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近付く監督官

帰り際は咲がずっと話続けていた。

彼女なりになにかを思い、私に配慮があったのかもしれない。


人になにかを思える心があったことを喜ぶと共に、話題に対しては彼女の人となりが垣間見得た。


「ドワーフ達にさあ、聞いてみたのよ。なんで道具を使わないのかって。」


「まず話を通せるドワーフが居たことに驚きですよ。」


「リンネの名前出したら快くお話ししてくれたわ。」


彼女はさも悪い事はしていないかのように話を続けた。


「そしたら揃いも揃ってあのドワーフ達は『手作業にこそ技術の渾身が込められる。機材に頼るようでは三流、伝統を受け継ぐことこそ~』って。」


「話してる内に熱が込もって来たんでしょうね、段々自分の物作り論を話し始めて、仕舞いにはあいつら輪になって必死に自分の思いを語ってんのよ。」


そう話す彼女は、余程その光景が面白かったのか思いだして笑っていた。


「笑いを堪えるのが大変だったわよ...アハハハハ!!」


「そんな意気込みで使われない道具の身になると、報われ無いですね。」


咲が炭鉱でどのような扱いを受けているのかは知っている。

彼女は新人で、それでいて非力だ。


加えて部外者、だからこそドワーフの国たる地下炭鉱では迫害に等しい扱いを受けていた。


だが、それも仮雇用から数日間の話。

帰り道で聞く限り彼女はもう、迫害の道を通り抜けたのだろう。


「...もしかして、咲さん。事あるごとに私の名前出してませんか?」


改めて考えると彼女の持つ武器はほぼ無いに等しい。

ならばどのようにあの状況を打破したのだろうか。


「あったり前じゃない。何かある度にリンネの名前をぶら下げて、事を大きくするぞって脅してるわよ。」


黙って居たことを彼女は私が了承した、と解釈したのだろう。

そもそも止めた所で私は奴隷だ、拒否権など持ち合わせていない。


日が沈む帰り道、誰もがうなだれる公車内で『あの薬を売れば儲けられるな。』と嬉々として語る咲を横目に私は眠りに落ちた。






シルヴィアの作る妖精族の家庭料理に喉を舌鼓を打ちつちその日の夕食は終わった。


共同スペースにはいつも通りリースとシルヴィアが話していた。

主人は部屋に込もって今日も何かを記しているようだ。


「リンネ、ちょっと散歩に行かない?今日は夜風が涼しいみたいだから。」


と思ったら丁度終わったようだ。

私は読みかけの書物を脇におき、賛同の言葉を返した。


リースの言葉による出送りを背中に受けて私達は外に出た。


「魔術を使う鍵って言ったらどういうのがあるの?」


ホールで階下に下る乗り物を待つ間に、彼女はそのような疑問を呈した。


「日記の内容が漏れない様にしたいのよ。」


「いつも書いてるには日記でしたか、中々殊勝な心掛けをお持ちで。」


「鍵...そうですね、例えば特定の魔術を作用しなければ開けられ無い錠ならありますよ。」


ちょうど目当ての乗り物が来たことで話は流れたが、彼女の目的の物に当てはまったようだった。


エントランスを出ると湿気った空気が体を撫でて、涼しい夜風が頬にあたる。

今日は良く寝つけそうだ。


咲の扇動で歩みを進める。

彼女に目的の場所があるのか、夢遊の旅であるのかはわからない。


「さっきの洞穴の話なんだけどね。」


しばらくの沈黙の後に、咲は口を開いた。


「地面に靴跡が残ってたわ。それも結構新しいの。」


「問題はその靴跡のサイズでね...ドワーフの体格から概算したものが幾つかと、その外れ値も散見されたわ。」


『裏切り者』の密会現場と見ても良いだろう。

気の弱そうなドワーフも関わっていたことには驚いたが。


...いや、違うな。


「ドワーフの靴跡と別のは同じ時間に出来た物なんですか?」


咲が口を開く前に問い尋ねた。

一瞬驚いたような表情をした後に、感心したような面持ち変わった。


「まあ...流石一国を回していたお姫様の目の付け所は違うと言うか。」


「ドワーフの方が新しい物だったわ。風速と窪みへの砂塵の堆積量から考えて...半日くらいの差違があったかな。」


ドワーフは恐らくあの密会現場の設営を『裏切り者』の指示で行ったはずだ、本来の意図を理解せずに。


誰にもバレない休憩所とかなんとか唆せば簡単に作る気がする。


そして、ドワーフの臆病性から考えるに、その指示は部外者ではなく監督官によるものだろう。


再び疑惑の範囲が狭まったことに安堵を覚えると共に、一つの可能性に目が行った。


果たして唆せる程作業士と関係が深い監督官が居ただろうか。

ドワーフが生半可な嘘で動くのだろうか。


絶対的な安全が確証されて始めて...悪事に取り掛かれるのではないだろうか。


「...ンネ、リンネ?どうしたの?ボーッとして。恋の病にでもかかったの?」


「は、はあーっ!?かかってませんよ!」


「あら、そう。で、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。」


「明日さ、炭鉱で作業士の注意を惹き付けてくれない? やっぱり私だけじゃ個人管轄の炭鉱は手が回せなくてね。」


「構いませんよ。朝っぱらからの方が良いですか?」


「お昼休憩からで良いわよ。」


ドワーフ達から話を聞くチャンスだ。

あの休憩所を作ったドワーフを見つければ、裏切り者にも繋がる。


「グローリアが来るまで後4,5日だったはず。それまでにあそこの浄化設備を戻さなくちゃね。」


当初の思惑通り、立場ある者に地下炭鉱の現状を見せるのだろう。

腐敗ではなく浄化後の姿を。


彼女が現場の腐敗に動き出しているのであれば、私もまた監督の責務を負うものとして、上の立場の腐敗は正さなくてはならない。


私は私の職務を全うする。

特加専の監督官として。

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