリア産の兵器。)


兵器の力を認めたからといって、彼女は退避を諦めた訳ではない。


中空で身体を捻り、弾道から身体を外す。

追尾式であったのなら追い切れない場所に身を置けば良い。


高速の弾丸は生物でなく炭鉱の壁に無数の穴を開けた。


「はあ...もう打ち止めかしら?」


膝折で着地して、一瞬地面を見ながら呼吸を整えて頭を上げた。


そこには、新しい銃器を手に持ってリンネに向けた課長が立っていた。


今までのよりも小さい。

課長は片方の腕を伸ばして、引き金を持つ手を支えていた。


「そんなもので私を撃てると?」


「今までののは所詮、ずぶの素人の設計で出来上がった試作品さ。」


「設計...まさか、あなたに依頼された設計図の完成品って!」


「兵器さ、誰かを傷付ける為の道具だよ。」


「じゃあその兵器は一体誰が作ったんですかっ? あそこに兵器を専門家がいるのですか!?」


課長は少し不思議そうな顔をして言った。


「何言ってるんだよ。この兵器はお前の設計図だよ。」


「面白い運命だよな。自分で作った兵器に自分が殺されるなんて。」


「作った本人に言うのもなんだがな...こいつの弾丸は避けられると思わない方が良い。」


「引き金を引いた瞬間にこの弾丸はお前の心臓を穿つ。」


「ここまでの完成品は見たことが無いよ...お前どこで学んだ?」


リンネは何も答えなかった。

うつむいたまま、彼女は呼吸を繰り返す。


「だんまりか。なあ、一つ提案なんだがな。」


「俺と一緒に銃器の横流しをする気は無いか? お前程の設計士なら、一流のモノが作れるぜ?」


「協力してくれるならこの引き金は引かない。どうだ?」


「...。」


「あ?もっと大きな声で言ってくれよ!!」


「悪行に手を貸す訳無いでしょ!!さっさと撃ちなさいよ!」


「ああ、そうか。惜しい人材だよ。」


リンネに向けた銃器の引き金が引かれ、空気を切るような音が暗闇に響いた。

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