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空白に凹む犯人像

彼女の言葉が深く突き刺さった訳じゃない。

だって、矛先は咲の持つ技術に対してであり、咲自身ではないのだから。


きっとそうよ...ええ、きっと。


「あ、幸運ね。丁度会いに行こうと思ってたの。」


声の主は異彩を放つ、会いに行ける女王だった。


「ビーチュ...あ、そういえば、あなたのお陰で無事に入社出来たわ。ありがとう。」


彼女は戸惑ったような顔を表に出すと、少し嫌そうな口調で口を開いた。


「気にしなくて良いわ。」


感謝を伝えられる事に慣れていないのだろう。

ビーチュは手に小さな固まりを包み込んでいる。


「それなんですか?」


リンネも気が付いたのだろう。

指を指しながら尋ねた。


「あ、そうそう、これを渡しに来たの。」


はい、と言って差し出したものは、彼女に良く似た可愛らしい人形だった。


「ヤベえ奴じゃん。え?自分の人形を渡しに来たの?」


「違う、人形じゃないわ。ちゃんと私の一部よ。」


「増したわ、弁解出来てないじゃない。自分の体の一部を人形にしてるんでしょ?怖いんだけど。」


「はあ、やっぱりあげるの止めようかしら...。」


「私達が欲しがってる、みたいな言い方やめて。ビーチュってもっと理知的だと思ってたんだけど。」


「月宮さんにあげたい訳じゃないの。後ろのエルフにあげたいのよ。」


ビーチュは二、三歩踏み出すと、咲とすれ違ってリンネの前に立った。


「安心して。月宮さんが思ってるような危ない奴じゃないから。」


「リディニアで、速水が私と通信してたのは覚えてる?」


「ええ、はっきりと。」


「その手段がこれよ。小さな私、ミニビーチュ。」


リンネは困惑しているようだった。

無理もない、誰がどうみても危ない女に『小さな私』と言って人形を渡されて居るのだから。


「どうしてこれを私に?」


「リディニアでの功績...ああ、はいはい月宮さんのお陰よ、が認められて少しの間休暇を貰ったの。」


軽く咲をあしらうと、彼女は慎重な様子で言葉を続ける。


「だから、しばらくペルメテリアから離れるのだけど...万が一貴方の身に危機が降りかかった時の保険よ。」


「ねえ、それもしかしてビーチュの恩恵でしょ?」


咲の言葉を受け止めて、彼女は心底嫌そうに言葉を返す。


「正解よ。どうせ隠しても確信してるだろうから認めるわ。」


「”恋の病”に続いた合計3つの恩恵を暴いたあなたの所に、この人形を置くのは嫌だけど、リンネの為だから仕方ない。」


「これが恩恵?随分と可愛らしいんですね。」


「その子勝手に動くから気を付けてね。あと、気に食わない事あったら女子供容赦無く手出すから。」


「可愛くない...。」


「じゃあ、それを渡しに来ただけだから。今日も一日頑張ってね。」


なぜリンネにだけ甘やかす様になったのか、咲が気づく事はない。

彼女は本当にただ人形を渡す為だけに来たようで、すぐに去っていく。


「あ、そうだ。」


呼び止めた訳でもなく、彼女は独りでに立ち止まった。


「月宮さん、貴方と私が王城で出会った時、『リンネが襲われた』って言った事を覚えているかしら?」


確か...リンネが目を閉じてビーチュの腕で眠っていた時だ。

もやがかかったように記憶が無いが、これは数日前の記憶だ。


「言われて見れば程度だけど、覚えているわ。」


「じゃあ一つ教えてあげる。私の恩恵も関わるけど、まあ、あの女神に一杯食わせると思えば十分ね。」


「その記憶は、私の中にあったものではなく、ある一地点に置かれた人形が教えてくれたものよ。」


「つまり、『リンネが襲われた』という情報はほぼ世界中で失われていた。」


「転移者ですらその規模は不可能に近い、ならそんなメチャクチャが出来たのは女神に限られるわ。」


「そして、女神は月宮さんとリンネに出会った情報をこの世界から消すことを目論んだ。」


「貴方達、実は既に女神と出会っているのよ。あいつの目的がなんなのかは知らないけどね。」


彼女はそれを告げると、一方的に満足したように再び歩き出した。

手元から何かを落として馬車を展開すると、猛烈な速度で遠ざかる。


こちらから問い質す機会は一切与えられなかった。

あれ以上答えたく無かったのだろう。


「私達が女神と出会ってるって...そんな、まさか。」


「女神と出会ったことよりも、リンネにとって大きな収穫が一つ有ったわ。」


「え?」


「ビーチュは、まるで記憶阻害を起こす転移者がいるような口振りだったわ。」


「そうですね、『転移者ですらその規模は不可能に近い』と。」


「そして、私たちは少なくとも五年前に一度、火山の際にも一度、これを受けているのよ。」


リンネは悟ったようだ。

彼女の体が強ばっている様に感じる。


「忘れたことすら忘れさせる厄介な恩恵を持つ、あの噴火に関係する転移者が、恐らく...このペルメテリアに居るわ。」


「ここに居ないにしても転移者の中には確実に居る。」


容疑者は狭まったと言えよう。


「ビーチュにもっと聞ければ良かったんだけど。あの人はさっさと逃げちゃったし。」


「人形にもずっと呼び掛けてるんですが...全く反応がありませんね。」


「意図的に通信を切ってるんでしょう。リンネに危機が及べば、また会えるわよ。」


早起きは三文の得と言うが、彼女らが得た物は何者かによって消された自身の記憶だった。

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