炭鉱業務とマニュファクチャー
「はーい..ええここが、個人が担当する炭鉱なります。」
「わー!くっらいですね!!光源は自分で出すのですか?」
「そうですね。光球であれば普通誰でも使えますから。」
ニヤニヤと笑いながらリンネは頬を寄せた。
「ですってよ、咲さん。私の光球入ります?」
「それが無いせいで、私午前中ずっと真っ暗闇で過ごしてたのよ。」
リンネの方を一瞥すると、ドワーフは言葉を続ける。
「で、このつるはしでですね...こうっ。」
カキンという小気味良い音が響くと、小さな石塊が欠けて落ちた。
「こちらが鉱石になります。今回は試用なのでこのサイズですが、本来は...こちらの篭がいっぱいになるまで掘ります。」
「大体どれ程の時間がかかるんですか?」
「熟練度が高ければ...大体二時間ちょっとでしょうか。午前中に一篭貯めれば早い方です。」
なるほど、とこぼしつつ鉱石を掴む。
元の世界では知らないものだ、この世界原産だろう。
演算処理で硬度を解析、構成物質をおおかた推測した。
「では、次は加工場に移ります。危険ですので、普段監督官の方は立ち入られ無いのですが、如何します?」
リンネの裾を軽く引っ張る。
当然、というような顔をこちらに向けるとドワーフに向き直った。
「ええ、訪ねさせて頂きます。」
この短時間でリンネへの借りが積み重なっている気がするが気にしない。
「こちらが加工場になります。非常に高い濃度の砂塵、及び鉱石の加工過程において出される物質が犇めきます。」
淡々といい放つドワーフは慣れているようで、咳一つしなかった。
代わりに
「ゲホッゲホツ!!ゴホッゴホッオエッ!」
「ちょ、ちょっとリンネさん?あなたそんな声出したらダメよ?」
「ですがっゲホッ!咳が止まらゴホッゴホッゴホッ!」
手元に布製のマスクを作る。
素材はリンネが来ている制服の繊維。
「咲さんはなんで無事」
「これ、あげる。」
「なんですか...ってなんです?これ?」
「耳に掛けるのよ。私がやっているみたいにね。」
簡易的なマスクだった。
リンネの反応とドワーフの現状を見る限り、『マスク』という道具が無いのかも知れない。
いや、そうなら万々歳なのだが...あり得るのだろうか、そんな事が。
「加工場では、先ほど掘ったこちらの鉱石を...こうっ、軽く砕いて内部を露出させます。」
「そして、今度はこちらの容器に容れ...あちらの奥に紅い光が見えますか?」
ドワーフの指差す先には高炉のような設備が見えた。
「ええ、はい。見えます。」
「...その中にこの容器を入れて...融かして、鋳型に入れるのが一連の動作になります。」
何度か不思議な合間があったが、リンネは気にしていないようだ。
言葉にすら注意を向けないのだから、ドワーフの視線が胸元に突如空いた大きな穴に向けられているとは微塵も思っていない。
「このような小さな鉱石では雀の涙程度ですが、篭いっぱいだとこちらの鋳型が満たされます。」
「あの篭の大きさで得られるのがこのサイズなんですね。」
「純度を高めるためには仕方のないことです。」
鉱石の加工段階が、あのような手芸によるものであればもう少し高い純度が得られる気がしたが。
どうせそう言っても、こいつらは聞きやしないし、逆に怒鳴られる気がしたので言わない。
「で、冷めた物がこの...これはレプリカですがインゴットになります。」
レプリカが用意されている辺り、元々はまともな研修があるのだろう。
「咲さんっ、さっきからずっと黙っててどうしたんですか?」
「いや...魔術があるのに嫌に手作業に頼ってるなって思って。」
「確かに、砕くだけであれば簡単な魔術のコントロールで上手くいきそうですね。」
リンネが居ることに今日だけで何度感謝の念を抱いただろうか。
決して口にすることは無いが、このエルフは本当に良く周りを見ている。
頭の回転が早い事と行動力があることも相まって、彼女はすぐに疑問をドワーフに尋ねるのだった。
「魔術やスキルは使わないのですか? ドワーフには固有スキルがありますよね?」
「御存知でしたか。確かに、生まれ持ったスキルを使いこなせれば有用ですが、何せその過程を頭に思い浮かばねばなりませんから。」
「我々のような職人気質な人間には、一つ一つ丁寧な手作業の方が早いのです。」
自分で職人、などと言う当たりこの職場がどういう場所かの推察がついた。
そして、ドワーフのこぼしたスキルの用途手順に引っ掛かる物があった。
「あの...そのスキルとは一体どのようなものですか?」
咲は初めて口を開き、自分で問いただした。
勿論ドワーフの対応は不躾で酷いものだったが。
「製造だよ。製造業っていうジョブの固有スキルさ。」
瞬時にリンネとエルフは顔を見合わせた。
その名前は、五年前から咲の武器として役立った旧友の物だった。




