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不浄不明の地下炭鉱

「リースさんの言う通り特別棟に行けば良いんですよね?」


そう言葉を発するリンネの表情は明るくない。


不安の影に覆われている事も無理はない。


二人の乗った公社馬車は、浮足だった者らで満杯だった。

しかし、一駅一駅進むに連れて人は少なくなっていき...


果てにはリンネと咲、あとは厳つい雰囲気の者らが残された。


外の景色は清らかな水気を含み、若葉の匂いを辺りに染み込ませる草原が何処までも広がっている。


ペルメテリアの中で見た都市部のような光景は、もうその姿を隠していた。


しばらく経って小さな影がポツリと視界に現れる。

ペルメテリアを訪れた時と同様、それは次第に明確な色彩を帯始め、全容が見える頃に馬車は止まった。


緩急無きパノラマ、それが特別棟を取り囲む。


何かの病を治すために僻地に拓かれた病棟の如く、門はそんな場所に開かれていた。


ここまで共に乗ってきた者らは門をくぐって特別棟に入っていく。

咲とリンネはそれに続いた。




ひっそりと置かれた受け付けの前で立ち止まる。


「おはようございます。昨日採用され、こちらに配属された月宮と申します。」


「おはようございます、仮雇用ですね。少々お待ちください。」


「はい、確認致しました。それでは、月宮さんはこちらの作業服に着替え、そのまま地下に向かってください。」


「リンネさんは監督官ですので、業務内容についての説明があります。二階に上がり、誘導に従って下さい。」


そう言うと、受付は咲にカーキ色のツナギと名札を渡した。


「地下と二階、ここでしばしのお別れね。」


「ええ!咲さん!互いに頑張りましょうね!」


リンネは軽やかな足取りで、窓からの光に照らされ輝く階段を登って行った。


「着替え...。そうだ。」


再び受付の前に立つ。


「更衣室はどちらですか? 先ほど聞き損ねていたので。」


確か...と受付はこぼした後、ここから右奥に歩けば見つかる、とだけ返した。


そして、その通り更衣室は見つかった。

一区画だけだが。


「だ、男女で別れて無いんだ...ま、まあ気にしないけどね。」


自分を納得させる様に言い聞かせると、空いていた籠に制服を畳み、ツナギに衣を替える。


ロッカーなどの仕切りではなく、銭湯の脱衣場のような更衣室で有った事も不安を加速させた。


薄暗い階段を下りる、段差を下れば下るほど下からの音は大きくなっていく。




「ゴフッゴホッ...ここは、一体...。」


地面を鳴らすは、どのように運び入れたのか不明、用途不明の重機。

空気中には砂塵が舞い、一息深呼吸すれば肺隅々に入り込むだろう。


忙しなく動き回る一人を捕まえる。

一見すると、人間では無いように思える、かといって他の知っている種族でもない。


「おはようございます、本日こちらに仮雇用され」


「ああ!?聞こえねえ!!もっと大きな声で行ってくれ!!」


「おはようございますっ!!!本日こちらに仮雇用された月宮です!!」


「今年は一人か!よし、着いてこい!!」


いそいそと歩みを進める大男? に着いていくと、数歩で止まった。


「返事は!?」


「は...はいっ!!」


ペルメテリアに来るんじゃなかった、と後悔してももう遅い。

彼女の新生活は始まってしまったのだから。


必死に腕を口に当てて、呼吸の量を少なくする。

マスクを作ろうと思ったがその材料は無いようだ。


重機が置かれた広い空間から人一人通れるような狭い通路に向かう。


光すら灯されず、ほぼ真っ暗な地底世界の片隅で大男は止まった。


「ここがお前の区画だ!!!ここから掘り進めろ!!」


「掘り進めろ...て、道具はないんですか!?」


「事務所に行けばなにかしら貸与して貰える!無ければ素手で掘り返せ!」


他にも尋ねたい事がいくつか有ったが、大男は既に通路を出てしまっていた。


『掘り進める』という動作以外は、何も命じられなかった。

暗闇の中で、咲は一人残された。


側にエルフが居ない事が、不安感を増幅させた。




「事務所...事務所はどこ?」


咲はまず、大男の言っていた事務所を探した。

道具が無ければ何も出来ないからだ。


重機が動く現場から離れた場所に、白い光球に照らされた小さな部屋が見えた。


「おはようございます!!こちらは事務所であっていますか?」


「こちらは事務所であっていますが...どちら様ですか?」


「あ、えっと、本日から仮雇用でこちらに配属された月宮です。道具を借りに来ました。」


「ああー、仮雇用ね。じゃ、ここに名前を書いて。裏口に道具が一式あるから持っていって良いよ。」


窓口の男は、先程の大男と同じ種族のようだ。


一つ違うとすれば、言葉の節々から気だるさが感じられるほど抑揚の無い口調であることだ。


名前をさっさと書き留め、裏口に向かおうとすると呼び止められた。


「ちょいちょい、月宮。道具は良いけど、業務内容は知ってるのか?」


馴れ馴れしさが耳についたが素直に言葉を返す。


「通路を掘り進めるんですよね?」


「はー...違うよ。そんな事勝手にされて事故でも起きたらどうすんだよ。」


知らねえよ、言われたままの事を言っただけなんだから

それに落盤より先に処理することがあるだろ


とは言わずに飲み込んだ。


「ここの業務はね、炭鉱を掘り進めて採掘、そして加工、運搬。そう言うのを行うの。」


「採掘って...何を掘るんですか?」


「そこからかあ...なんで君ここに配属されたの?」


咲が一番知りたい質問に答えられる訳がない。


「ははは...。」


愛想笑いで黙ったまま乗り切った。


「まあ、採掘するのは鉱石だよ。掘ってみて出てきたのは、とりあえず確保しておけば良い。」


「で、一通り採掘したら、今度はそれを加工場に持っていって他の用途に使える様に純度を高める。」


インゴット、という事だろうか。

咲は少しだけ、この職場がそう苦しくなさそうだと予感した。


「あとは貯蔵庫に持っていく。これが地下たんこうでの仕事。」


「聞いてる?」


「え?ええ、はい!」


「ええ、じゃねえよ。聞いて無かっただろ。ふざけんなよお前!」


驚嘆の声すらあげられなかった。

業務内容を聞いていたら、いつのまにか怒られていた。


「す、すみません!!」


「ああもういいわ。やる気削がれたからもういいわ。」


彼のやる気を削いでしまったようだ。

これでは情報を得られない、だが道具は借りる事ができた。


形では謝罪もしたことだし、ここでの用事が終わったと咲は思っていた。


その直後に踵を返したことは、彼女にとって当然の行動だった。


「ゴホッゴホッ...。」


会話をしたからか先程よりも咳が酷くなっていた。

この兆候は、砂塵の濃度だけではない気がする。


「おい、お前なにか言うことがあるんじゃないか?」


裏口に置かれた道具を漁っていると、扉が開き声をかけられた。


「え...?お借りします...?」


「お前マジでいい加減にしろよ?」


大男は咲に顔を近付け威嚇する。

なにか喚いていたが、重機の音がでかすぎて全く分からなかった。


呆けていると、一頻り大きな声をだして満足したのだろう。


「業務に戻れ!」


その言葉を残して事務所に戻っていった。

直後、一人の大男が騒ぐを聞き付けて駆け寄って来た。


敵味方という思いもなく、へたりこんで座った咲はその大男顔を合わせる。


「お前、なんでゲンさんを怒らせた?」


「わ...わかりません...。」


その時、初めてリースが言っていた事を理解した。

『環境も衛生も職場上最悪レベル』


なぜ同じような言葉が並ぶのかと思ったら、こういう事だったのだ。


職場環境が最悪、咲はものの数十分でそれを味わう事となる。

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